第38話「噺家の本気」
【ROUND 2 WINNER:聖フローラ女学院】
画面に表示された文字が、僕たちの作戦が完全に失敗したことを告げていた。 スコアは、0対1。ついに、リードを許してしまった。
部室の空気は、第一ラウンドが終わった時よりも、さらに重い。 「…なんだよ、あいつら。可愛いだけじゃなかったのかよ…」 山田君が、呆然と呟く。高橋さんも、悔しそうに唇を噛んでいた。 僕たちの「塩対応」を、彼女たちは、さらに鋭利な刃で、正面から叩き斬ってきたのだ。
神田部長が、静かに言った。 「…塩対応は、もう終わりだ。ここからは、俺たちの本気を見せる。――正面から、殴り合うぞ」
その言葉に、僕たち四人は、力強く頷いた。 そうだ。もう、小細工は通用しない。僕たちの、全力の「面白い」を、ぶつけるだけだ。
画面に、第三ラウンドのお題が表示される。
お題:『別れ話の最後に、彼氏が彼女に渡した、謎すぎるプレゼントとは?』
先攻、聖フローラ女学院。 答えるのは、もちろん、女王様・姫宮莉緒。 彼女は、僕たちを挑発するように、冷たい笑みを浮かべて、こう言った。
「今まで、二人で行った、全てのデートの請求書ですわ」
その、あまりに夢がなく、あまりに現実的で、そして、最高に意地悪な答え。 僕たちは、唸った。「うわ、性格悪…」「でも、面白い…!」 結果は、【聖フローラ女学院:8点】。またしても、見事な一本だった。 スコアは、0対2。相手に、王手をかけられてしまった。
後攻、葉月高校。もう、後がない。 この、絶体絶命の土壇場で、手を挙げたのは、意外な男だった。 今まで、黙って戦況を見つめていた、佐藤大輝。
彼は、ゆっくりとマイクをオンにすると、静かに、語り始めた。 それは、いつもの大喜利の答えとは、少しだけ違った。まるで、落語の噺家が、一つの情景を描写するような、静かな口調だった。
お題:『別れ話の最後に、彼氏が彼女に渡した、謎すぎるプレゼントとは?』
「…男は、別れを告げられても、何も言わなかった。ただ、カバンの中から、分厚い封筒を取り出して、テーブルの上に置いた」
彼は、そこで一度、息を吸った。 部室も、画面の向こうも、彼の創り出す空気に、完全に引き込まれていた。
「『今まで、お前に奢ってもらったメシ代だ』。…中に入っていたのは、几帳面に計算された、1円単位までのレシートの束だった」
部室は、静まり返っていた。 最初に、吹き出したのは、山田君だった。 「だっせええ!でも、なんか、すげえ!」 高橋さんも、こらえきれずに笑っている。「…本当にいそう、そういう不器用な男」
姫宮さんの、冷徹でドライな「請求書」に対し、佐藤君が提示したのは、あまりにも不器用で、人間臭くて、そして、最高に情けない男の姿だった。 画面の向こうで、姫宮莉緒の、あの勝ち誇ったような笑みが、消えていた。 彼女は、呆然と、こちらを見つめている。
投票タイム。 僕たちは、もちろん、全員がボタンを押した。 そして、画面の向こうの、聖フローラ女学院のメンバーたちも、数名が、心を動かされたように、そっとボタンを押していた。姫宮さん自身も、悔しそうに、でも、どこか感心したように、ボタンを押したのが見えた。
結果は――【名城葉月高校:8点】。
一本。 僕たちは、土壇場で、一本を取り返した。
【ROUND 3 WINNER:名城葉月高校】
スコアは、1対2。 僕たちは、笑いと、そして哀愁に満ちた「物語」の力で、女王様の心を、確かに揺さぶったのだ。




