多肉植物を分けてくれる女
トゲトゲの多肉植物を株わけして育てて人にあげるのが
好き。
あの日夜のあのカフェで会ったあの人は、多分私より五歳ほど年下で
かわいい人だなあと思った。
見かけはとても颯爽としていて
仕事では有能でバリバリにやっていそうだけど
でも本当は甘えん坊っぽい。
私にも少し興味を持ってもらえたみたいで
話の成り行きで
わたしからトゲトゲの多肉植物を株わけしてあげるということになった。
だけど少し警戒もされているみたい。
さて、どうする?
その週末に
ちょっと近くまで友人と来たから
お家に寄って多肉植物いただいてもいいですかっていうメッセージ。
「お友達って、彼女?」
なんて無粋なこと、聞いたりはしない。
でもその場合を想定して
ちょっと甘い香りのアロマを炊いた。
ちょっと遅くなったと
少し息を切らして玄関前に立つあの人。
「お友達は?」
はじめっからそんな子なんていないことを確信しながら
一応聞いてみた。
彼はちょっと返答に詰まる。
「ま、とにかく入って。お茶用意するから。」
甘く官能的なイランイランのアロマがほんのりと感じられる。
「あれ、この匂い。」
「きつかったら言ってね。てっきりあなた彼女と来るのかとおもって、ちょっと
ロマンチック系の香りを焚いておいたんだけど。」
そうじゃないんだ。友人なんて一緒じゃなかったんだ。
でも、先日あったばかりの君に会いにわざわざ僕一人で来るって言ったら
避けられちゃうかなと思って。
目を伏せがちにそういうあなたが私はとても愛おしくなってきた。
ついこの間知り合ってた女性(私のこと)が気になってどうしようもなくって
わざわざ都心から数時間もかけてきてくれる男の人って
可愛くて本当に素敵。
結局私は自分のために恋人を迎える準備をしてたってわけだけど
なおざりにしなくてよかった。
多肉植物っていうのは可愛くておしゃれで世話もしやすいっていうけれど
もともと植物好きな私にとっては微妙な存在だった。
小さくてかわいい容器に土をいれて
大好きなクリスタルの小石なんかと一緒に植えるんだけど
お水たくさんちょうだいとか、もっと日に当ててほしいとか、
いや日陰においといてとか、
そういった文句を多肉植物っていうのは言わない。
いつもにこにこしているので
何もしないでいい私はちょっと困惑しちゃう。
ぎゅっとしたハグを何度も何度も要求されたほうが
ああ私求められてるなって実感がするんだけど
ずっと一緒に暮らしているのに朝起きて握手する程度の
そんな関係と似たような感覚がある。
お水もっと欲しくない?
お日様にもっとあててあげようか?
それとも日差しがいやだから風通しの良い日陰に連れて行こうか?
それともお腹すいてる?
私はこんなにこんなにいろいろしてあげたいのに
多肉植物っていうのは可もなく不可もなく
現状に100%満足しているので
私から特に何も必要としていないのだ。
物理的には、ね。
だから私はこのトゲトゲの多肉植物に対して
お話してみることにした。
「ねえ、あなた、今何考えているの?」
でもトゲトゲちゃんは全く現状に満足していて
私と何か話そうなんて気もないみたい。
それならそれでも構わないよって
わたしはわたしでこの心の内をつらつらと語ってみた。
そうしたらトゲトゲちゃんがね
すこーしだけ私の方をみて微笑んでくれたの。
そしてこう言ってきた。
「ぼくを株わけして、その人にあげてみてよ。あとはぼくに任せて。」
多肉植物を株わけして可愛くアレンジするなんて
本当に簡単。時間もほとんどかからない。
その分人を恋しく思う気持ちが募ってきて
ため息なんか吹きかけてしまって
誰かに愛情を注げば満たされていた分
今度は自分に誰かの愛情を注いで欲しくなってしまう。
「お願い、だれかいい人連れてきてちょうだい。」
「お願い、あの人にいつも私を思い出させてちょうだい。」
トゲトゲちゃんはしっかり私の願いを聞き届けてくれた。
あの人は毎週車を数時間飛ばして
私の元に必ずやってきてくれる。
そして三ヶ月ほど経った頃
あの人がわたしにプロポーズしてくれた。
一緒に住んでくれないか
今より大きいマンションを探すから
君と一緒にこれからずっと暮らしていきたいんだ。
その晩トゲトゲちゃんが
ぽろりと腕を落としてしまった。
よく見ると根っこも腐りかけていた。
ああ、終わったなと
私は気がついた。




