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第26話「敵を知り、己を知れば」

神田部長の告白から数日が過ぎた、放課後の部室。 今日の部室の空気は、これまでとは全く違っていた。神田部長が、旧視聴覚準備室の名の通り、プロジェクターで壁に映像を映し出している。 それは、先日の修明学院との練習試合の録画データだった。




「いいか、お前ら。俺たちの『最高のセッション』が、なぜ負けたのか。まずは、敵と、そして、自分たちを知ることからだ」




神田部長による、本格的な「敗戦分析」が始まった。 画面には、一条蓮の、あの無機質な答えが映し出される。




『半径5メートル以内にいる全員の、スマホの充電が1%回復した』




「一条の答えは、完璧だった。テーマに沿い、無駄がなく、誰もが『なるほど』と思う。俺たちの目指す方向とは違う。だが、学ぶべき点はある」


彼は、修明学院の、感情を排したロジカルな面白さを、初めてリスペクトを込めて語った。 そして、自分たちの弱さも、改めて指摘する。感情や勢いに任せた答えだけでは、安定して「面白い」を生み出し続けることはできない、と。




「だから、特訓を再開する。目的は、俺たちの『セッション』の熱量を保ったまま、修明学院の『ロジック』の強さを取り入れることだ」




部長のその言葉に、僕たち四人は、力強く頷いた。 部室には、再び、心地よい緊張感と、熱い笑い声が戻ってきた。 僕たちのリベンジが、始まった。




***




特訓は、これまで以上に熱を帯びた。 気づけば、窓の外はすっかり暗くなり、壁の時計の針は、下校時刻をとうに過ぎていた。




その時だった。




高橋さんのカバンの中で、スマホが、ブブッ、と静かに震えた。 画面を見た彼女の表情が、ほんの少しだけ、曇るのが見えた。




それは、彼女の母親からのメッセージだった。




『栞、塾の時間はとっくに過ぎています。どこにいるのですか?』




彼女は、誰にも気づかれないように、素早く「ごめんなさい、すぐ帰ります」と返信する。 受験、進路、親からの期待。 優等生である彼女の日常が、「大喜利部」という非日常の熱量に、少しずつ軋みを上げ始めていた。




「ごめん、私、今日これで」




彼女は、それだけを言い残し、少し慌てたように荷物をまとめると、一人、先に部室を出ていった。 残された僕たちは、そのいつもと違う様子の背中を、少しだけ心配そうに見つめることしかできなかった。

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