第36話 「アイドルへの塩対応」
予選二回戦、当日。 部室に集まった僕たち葉月高校大喜利部の顔には、笑顔は一切なかった。あるのは、これから始まる任務への、静かな決意だけ。 オンライン対戦用のビデオ通話に接続すると、画面の向こうには、聖フローラ女学院の五人が、完璧な笑顔で手を振っていた。
「聖フローラ女学院です! よろしくお願いします、ニャン♪」
対して、僕たち五人は、打ち合わせ通り、無言で、深く、一度だけお辞儀をした。 神田部長が、低い声で「…名城葉月です。始めましょう」とだけ告げる。 画面の向こうで、フローラ女学院のメンバーたちの笑顔が、ほんの少しだけ、こわばったのが分かった。
やがて、画面に、第一ラウンドのお題が表示される。
お題:『童話「シンデレラ」。舞踏会で、王子様が、シンデレラより夢中になってしまった意外なものとは?』
先攻は、聖フローラ女学院。
リーダー格の女子生徒が、自信満々の笑顔で答える。
「(全員で、ガラスの靴をうっとりと眺めるポーズをしながら)…シンデレラが落としていった、ガラスの靴の、キラキラです!」
完璧な、アイドルとしてのパフォーマンスだった。 しかし、僕たち葉月高校のメンバーは、誰一人、表情を変えない。ただ、無表情で画面を見つめているだけだ。
投票タイム。僕たちは、事前に打ち合わせた通り、誰一人、投票ボタンを押さなかった。 結果は、
【聖フローラ女学院:4点】。(フローラ女学院のメンバー4票のみ)
予想外の低得点に、彼女たちの間に、初めて動揺が走る。
後攻は、葉月高校。答えるのは、作戦の要である、高橋栞。 彼女は、一切の感情を見せず、淡々と答えた。
お題:『童話「シンデレラ」。舞踏会で、王子様が、シンデレラより夢中になってしまった意外なものとは?』「舞踏会に、カボチャの馬車で来たのなら、当然、そのカボチャの『種』も、どこかに落ちているはずだ、と。王子は、来年の収穫に向けて、優秀な種子を確保することに夢中だった」
投票タイム。僕たち葉月高校は、全員が投票する。フローラ女学院は、その無機質な答えに困惑し、誰も投票できない。結果は、
【名城葉月高校:4点】。
そして、作戦の第二段階。 高橋さんは、自分のノートを開くと、淡々と、先ほどのフローラ女学院の答えを「分析」し始めた。
「…先ほどの回答、『キラキラ』は、抽象的すぎて、評価が困難です。パフォーマンスへの依存度が高く、回答単体での面白さが担保されていません。再現性に乏しいかと」
その、あまりにも冷徹な分析に、フローラ女学院のメンバーたちは、完全に凍りついていた。
【ROUND 1:DRAW】
結果は、引き分け。 しかし、精神的なダメージは、明らかにフローラ女学院の方が大きかった。 彼女たちの武器である「愛嬌」と「パフォーマンス」が、全く通用しない。
それどころか、「分析」という名の刃で、切り刻まれている。 画面の向こうで、彼女たちの完璧な笑顔は、完全に消えていた。 神田部長の、狂気の作戦は、見事に成功した。




