第29話 「第一ラウンド」
僕たちの、甲子園への道が、今、始まった。 画面の中央に、無機質な文字で、記念すべき第一回戦の、最初のお題が表示される。
お題:『超満員のライブ会場。演者が一曲も歌わずに、観客を満足させて帰らせた。一体何をした?』
先攻は、愛工大附属。 答えるのは、いかにもリーダー格といった、体格のいい男子生徒だった。 彼は、腕を組んで少しだけ考えると、無骨な、しかし、自信に満ちた声で答えた。
「ステージ中央に置かれた、ひと巻きのプチプチ。それを、演者が、マイクを通して、一粒ずつ、二時間かけて全部潰した」
その、あまりにも壮大で、あまりにもバカバカしい光景。 一瞬の静寂の後、僕たちの間から、こらえきれない笑いが漏れた。
「なんだそれ!」
「地獄かよ!」
「でも、ちょっと見たい…!」
投票タイム。
僕たちは、素直な賞賛と共に、全員が投票ボタンを押した。
画面に表示された得点は
【愛工大附属:8点】。(愛工大附属4票+葉月4票)
いきなりの「一本」には届かなかったが、8点という高得点。 先攻として、完璧なジャブを打ち込んできた。部室に、再び緊張が走る。
「…次、後攻、名城葉月高校。どうぞ」
後攻、僕たち。 この重要な局面で、神田部長は、静かに僕、桜井誠を指名した。 僕の心臓が、大きく跳ねる。でも、不思議と、恐怖はなかった。 背後には、信頼できる仲間がいる。そして、僕の手の中には、「発見」という武器がある。
(相手の答えは、人間性を排した『無機質な面白さ』だった。なら、僕は、会場の全員を巻き込む『一体感のある面白さ』で勝負する)
僕は、観客たちの心の中に、答えを「発見」した。 そして、静かに、しかし、はっきりと答えた。
「前奏が流れ始めて、一言、『エビバディセイッッ!』と言ったまま、フルコーラス観客に歌わせた」
その答えが放たれた瞬間。 山田君と高橋さんが、同時に「あー!」と声を上げて、手を叩いた。 そうだ。その手があったか、と。
演者が歌わなければいい。観客が歌えばいいんだ。その、あまりにシンプルで、あまりに鮮やかな発想の転換。
画面の向こうの、いかつい顔をした愛工大附属のメンバーたちも、こらえきれずに「やられた」「うめえな…」と唸っているのが見えた。 そして、投票タイム。
画面に表示された得点は――
【名城葉月高校:9点】
満票。 完璧な「一本」だった。
「「「うおおおおおお!!!!」」」
僕の後ろで、仲間たちの、地鳴りのような歓声が上がった。 僕も、思わず、ガッツポーズをしていた。
第一ラウンド、WINNER、名城葉月高校。 僕の放った答えが、僕たちに、記念すべき最初の勝利をもたらした。




