異世界全校集会
ようやくやってきた女子たちに、東堂先生が案内をした。けど広間には誰もやって来ない。不思議なことに足音だけは聞こえる。
「魔法だね」
飯田くんが答える。
「おそらく視認阻害の魔法を持った人が女子の中にいたんでしょう」
それに宇佐野くんが補足してくれた。さすがはヲタクコンビだ。
「どうして見えないようにしてるのかな」
「稲城くん、僕達のこの服、すごく薄いと思わない?」
「えっと……ああ、そういうこと」
要するに思春期の男子たちの前で、裸に薄い布一枚被っただけの女子たちが出るのは良くないと思ったのか。
「余計なことをしてくれましたね」
宇佐野くんの気持ちは痛いほどよくわかる。でもということはさっき東堂先生はそんな姿の若い夕陽先生を間近で見たってことか。通りで二人とも様子がおかしかったわけだ。
「よし、ようやく全員揃ったな」
男子と女子、そして教師が揃ったところで、情報共有とこれからのことについての話し合いが始まった。
「まず男子の方について、八田間源氏頼む」
「はい」
八田間源氏。学園の生徒会長だ。文武両道を体現したような人で、紳士的で学年問わず女子人気が高く男子からも尊敬される生徒。まさに生徒たちのリーダー的存在といえる。
「男子の方は全校計二九三名全員がこちらに転移されていることを確認しました。また我々の肉体以外で元の世界から送られてきたものはありません。こちらで手に入れたものは衣服とそれぞれ異なる魔法の本が二冊、うち一冊は白紙になりました。手に入れたものはステータスの閲覧能力、魔法二つ、うち一つは昭明魔法イルマ固定、もう一つは各々異なる魔法。最後に一つ各々異なるスキルを手に入れました」
概ねは僕の把握していたとおり。ただ魔法一つとスキルがひとりひとり違うというのは始めて知った。僕のサイカと気配察知は他の人たちは持っていないか、持っていてもほとんどの人は違う魔法とスキルだということか。
「次は女子、茜部輪弧」
「はい」
茜部輪弧。この人は生徒会副会長。説明するとすれば、生徒会長を女性にしたようなものだ。文武両道、男女ともに憧れる存在。違う点といえば会長よりも人懐っこく明るい性格という印象がある。
今は魔法で姿が視認できないせいでどこにいるのか全くわからない。
「女子はここから少し離れたところにある屋敷が建ち並んだ場所に転移させられていました。全校計二九五名中、二九四名がこちらで確認されました。確認されなかった一名は二年A組天白桃日さん、行方不明と知らされた生徒です」
行方不明の生徒は天白さんだったのか。
天白桃日、彼女は僕と同じクラスの生徒だ。
けど彼女は普段から不登校で、今までで数回しか見かけたことがない。だから誰も朝彼女がいなかったことになんの疑問も持たなかった。それに多分クラスメイトのみんなも彼女が不登校でも行方不明だとしてもどうでもいいと思っている。なにせクラスの中での彼女のイメージは最悪だと思うからだ。
汚い制服、脂ぎった前髪で顔は見えない。常に異臭を放ち、話しかけても無視をする。一度不良たちが彼女に対して暴力を奮ったことがあったけど、それでも彼女はなにも抵抗をしなかった。そんな彼女のことをみんな気味悪がっていたと思う。
「それ以外に関しては男子と概ね同じです」
「うむ、二人ともありがとう。それじゃああらかじめ教師陣で決めておいたことを伝えようと思う。これから必要になる衣食住、それと周辺の探索についてだ。衣、食に関しては女性陣に任せようと思う。女子の転移先である屋敷は少し距離があると聞いているので、この周辺の空きの屋敷を使ってもらってもいい」
衣服に関しては困っているのは女性陣だろうから、担当してもらうことになったんだろう。食についても男性陣よりは女性陣のほうがいいだろう。こんな状況じゃ楽しみは食くらいのものだろうし、男性より女性の方が互いにうまくやっていけそうだ。
ただ、そうなると僕らの役割も想像ができてくる。
「そして、男性陣には周辺の探索、食料とその他資材の調達を担当してもらう」
必然的に力のある男子が肉体労働を強いられるのは仕方ないが、正直僕は力にはあまり自身がない。しかも危険が伴う割に装甲は薄っぺらい布切れ一枚で武器もなし。力のある男子でも少し大きな獣を仕留めるのも難しいんじゃないだろうか。唯一希望があるとすれば魔法だけだ。
「いきなりにはなってしまったが、こんな状況だ。かなり危険な仕事を任せることになると思う。自分の身を第一に行動してくれ」
その言葉を最後に最初の異世界での全校集会は終わった。女子から先に退場しその後男子が退場した。
部屋に戻って、自分のステータスとにらめっこしながらまずは何をすべきかを考えた。
レベル1、魔法はイルマとサイカ、スキルは気配察知、基本的なステータスは全て20。魔法とスキルは把握できているし、正直ステータスは高いのか低いのかよくわからない。
あとで誰かのステータスと見比べる必要がある。
狩りや探索をするなら魔法とスキルが重要か。これは訓練で強くなったりするんだろうか。
「いくら考えても無駄か」
魔法もスキルも元の世界にはなかったもの。僕の知ってる知識で考えてもどうしようもない。それなら実際に試すしかないか。
唯一身につけている衣服を脱いでそれを動かしてみた。
「〖サイカ〗」
問題なく動かせる。動かす速さは人が歩く速さくらいかな。
「お、浮いた」
衣服がふわふわと宙に浮かぶ。見ようによってはそこに透明人間がいるみたいだ。
「これはこれで何かに使えるかも」
ステータスを見ると魔力保有量が少し下がっている。でもそれを体感では感じることができない。
サイカで透明人間を飛行させてみた。それで思いついたことが一つ。身につけている服を浮かせることができれば、僕が空を飛ぶこともできるのでは。
そう思ってやってみたけど、そもそも椅子すらまともに動かせないのに衣服と自分の体重を浮かせることができるわけがなかった。
「まずは重いものを浮かす練習が必要か」
ぼやいて気分転換に散歩に行くことにした。