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第33話 「最後のパス」

【ROUND 4 WINNER:名城葉月高校】


山田君の雄叫びが、部室に響き渡る。 僕たちは、彼に駆け寄り、頭をぐちゃぐちゃにかき混ぜた。絶体絶命のピンチを、この男の、渾身の一撃が救ったのだ。


スコアは、2対2。勝負は、運命の最終ラウンドへ。 部室には、これ以上ないほどの、張り詰めた緊張感が満ちていた。 全員の視線が、モニターに釘付けになる。


画面に、最終第五ラウンドのお題が表示された。 それは、これまでで最も難解で、そして、深いお題だった。


お題:『AIが、人類最後の生き残りに、初めてついた「嘘」とは?』


重い。あまりにも重いお題だ。人類最後の生き残り。AI。嘘。 先攻の愛工大附属が、しばらく沈黙した後、渾身の答えを放つ。 それは、AIの持つ膨大な知識を逆手に取り、生き残りの少年に「希望」ではなく「絶望的な真実」を伝えるという、非情な、しかし、見事な答えだった。


結果は、【愛工大附属:7点】。


一本! 愛工大附属が、王手をかけてきた。


後攻、名城葉月。 神田部長が、全員を見回す。そして、ゆっくりと、僕、桜井誠を指名した。 「――アンカーは、お前だ。桜井」


僕の心臓が、大きく跳ねる。プレッシャーで、頭が真っ白になる。 (ダメだ、何も思いつかない…!) 僕が俯きかけた、その時だった。


(…落ち着け、桜井誠。分析しろ。僕の武器は「発見」だ。閃きを待つな。見つけ出すんだ)


僕は、ぎゅっと目を閉じて、頭の中で、お題を分解し始めた。 お題は、


『AIが、人類最後の生き残りに、初めてついた「嘘」』。


まず、目に入る要素は三つ。「AI」「人類最後の生き残り」「嘘」。 (「人類最後の生き残り」…これは、状況設定だ。この設定の中で、AIが「嘘」をつく。だとすれば、この「最後」という状況が、AIのつく「嘘」の質を規定するはずだ…)


僕は、思考の焦点を、最も動きのある二つの要素に絞り込んだ。 「AI」と、「嘘」だ。


まず、「AI」のあるあるを、頭の中にリストアップしていく。・高性能で、人間より賢い。

・論理的で、感情がない。

・でも、なんかみんなが持ちたがる。スマホとか、家電とか。便利だから、「AIっていいよな」って、みんなが当たり前のように口にしてた、そんな時代があったはずだ…


次に、「嘘」のあるあるをリストアップする。・自分を守るための嘘。

・相手を傷つけないための、優しい嘘。

・誰かに、何かを「信じさせる」ための嘘。


リストアップした要素を、僕は、頭の中で、一つずつ、組み合わせていく。


(人類最後の生き残りにとって、最も優しい嘘とは?)

(真実を伝えるのは、優しさではない。絶望させてしまうだけだ)


(なら、AIは、少年が「独りじゃない」と思えるような嘘をつくべきだ)


(でも、AIが、孤独な少年に、どうやって「独りじゃない」と思わせる嘘をつく?)


その時、僕の思考は、ある一点に収束した。 AIが、この、何もない世界で、少年を独りにしないための「嘘」。 それは、「みんなが生きている前提」を、つくる嘘だ。


――見つけた。 これしかない。


僕は、ゆっくりと目を開けた。その目には、もう迷いはなかった。 そして、静かに、しかし、はっきりと答えた。


お題:『AIが、人類最後の生き残りに、初めてついた「嘘」とは?』


「『AIって、いいよなぁ』ってみんな言ってましたよ。」


その、あまりにシンプルで、あまりにも「あるある」な、そして、切なくも優しい「嘘」。 そこには、少年がかつて生きていた、賑やかで、誰もがAIの恩恵を享受していた、そんな「普通」の世界が凝縮されていた。 少年は、その言葉を聞いて、「自分は独りじゃないんだ」と、一瞬、信じたのかもしれない。


部室は、静まり返っていた。山田君も、高橋さんも、息を呑んだまま、画面を見つめている。 画面の向こうの、愛工大附属のメンバーたちも、ただ、呆然と、こちらを見ていた。 彼らの顔に浮かんでいたのは、悔しさではない。完全に、心を動かされた、そんな表情だった。


投票タイム。 僕たち葉月高校のメンバーはもちろん、画面の向こうの愛工大附属のメンバーも、全員が、一票の重みを噛み締めるように、投票ボタンを押した。


結果は――【名城葉月高校:9点】。


満票だった。


【MATCH WINNER:名城葉月高校】


スコア、3対2。 僕たちは、勝った。


画面の向こうで、リーダーの権田が、清々しい顔で、僕たちに向かって、深々と頭を下げた。 「…完敗だ。最高のセッションだった」 その言葉に、僕たちは、熱い興奮と、確かな手応えを感じていた。


部室に、僕たちの、雄叫びが響き渡った。 僕たちは、確かに、甲子園への、最初の一歩を踏み出したんだ。

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