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「スパルタ教師と噺家教師」

神田部長の高らかな宣言が、旧視聴覚準備室に響き渡ったのは、昨日のこと。 そして今日、僕たち五人は、再びこの部屋に集まっていた。


しかし、こたつの上には、いつものお題用のホワイトボードも、マジックペンもない。 代わりに積まれているのは、分厚い教科書と、大量の問題集だった。


ホワイトボードには、僕には呪文にしか見えない数学の公式が、びっしりと書き込まれている。


「うげぇ…まじで勉強会やんのかよ…」 山田君が、見るからにうんざりした顔で、数学の教科書を睨みつけている。


そう、これが、僕たちが「大喜利部」として活動するために、乗り越えなければならない、最初の試練なのだ。期末テストまで、あと三週間を切っていた。


「まあ、決まったことだし、やるしかないでしょ」 仕切るのは、もちろん高橋さんだ。


「神田部長と佐藤くんは余裕だろうから、私と佐藤くんで、問題児二人を見る。異論はないね?」 彼女のその言葉に、僕と山田君は、何も言い返せない。


こうして、僕たち大喜利部は、二つのチームに分けられた。


チームA:スパルタ教師・高橋と、生徒・山田。 チームB:寡黙な教師・佐藤と、生徒・桜井。


そして、神田部長は、面白そうにその全てを眺める、謎の「視察官」だ。


地獄のゴングは、高橋さんによって鳴らされた。


「まずは山田くん、あんたは中学レベルの英単語からやり直し!」


彼女の手には、おびただしい数の単語カードが握られている。


「はい、次!『necessary』!」 「えーっと…ね、ねせ…さり…? 寝せろ、サリー!みたいな?」


「違うっ!!」


高橋さんの、普段の優等生の仮面が剥がれ落ちていく。


その目は、完全に「鬼」だった。


一方、僕たちのチームは、静寂に包まれていた。 僕が苦手な古典の問題集を、佐藤君が、腕を組んで黙って見つめている。


「……ここ、分からない」 僕が、助動詞の活用表を指差すと、佐藤君は、低い声でボソリと解説を始めた。


「いいか、この文章の作者が言いてえのは、要するに『見栄張ったけど、金がなくて困ってるダセェ男』の話だ。その男が、女にいいカッコしようとしてる。そう考えりゃ、この時の男の心情を表す助動詞は、これしかねえだろうが」


彼の解説は、口は悪いが、まるで落語の登場人物を解説するように、物語の背景や人物像から入るため、驚くほど頭に入ってきた。 僕が「…なるほど」と頷くと、彼は「フン」と鼻を鳴らして、次のページを指差した。


「次だ。さっさとやるぞ」


騒がしい山田&高橋ペアと、静かだが的確な佐藤&桜井ペア。 大喜利とは違う。でも、これはこれで、一つのチームとして同じ目標に向かって戦っている「セッション」なのだと、僕は感じていた。


その様子を、神田部長が満足そうに眺めている。


「――青春だなぁ」


彼のその呟きは、山田君を指導する高橋さんの怒声によって、すぐにかき消された。 廃部を賭けた、長くて奇妙な勉強会の一日目が、こうして過ぎていった。

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