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第40話 「女王と女王」

【ROUND 4 WINNER:名城葉月高校】


スコアは、2対2。 神田部長の答えがもたらした奇跡の一本で、僕たちは、ついに絶対王者に追いついた。 部室の空気は、これ以上ないほど張り詰めている。山田君も、高橋さんも、佐藤君も、全員が、ゴクリと唾をのんで、画面の向こうの好敵手を見つめていた。


画面の向こうの、聖フローラ女学院。 女王・姫宮莉緒の表情からは、もう完全に余裕の色は消えていた。彼女は、僕たちを、初めて本物の「敵」として、その鋭い目で見据えている。


やがて、画面に、運命の最終ラウンドのお題が表示された。 それは、これまでで最も静かで、そして、最も深いお題だった。


お題:『捨てられたぬいぐるみが、最後に思い出した、たった一つの記憶とは?』


先攻、聖フローラ女学院。 答えるのは、リーダー・姫宮莉緒以外の、少しおっとりした雰囲気のメンバー、西園寺さいおんじ かえでだった。 彼女は、可愛らしく、しかし少し哀愁を帯びた声で答える。


「持ち主の女の子が、眠れない夜に、私の耳をずっと『ハムハム』していたせいで、右耳だけ、ちょっと味がすること」


その、あまりにも愛おしく、具体的な「記憶」。 部室の僕たちは、思わず、フッと笑ってしまった。 完璧な答えだった。結果は、【聖フローラ女学院:8点】。 見事な一本。僕たちは、またしても崖っぷちに追い詰められた。


後攻、名城葉月。 もう、後がない。 この、絶体絶命の状況で、神田部長は、静かに、一人の名前を呼んだ。


「――高橋」


全員の視線が、彼女に集まる。 高橋さんは、一度、静かに目を閉じた。彼女の頭脳が、この局面で、最も鋭利な答えを導き出す。 そして、彼女は、一切の感情を見せず、冷徹に、しかし、はっきりと答えた。


お題:『捨てられたぬいぐるみが、最後に思い出した、たった一つの記憶とは?』


「持ち主の女の子が、私をゴミ袋に入れながら、スマホのフリマアプリで『次のオモチャ』を検索していた時の、冷たい指の感触」


その、あまりにも現代的で、あまりにも残酷で、そして、ぬいぐるみの「記憶」として、完璧な説得力を持つ答え。 部室は、爆笑ではなく、その答えの鋭利さに、一瞬、凍りついた。


画面の向こうの、聖フローラ女学院。姫宮莉緒は、その答えの「深さ」と「完璧さ」に、思わず息を呑んだ。


投票タイム。 僕たち葉月高校のメンバーはもちろん、画面の向こうの、聖フローラ女学院のメンバーも、全員が、何かに心を掴まれたように、投票ボタンを押した。 姫宮莉緒も、呆然とした顔で、そして、何かを認めるように、そっとボタンを押したのが見えた。


結果は――【名城葉月高校:9点】。


満票だった。


【MATCH WINNER:名城葉月高校】


スコア、3対2。 僕たちは、勝った。


画面の向こうで、姫宮莉緒が、初めて、心の底からの、清々しい笑顔を見せた。「…完敗ですわ」。


その言葉を合図に、僕たちの張り詰めていた糸が、ぷつりと切れた。


最初に、誰かが、フッと息を吐くように笑った。 それが伝染するように、山田君が「うおおおお!」と、椅子から転げ落ちるように立ち上がり、高橋さんは机に突っ伏して、声を殺して肩を震わせ始めた。佐藤君は、「…ったく、心臓に悪ぃ」と、顔を隠すように俯いた。


それは、涙ではなかった。 涙よりもずっと、僕たちらしい、どうしようもなく、ぐちゃぐちゃで、最高の勝利の音だった。


部室に、僕たちの、雄叫びが響き渡った。 僕たちは、確かに、甲子園への、二歩目を踏み出したんだ。

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