9
魔王の従者であった魔物は、血濡れた爪を慎重に少女の体から引き抜く。
当然その小さな体は傾いていくが、魔物はその少女の体をそっと抱きかかえた。
血の付いていない爪で器用に乱れた髪を整え、そっとその腕の中に少女をおさめた。
「人とは度し難い愚か者だ」
低く、落ち着いた響き。
呆然とした様子で座りこんだ勇者に聞かせるように呟く。
かつて、退屈を癒すために契約の証だと押し付けた自らの角。
何度も魔王という生贄の血を吸った角。
それを抱きかかえた勇者に向き直った。
「あの子を育てたのは私だ。あの子を魔王にして殺したのも私だ。あの子は自分で最期にしろと私に願った。娘の願いをかなえるのは親の役目だとくだらない戯言だ」
それでもと、かつて魔物を統べる王だった魔物はわかりにくく微笑んだ。
きっともうその表情を理解してくれる者はいない。
「人の戯言に付き合うのも、そう悪いものではないな」
尻尾を二度ほど振る。
少女の亡骸を大事そうに抱えこむ。
鋭い爪が亡骸を傷つけないように慎重に。
「我々魔物はこの地を去ろう。魔物を滅ぼしたと国に伝えるがいい」
少女に渡された角を抱え、呆然と膝をつく勇者は魔王の従者を見上げる。
「魔王を――その少女の亡骸をどうするんだ?」
その問いに対して、魔物は牙をむき出しにして笑う。
「人の弔い方なぞ知らぬ――が、せめて父の隣で眠らせる」
それだけだった。
人と魔物が交わした最後の言葉だった。
従者だった魔物はもう一瞥も勇者にくれることなく蹄を鳴らし歩き去る。
昔々、あるところに恐ろしい魔物が住む森がありました。
人の生活を脅かす、恐ろしい魔物たちを倒すために一人の勇者が立ち上がります。
勇者は魔物をその勇気と剣でなぎ倒し、次々に人々を救っていきました。
そしてついに、魔物を統べる王のもとに辿り着きます。
果敢にも魔王へ挑み、そうしてようやく魔物の王を打ち滅ぼした勇者。
魔物の王を滅ぼした印として勇者は、大きい一対の角を持ち帰りました。
人々は喜び、勇者を讃え、ようやく人々に平和な生活が戻ってきました。
勇者はその後王となり、人々の平和を守り続けたのです。
めでたし、めでたし。
盛大なネタバレになるので控えてましたが、この話の投降後しれっとバドエンタグを追加します。
多分そのあとあたりに作者の蛇足すぎるあとがき的なのを活動記録のほうで公開しますのでよろしければそちらも合わせてどうぞ。
物語本編はこれにていったん完結。