第24話「最高のセッション」
【ROUND 2 WINNER:修明学院】
画面に表示された、あまりにも無慈悲な文字。 スコアは、0対2。もう、後がない。
部室は、通夜のような沈黙に包まれていた。
「…やっぱ、俺たちのやってることって、ただの自己満なのかな」
山田君が、弱々しく呟いた。高橋さんも、桜井君も、佐藤君も、その言葉を否定できない。 自分たちの「楽しい」が、全く通用しない。その事実が、鉛のように重くのしかかっていた。
その沈黙を破ったのは、神田部長だった。 しかし、彼の声には、いつものような自信はない。ただ、静かな問いかけだった。
「…お前ら、何のために大喜利やってる?」
彼は、続ける。
「点数を取るためか? 一条に勝つためか? 違うだろ」
彼は、僕たち一人ひとりの顔を見て、静かに、しかし、核心を突く言葉を紡いだ。
「俺たちは、たった一人でもいい。俺たちの答えで、腹の底から笑ってくれる、たった一人の誰かのためにやってるんだ。…その一人が、今、目の前にいる仲間なら、それで十分じゃねえか」
その言葉に、僕たちはハッとした。 そうだ。僕たちは、誰かに評価されるために、ここにいるんじゃない。この仲間と、面白い時間を共有するためにいるんだ。 僕たちの顔から、迷いが消えた。もう、画面の向こうの修明学院の顔色は窺わない。 ただ、目の前の仲間を、笑わせるために。
画面に、第三ラウンドのお題が表示される 。
お題:『10年後の自分から、LINEが届いた。なんて書いてある?』
先攻・修明学院。答えるのは、一条蓮だった。
「『10年前に投資した、あのIT企業の株価が、予測通り100倍になった。今すぐ売却しろ』」
合理的で、夢のない答え。彼のチームから4票、そして僕たちの中から、高橋さんがリスペクトを込めて1票を入れた。
【修明学院:5点】。
そして、後攻・名城葉月高校。 答えるのは、佐藤大輝だった。 彼は、僕たち三人だけを、順番に、ゆっくりと見回した。そして、少し照れくさそうに、低い声で、こう言った。
「…『お前、まだ、あいつらと馬鹿なことやってんのか』」
彼は、そこで一度、言葉を切った。そして、最高の笑顔で、続けた。
「『…最高じゃねえか』」
その、仲間への愛情に満ちた答えに、山田君と高橋さんの目から、涙がこぼれた。僕も、胸が熱くなるのを感じていた。
僕たち四人は、全員、力強く投票ボタンを押した。 修明学院からの票は、ゼロ。
【名城葉月高校:4点】。
結果は、5対4で、僕たちの負け。
試合は、0対3のストレート負けで終わった。
一条は、マイクをオンにすると、感情のない声で言った。
「試合終了ですね。お疲れ様でした。有意義なデータでした」
その言葉だけを残して、ビデオ通話は、ぷつりと切れた。
画面が暗くなり、部室に静寂が戻る。 完膚なきまでの、敗北。 しかし、誰一人、下を向いていなかった。高橋さんが、涙を拭いながら、少しだけ笑った。山田君も、泣きながら、笑っていた。
神田部長が、そんな僕たちを見て、最高の笑顔で言った。
「…完敗、だな。…でも、最高のセッションだった」
僕たちは、試合には負けた。でも、何よりも大切なものを見つけた。 僕たちの、本当の戦いは、ここから始まるんだ。




