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最後のページ

作者: Mikosku

高橋ハルトは、常に本に囲まれた孤独な歴史学の学生だった。予測できる静かな生活を送っていたが、ある日、東京の忘れられた隅にあるほこりっぽい本屋で、彼の目を引くものがあった。古びた本棚の間に、装飾が施された革の表紙のノートが一冊、見つかった。それは店の在庫にもなく、目的が明確でないように見えたが、ハルトはそのノートが何かを待っているかのように感じた。


ノートを開いたとき、彼の心臓は急に跳ね上がった。ページには名前や日付が並んでいて、最も不気味なのは、それが予測している出来事や人々に関する詳細が驚くほど正確であったことだ。最初、ハルトはそれが歴史小説か何かのフィクションだと思った。しかし、読んでいくうちに、ノートに書かれた死や出来事が現実に起こり始めたことに気づく。


そして最も恐ろしいのは、最後のページに書かれていたことだった。

*「2030年3月16日 – 高橋ハルト、トラックに轢かれて交通事故で死亡。」*


最初は冗談だと思ったハルトだったが、日が経つにつれ、死の日が近づくにつれて、何かもっと恐ろしい力が働いていることに気づいた。運命を変えようと必死になり、生活のパターンを変えようと試みたが、すべての試みがうまくいかず、出来事は次々と、まるでノートに書かれている通りに現実が書き換えられるように進んでいった。ノートに登場する人々は、まるで存在しなかったかのように歴史から消えていった。


絶望的な気持ちになったハルトは、友人であり大学の同級生である佐藤恵美にこの奇妙な出来事を打ち明けることに決めた。恵美は文学を愛する学生で、最初はハルトの話を信じなかったが、彼の恐怖を見て、彼女も一緒に調査することを決めた。二人が調べていくうちに、ノートが予知する死が現実に影響を与え、現実を変えていることが明らかになった。


時間が経つにつれて、ハルトと恵美の関係は深まった。長い夜を共に過ごし、最初は知的な協力から始まったことが、次第に互いの心を寄せ合う愛情へと変わっていった。ハルトは、恵美と一緒にいることで、運命がもう彼を支配していないかのような安らぎを感じ、心の中で彼女に対する愛情が日々強くなっていった。


だが、ノートの重圧は二人を放ってはおかず、ノートに書かれていた人物の運命はすでに定められていることがわかった。さらに恐ろしいのは、彼らが介入すればするほど、歴史からその人物たちが消えていくことだった。彼らはノートに書かれた人々を救おうと試みたが、全て失敗に終わった。ある日、ハルトと恵美は、2030年3月14日に死ぬと予言された石川春香という女性に出会った。彼らは彼女に警告し、救おうとしたが、その日のうちに春香は、まるで存在しなかったかのように消え去り、ノートからも名前が消えた。


絶望的な中で、二人はノートの力を止めるために、さらに過激な方法を試みた。最初はノートを火に投げ込んだが、ノートは燃えず、代わりに新たなページが書き加えられた。

*「2030年3月17日 – 高橋ハルトと佐藤恵美は共に運命を選び、歴史を再構築する。」*


その後、ノートを鉛の箱に封じ込めて海底に埋めたが、すぐに誰かがそれを見つけ、まるで宇宙そのものがそれを再現するかのように戻ってきた。


彼らの運命を変えようとする全ての試みが裏目に出るだけだった。人々は消え去り、彼らが避けようとする出来事はますます広がり、加速していった。ハルトと恵美は、運命を変えることができないことを理解し始めたが、二人を支えていたのは、ただ一つ、愛だった。絶望的な状況の中でも、二人が影響を与えられるのは、自分たちの物語だけだと信じていた。


最終的にハルトは、残酷な結論に達した。彼が愛する恵美を救うために、ノートを破壊する唯一の方法は、彼自身の命を犠牲にすることだと理解した。しかし、それを実行することが彼には一番大切だった。恵美が生きていられるのであれば、何もかも犠牲にする覚悟ができていた。


2030年3月16日の夜、ハルトと恵美は一緒に過ごしていた。ハルトの手にノートが握られていた。最後の一度だけ、そのノートを見つめながら、ハルトは決心した。それを破壊すれば、すべてが終わる。彼の命が失われることを知りながらも、少なくとも恵美を救うことができるのだと。


「恵美、」とハルトは震える声で言った。「君を愛している。もしこれが君を救うために僕がすべきことなら、僕は何でもする。」


最後に悲しげな微笑みを浮かべて、ハルトはノートを火に投げ入れた。その瞬間、炎の中で何かが異なることが起きた。ノートは光り輝き、新しいページが書き込まれた。

*「2030年3月16日 – 高橋ハルトは恵美を救うために命を捧げた。歴史は再構築される。」*


光が消えると、恵美は気づいた。ハルトはもうそこにいなかった。彼の体は消え去り、ただその犠牲の記憶だけが残った。ノートはもはや存在しなかった。どこにも、何も。


恵美は涙を流しながら、ハルトの最後の行動を理解した。彼はすべてを犠牲にして、彼女を自由にし、ノートの呪縛から解放するために命を捧げたのだ。その犠牲によって、ノートは消え去り、もはや歴史を支配することはない。


時が経ち、恵美はハルトの記憶を心にしまった。彼の愛の力によって、彼女は自由に生きることができた。ノートはもはや存在しない、しかし、ハルトの愛は永遠に彼女の中で生き続ける。ハルトの勇敢な選択は、彼女の物語を変え、再構築させたのだ。


世界はその犠牲に気づくことはなかったが、恵美は生き続け、ハルトが残した愛の記憶を胸に歩み続けた。そして、ハルトが再び彼女と一緒にいることはなかったが、彼の精神は彼女の中で永遠に生きていると信じていた。

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