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「赤点回避対策本部」

僕が、生まれて初めて出したような大きな声で「はい!ありがとうございます!」と叫び、古典準備室を飛び出したのは、昨日のこと。 そして今日、僕は、四人の仲間が待つ部室の扉の前に立っていた。


ゴクリと唾をのむ。昨日とは、また違う緊張が、僕の喉をカラカラにさせていた。


「…失礼します」 僕がそっと扉を開けると、こたつを囲んでいた四人の視線が、一斉に僕に突き刺さった。 誰も、何も言わない。ただ、固唾をのんで、僕の言葉を待っている。


僕は、震える声で、しかしはっきりと告げた。 「柏木先生…顧問、引き受けてくれるって…!」


その言葉を合図に、部室の空気が、爆発した。


「うおおおお!マジか!」「桜井、お前すげえええ!」「やった!」 山田君が、僕の肩をガシガシと揺さぶる。高橋さんが「信じられない…よくやったね、桜井くん!」と、手放しで僕を褒めてくれた。


隅に座っていた佐藤君も、ほんの少しだけ、口元を緩めているのが見えた。 僕は、人生で初めて「英雄」になった。 これで、僕たちは、正式な「部」になれる。甲子園への道が、開かれたんだ。


「…でも」


歓喜の輪の中心で、僕は、言いにくそうに口を開いた。 僕の硬い表情に気づいた高橋さんが、「…どうしたの、桜井くん。何かあった?」と尋ねる。


僕は、おずおずと、柏木先生から突き付けられた三つの条件を説明した。 条件①「名義だけの顧問」、条件②「過去は他言無用」。 これには、メンバーも「まあ、そんなもんだろ」「むしろ好都合かも」と、特に問題はない、という顔だった。


そして、僕は、最後の条件を告げた。 「さいごに、条件3。次の期末テストで、部員全員が…クラスの平均点以下を取らないこと。一人でも赤点を取ったら、その瞬間、廃部だって…」


その瞬間、あれだけ騒がしかった部室が、水を打ったように静まり返った。 神田部長、高橋さん、そして佐藤君の視線が、ある二人の人物に、ゆっくりと向けられる。 一人は、顔面蒼白になっている、僕。 そして、もう一人は、滝のような冷や汗を流している、山田健太だった。


「ま、マジかよ…」 山田君が、震える声で呟く。


「俺、前回の数学、23点だったんだけど…」


「終わった…」 僕は、机に突伏した。


「俺たちの甲子園が、始まる前に終わる…」


その時だった。 今まで黙って腕を組んでいた佐藤大輝が、深く、大きなため息をついた。


「…ったく、しゃあねえな」


彼は、僕と山田君の頭を、それぞれ乱暴にガシッと掴んで、上を向かせた。


「俺が見てやるよ」


全員が「え?」という顔で彼を見る。


「こいつらに、勉強を教えてやるって言ってんだよ」 佐藤は、面倒くさそうに、でも、どこか力強い目で僕たちを見据えた。 「俺、中学ん時は、これでも学年トップだったんだぜ」


彼の、誰も知らなかった「秀才」としての一面が、ここで初めて明かされた。 絶望の淵から、一筋の光が差し込む。


神田部長が、その光景を見て、ニヤリと笑うと、高らかに宣言した。 「決まりだな。期末テストまで、大喜利は一時休戦だ。


これより、大喜利部は――『赤点回避対策本部』となる!」

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