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昔々、あるところに恐ろしい魔物が住む森がありました。
森にすむ魔物は凶暴で、迷い込んだ人を頭からバリバリと食べてしまいます。
人々は魔物を怖がりながら、戦う手段を発明しては魔物を追い払おうと頑張ってきました。
そんなある日、魔物の王様は言いました。
「もっと人を食べたい」
魔物の王様の願いを叶えるために、魔物たちは森の外へ出ます。
村や町を襲っては、人を捕まえて王様の下へ連れて行きました。
人々は困ってしまいます。
困って、困って。
どうしようもなくなったときです。
一人の男の人が立ちあがりました。
「私が魔物の王を倒しましょう」
仲間を連れて、男の人は魔物を、そして魔物の王様をやっつけたのです!
人々は男の人とその仲間にとても感謝し、勇者と呼ぶようになりました。
勇者様のおかげで、人々は平和な日々を取り戻したのです。
覆いかぶさるような木々の隙間から光が零れ落ちる。光に照らされるのは、かつては美しい石畳だったと思われる苔むした石たち。
広がってしまった隙間から力強く伸びる緑を踏みしめるのは小さな足。
履いている靴のサイズが少しばかり大きいのか、年相応に細い足首が履き口を泳いでいた。
簡素な黒いワンピースに、長らく手入れをしていないのか自由にはね放題の長い髪。
背中を覆うほどのそれは、時折いたずらに伸びた枝に絡まってしまう。
それでも、少女は気にすることなく石畳の名残を歩く。
深い森に埋もれるように、ひっそりと隠された街の名残。
子供が歩くには場違いなそこに、少女は迷う様子もなく足を進める。
慣れた様子で歩く少女の後ろに、そっと控えるように付き添う影があった。
軽い音を立てて草を踏みしめるのは蹄。
しなやかな筋肉に覆われた足は動物の姿をしていた。
器用に二本足で立つそれは、酷く奇妙ななりをしている。
足は蹄、顔は面長の犬のような形をしている。
鬣のような長い髪は腰のあたりでひとくくりにされていた。
全身毛で覆われているというのに上半身だけはまるで執事のようにきっちりと着込まれている。
まるで玩具のように鼻面に引っ掛けられた片眼鏡の奥の瞳は、金色に縦に伸びた瞳孔。
人と獣を混ぜたようなそれは、気ままに歩く少女に付き従うように蹄の音を響かせながら歩いていた。
「陛下」
不意にそれは口を開いた。
人と似た声帯を持つのか、少しばかり聞き取りにくいがちゃんと人の言葉として声が吐き出される。
しゃがれた、老人のような声に前を歩ていた少女が足を止めた。
「日が暮れます。城へ戻りましょう」
恭しく頭を下げて促したそれに、少女はゆっくりと振り返る。
動きに合わせて腰の後ろで結ばれていたリボンがはためく。
「そうね」
幼さを示すような、高い声で少女は短く応える。
「かえりましょう、わたしのしろへ」
舌ったらずの声で、少女は告げる。
何かをかみしめるようなそれに、異形は何も言わずに肯定の意志を示すかのように尻尾を一度振った。