表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/45

「静寂コンビ、誕生」

山田君と高橋さんの、地獄の(そして、実りある)特訓が終わった、特訓最終日。 部室には、どこかやりきったような、心地よい疲労感が漂っていた。 そして、最後に残されたのは、僕と、佐藤大輝だった。


神田部長は、僕たち二人を並べて立たせると、ニヤリと笑って、こう宣言した。




「今日、お前ら二人はコンビだ」


「コンビ…?」




と僕が聞き返す。


「そうだ」 部長は、僕たちの弱点を、改めて指摘する。




「佐藤。お前は物語が長くなりがちで、パンチラインに欠ける。桜井。お前は発見力はあるが、自信のなさからスピードが遅すぎる」




「……」




二人の痛いところを、容赦なく抉ってくる。


「その弱点を克服するには、個別の練習よりも、互いの長所を活かし、短所を補い合う『コンビ大喜利』が最適だ。


――名付けて、『神田式・即興コンビ大喜利』」




ルールはこうだ。 お題に対し、まず佐藤が、彼の得意な「物語」で状況説明フリとなるボケを言う。 その直後、桜井が、彼の武器である「発見」で、その物語の核心を突く短いツッコミを入れて、答えを完成させる。


圧倒的な物語力を持つボケと、的確な発見力を持つツッコミ。 僕と、佐藤君が、コンビ…。想像するだけで、胃がキリキリと痛んだ。




「じゃあ、いくぞ」 神田部長が、容赦なくお題を出す。




「お題:『実は、俺、人間じゃないんだ』と親友に告白。さて、なんて言われた?」




全員の視線が、まず佐藤君に集まる。 彼は、腕を組んで、少しだけ考えると、哀愁たっぷりに語り始めた。




「…そうか。どおりで、お前んちの犬、俺にだけは絶対に懐かなかったもんな。あいつ、鼻が良かったからな…」




その、あまりに切なくて、少しだけズレている親友のセリフ。 見事なボケ(フリ)だった。 そして、その完璧なパスが、僕に回ってくる。


全員の視線が、僕に突き刺さる。 プレッシャーに、心臓が潰れそうになる。でも、佐藤君の作った物語の世界観を、僕が壊すわけにはいかない。 彼の物語の、一番面白い「ズレ」はどこだ? 僕は、それを、完璧に発見していた。


震える唇を、なんとか動かす。




「……いや、論点、そこじゃねえだろ」




その、あまりにも的確で、完璧なタイミングで放たれた僕のツッコミに、一瞬の静寂の後、部室は、これまでで一番大きな爆笑に包まれた。




「すげえ!今の、めっちゃ面白かった!」




「完璧なコンビじゃん!」




山田君は腹を抱えて笑い転げ、高橋さんも




「…最悪な二人だわ。面白すぎる」と最大級の賛辞を贈ってくれる。




僕は、驚いて、パスをくれた張本人である佐藤君を見た。 彼は、驚いた顔で僕を見て、そして、初めて、心の底から嬉しそうに「フッ…」と笑った。


神田部長が、満足そうに、パン、と手を叩いた。




「――『静寂コンビ』、誕生の瞬間だな」




その日、僕と佐藤君の間には、言葉にはならない、確かな絆が生まれた。 僕の「発見」は、一人で使う武器じゃない。




仲間が作った最高の物語を、さらに輝かせるための、最高のツッコミになるんだ。 僕は、自分の武器の、新しい使い方を発見した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ