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「史上最高の勉強会」

「桜井。お前は、天才だ」




神田部長のその一言で、部室の空気は完全に変わった。




「マジかよ桜井!お前、そんなスゲェこと考えてたのか!」




さっきまで机に突-伏していた山田君が、目を輝かせて僕に詰め寄ってくる。 僕は、顔を真っ赤にしながらも、発案者として、最初のお題をホワイトボードに書き出した。




お題:有名な語呂合わせ「いやな(187)ひと(1)りで廃藩置県」。これを考えた未来の受験生に、明治天皇が放った、誰も知らない一言とは?




そのお題に、一番最初に食いついたのは、当の山田君だった。




「…いや、『ひとりで』って言うけど、俺の周り、めっちゃ人いたから!」




その答えに、部室は爆笑に包まれる。山田君は「よし!1871年、廃藩置県、覚えた!」と、人生で初めて、勉強でガッツポーズをした。


次は、高橋さんが壊滅的な英単語の対策に乗り出す。




お題:「『オーマイガー!』と叫びたくなるような、最悪の状況を教えてください。ただし、答えに必ず『イミディエイトリー(immediately / 今すぐに)』という言葉を入れること」




佐藤君の「ラーメン屋の汗」の答えに続き、山田君も叫んだ。




「告白した相手が、俺の親友と付き合ってることを、その場でイミディエイトリー知らされた時!」


「それは、つらい!!」




全員が同情し、また笑う。神田部長が、満足そうに言った。




「よし、山田。お前はもう、『immediately』の意味を、一生忘れない」




その日の部室は、僕が知る中で、一番笑い声に満ちていた。 絶望的だったはずの勉強会は、僕たちの手によって、最高に面白い「大喜利」へと姿を変えたのだ。




それから、僕たちの奇妙な勉強会は、期末テスト当日まで、毎日続いた。 化学の元素記号は、全部にあだ名をつけてキャラクター化し、相関図を作った。




古典の助動詞は、佐藤くんが演じるダメな男が登場する一人コントで覚えた。 数学の難解な公式は、神田部長がなぜか壮大な宇宙の法則に例えるので、逆に混乱した。




僕と山田君の脳は、人生で最も酷使され、そして、人生で最も笑った。


そして、運命の期末テストが始まった。 問題用紙をめくる。歴史の問題用紙に、「廃藩置県」の文字を見つけた時、僕の頭に浮かんだのは、教科書の年表ではなく、山田君の自信満々な顔と、明治天皇のツッコミだった。




英語の長文読解で「immediately」という単語が出てきた時、僕は、佐藤君のラーメンと、山田君の悲しい失恋を思い出して、笑いをこらえるのに必死だった。 テストを受けているのに、全く、苦痛じゃなかった。




***




答案が返却される、テスト最終日。 僕たち五人は、昼休みに、中庭の、あのベンチに集まっていた。 誰も、何も言わない。ただ、結果発表を待つ死刑囚のように、押し黙っている。




やがて、高橋さんが、自分のクラスの結果をスマホで確認し、「…よし。私は、大丈夫」と呟いた。神田部長と佐藤君も、余裕の表情で頷く。 問題は、僕と、山田君だ。




「お、俺、見てくる…!」




山田君が、悲壮な覚悟で、昇降口の掲示板へと走っていく。僕も、その後を追った。 学年全体の、成績順位表が張り出されている。 僕と山田君は、下から、上へ、自分の名前を探していく。




「……あった」




先に声を上げたのは、山田君だった。 彼の指差す先。240人中、119位。山田健太。 クラス平均を、わずかに、しかし、確かに上回っている。




「うおおおおお!!!」




山田君が、雄叫びを上げた。


僕も、自分の名前を見つけた。98位。桜井誠。




今まで、三桁の順位しか取ったことのなかった僕が、初めて、二桁の順-位にいた。


僕たちは、ハイタッチを交わした。いや、興奮しすぎて、お互いの手が空を切った。 でも、そんなことはどうでもよかった。




僕たちは、勝ったんだ。


部室に戻り、三人に結果を報告する。 高橋さんは「信じられない…」と涙ぐみ、佐藤君は「フン、当然だ」と、少しだけ嬉しそうにそっぽを向いた。 そして、神田部長が、僕と山田君の肩に、力強く手を置いた。




「――よし。じゃあ、改めて」




彼は、僕たち五人を、一人ずつ、ゆっくりと見回して、そして、言った。




「甲子園、行くぞ」




僕たちの、本当の戦いが、今、始まる。

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