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光彩

 お化け屋敷、縁日、飲食店、体育館でのライブステージなどなど。僕たちは午後からの四時間ちょっとで文化祭を思う存分満喫した。

 恐らく誰もが当たり前に経験して楽しんでいるであろうことが、僕には一つ一つかけがえのないことのように思えた。


 何より、みんなの目から黒い霧が晴れたことで視界はグッとよくなり――多少気圧されもしたけど――カラフルに彩られた校内と相まって開放感と悦びに満ち溢れた光景がそこら中に広がっていたのだ。


 傷つくことを恐れて目を塞いでいたら見えなかったであろう景色が、何十、何百、何千と、この短い時間の中で溢れ出す。


 誰を見ても、みんなそれぞれ瞳に宿す感情は微妙に異なっていて、個性があって、全く退屈することがない。


 恐怖という概念に上書きされて忘れていた気持ちを呼び起こされた気がする。

 そうだ。世界って楽しめるものだったんだ。


 今僕は今日の思い出を胸の中で噛み締めながら、後夜祭の花火を彩瞳さんと二人きりで見つめている。

 小規模ではあるけれど、あまり光が強いと彩瞳さんの眼が心配だから、少し離れた特別教室棟の薄暗い廊下から、静かに眺めている。


「ねえ光輝くん。私たちが初めて会ったのってこの辺だったよね」


「ああ、確かにそうだな。すぐそこの階段だろ?」


「今思えばあれが運命の出会いだったんだねえ〜」


「それは大袈裟だろ」


「え〜。だって、あの日光輝くんが階段から落ちてくれたおかげで、私の人生今こんなにも輝いてるんだよ?」


「それはまあ、そうなのかもしれないけど…… ていうかそれじゃ僕が自ら進んで転びにいったみたいな言い方じゃないか」


「そうじゃないの?」


「いや、違うだろ。誰が好き好んで脳震盪になるかよ」


「でも、あの瞬間私の手を引いて助けたのは光輝くんの選択だよ」


「それは、怪我されると面倒だったし……」


「そんな小さな行動が、人生を変えるきっかけになることだってあるんだよ。きっと」


「……だといいな」


 次の花火が上がって、その鮮やかな閃光が彩瞳さんの宝石の瞳に彩りを与えた。


「ねえ、光輝くん。やっぱここからだと花火見えないかもしれない」


「そうか? じゃあ移動するか?」


「ううん。大丈夫。こうすればいいから」


 そう言って彩瞳さんはつま先立ちで背伸びをしながら、肌が触れ合うギリギリまで接近して、僕の瞳を覗き込んだ。


「こうすれば、光輝くんの瞳に映る花火が見える」


 花火が満開になるのと同時に僕の心臓は跳ね上がった。


 そして――


 ちゅっ


 ――僕の右頬に温かいものが触れた。


「え?」


「……ごめん。近づきすぎちゃった」


 やっちゃった、という調子で彩瞳さんはお茶目に微笑んだ。


 対する僕は、その紅潮した顔を見るや否や一筋のいかづちに打たれたような心地になった。


 彼女の瞳を見た瞬間から、多分そうだった。僕は彩瞳さんのことが――


 そう考えると、なんだか少し気恥ずかしくなって、その夜、僕は彼女の目を見て話すことができなかった。

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