第32話 「王手」
【ROUND 3:DRAW】
画面に表示された文字を見て、両チームの間に、初めて、言葉にならないリスペクトの空気が流れた。 愛工大附属のリーダー、権田が、画面の向こうで、初めて、ほんの少しだけ、楽しそうに笑ったのが見えた。
スコアは、1対1。先に三勝した方が勝利。残りは、二ラウンド。 先に一本を取った方が、勝利に「王手」をかける、極めて重要な局面だ。
画面に、第四ラウンドのお題が表示される。
お題:『宇宙人と野球で勝負。意外すぎるルールを追加して、地球人がなんとか勝った!どんなルール?』
先攻は、愛工大附属。答えるのは、権田とは違う、少し小柄な、いかにも技術屋といった雰囲気の男だった。 彼は、平坦な口調で、こう答えた。
「ルール:『ピッチャーが投げるボールは、必ず、QRコード柄でなければならない』。
理由:『動体視力が良すぎる宇宙人は、回転するQRコードから、大量の無意味な情報(広告サイトのURLなど)を読み取ってしまい、脳の情報処理が追い付かず、バットが振れなかった』」
その、あまりに理系的で、ひねくれたルールの抜け道。 僕たちは、唸った。「すげえ…」「そんな勝ち方が…」 投票タイム。僕たちは、その発想力に敬意を表し、全員がボタンを押した。 結果は、
【愛工大附属:8点】。
見事な「一本」だった。
【ROUND 4 WINNER:愛工大附属】
スコアは、2対1。
ついに、相手に王手をかけられてしまった。もう、後がない。
部室に、重い空気が流れる。 この、絶体絶命の土壇場で、神田部長は、意外な男を指名した。
「山田、行け」
「え、俺っすか!?」
この一番プレッシャーのかかる場面で、ムードメーカーの彼を送り出す。それが、部長の決断だった。 山田君は、ゴクリと唾をのむと、一度だけ、僕たち四人の顔を見回した。 そして、覚悟を決めたように、大きく息を吸って、叫んだ。
お題:『宇宙人と野球で勝負。意外すぎるルールを追加して、地球人がなんとか勝った!どんなルール?』
「『三塁ベースを踏んだ後、必ず、一度、ベンチにいる監督と熱い抱擁を交わしてからじゃないと、ホームベースを踏んではいけない』!」
その、あまりにも人間臭く、あまりにもバカバカしいルール。 感情表現が苦手そうな宇宙人が、三塁ベースを踏むたびに、監督とぎこちない抱擁を交わし、その隙にタッチアウトになる光景が、目に浮かぶようだった。
その答えに、最初に吹き出したのは、画面の向こうの、愛工大附属のメンバーだった。 リーダーの権田も、腹を抱えて笑っている。 もちろん、僕たちも、全員が、涙を流しながら投票ボタンを連打していた。
結果は――
【名城葉月高校:9点】
満票。 完璧な「一本」返しだった。
【ROUND 4 WINNER:名城葉月高校】
「うおおおおおお!!!!」
山田君が、雄叫びを上げた。僕たちは、彼に駆け寄り、頭をぐちゃぐちゃにかき混ぜた。 絶体絶命のピンチを、この男の、渾身の一撃が救ったのだ。
スコアは、2対2。 勝負は、運命の最終ラウンドへ。 部室には、これ以上ないほどの、張り詰めた緊張感が満ちていた。




