第28話 「開幕、愛知県予選」
高橋さんが、自分の意志で、僕たちの仲間でいることを選んでくれた、あの日の放課後。 僕たち五人の絆は、もう誰にも壊せないほど、強く、固いものになっていた。
そして、運命の日を数日後に控えた、水曜日の放課後。 神田部長が、ノートパソコンの画面を指差した。
「出たぞ。予選一回戦のトーナメント表だ」
僕たち五人は、固唾をのんで画面に顔を寄せた。愛知県の強豪校がひしめくトーナメント表の中から、自分たちの高校「名城葉月」の名前を探す。 あった。そして、その隣に書かれていた、僕たちの記念すべき最初の対戦相手の名前。 それは、宿敵・修明学院ではなかった。
全く聞いたことのない、「愛知工科大学附属工業高等学校」。
通称「愛工大附属」。
「工業高校か…どんな大喜利するんだろ、全然想像つかねえな」 山田君が呟く。僕たちにとって、初めて戦う、未知の相手だった。
***
決戦前日の夜。僕たちは、それぞれの家で、静かにその時を待っていた。
山田君は、リビングで大声で笑いながら、お笑い番組を見ていた。
高橋さんは、参考書を傍らに置きながらも、過去の名作大喜利の答えをノートに書き出していた。
佐藤君は、目を閉じ、イヤホンで敬愛する落語家の名人芸を聴き、精神を集中させていた。
神田部長は、あのボロボロのネタ帳を、ただ静かに見つめていた。
そして、僕は。
自分の部屋の机に向かい、大喜利用のノートの、新しいページに、ただ一言、こう書き記した。
『楽しむ』。
***
決戦当日、土曜日の朝。 部室に集まった五人の顔には、緊張と、それを上回る武者震いが浮かんでいた。
「いい?改めて、大会の公式ルールを確認するよ」 高橋さんが、タブレットを片手に、最終ブリーフィングを始める。
「勝敗は、5対5のチーム戦で、全5回戦。審査は、回答者を除く9名による相互投票システム。9票中、7票以上で『一本』。一本が出なかった場合は、得点が高い方の勝ち。先に3ラウンド取ったチームが、勝利」
「つまり、相手チームに認めさせなければ、一本は取れないってこと。かなりシビアだよ」
その言葉に、僕たちはゴクリと唾をのんだ。
時間になり、オンライン対戦用のビデオ通話に接続する。 画面に映し出されたのは、作業服のようなものを制服にした、いかにも工業高校らしい、屈強な雰囲気の男たちが五人。背景には、金属加工用の機械のようなものまで映っている。
両チームの、少しぎこちない挨拶の後。 やがて、画面中央に、無機質な文字で、記念すべき第一回戦の、最初のお題が表示された。
お題:『超満員のライブ会場。演者が一曲も歌わずに、観客を満足させて帰らせた。一体何をした?』
僕たちの、甲子園への道が、今、始まった。




