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小説家になろうラジオ大賞4

夏祭りの顔

作者: 尾手メシ

 真っ直ぐに伸びる参道の両側に、ずらりと出店が並んでいる。参道をずうっと進んだ先、山の上の社はここからは見えないが、境内で篝火が炊かれているらしく、朱く揺らめく光の中に鳥居が暗く浮かんでいる。

 星も見えないような夜だが、参道の所々に吊るされた提灯と出店からの灯りで、申し分なく照らされている。白い面をつけた参拝客で賑わう間を、するりするりと抜けながら出店を見て歩いた。

 くじ引き屋、イカ焼き屋、金魚すくい屋やわたがし屋。さて、どれにしようかと目移りしていると、りんご飴屋が目に留まった。

 りんご飴ならば食べ歩くには丁度良い。まずはりんご飴を食べながら、祭りを見て歩こうと思った。


 さっそく買おうと店の前まで行ったのはいいが、そこではたと気がついた。そういえば、金を持っていただろうか。手ぶらで、服にも金を入れられるような場所はない。どうしたものかと困っていると、後ろから声をかけられた。

「お嬢ちゃん、どうした?」

 振り返ると、白い面をつけた男が立っている。りんご飴が欲しいが金がないのだと告げると、

「りんご飴もいいが、まずは面を被らないと。ほら、あそこに見えるだろ?」

そう言って、少し先にあるお面屋を指し示した。


 男の言葉に従って訪れたお面屋には、白い面がずらりと並んでいた。店主に、金はないがお面が欲しいと言うと、

「金がないなら、あっちから好きなのを選んで持ってきな」

そう返された。

 見れば、白い面の並んだ棚の向こうに、老若男女の顔が並んでいた。選べと言われたからには選ばなければならない。並ぶ顔をざっと見回して、目についた男の顔を手に取った。それを店主の所に持っていく。

「おう、これだな」

 店主は手際よく顔の横に穴を空けて白い紐を通すと、それを無造作に被せてきた。そして、

「お代はこれくらいか」

そう言って、右手から指を四本持っていった。




「気がついた時には病院でした。危うく凍死しかけていたと。凍傷で指を四本失いましたが、あの遭難から生きて帰ってこられただけでも奇跡だったと思っています。ただね、ずっと不安なんです。あのお面屋で選んだ顔は、確かに私の顔でした。でも、もし別人の顔を選んでいたら、私はどうなっていたんでしょう。そもそも、これ、本当に私の顔なんでしょうか」

 男がつるりと撫でたその顔、こめかみの辺りから後頭部へ回る、白い紐が見えた気がした。

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