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合流

 転移した生徒を探す途中、他の建物にも生徒が転移してきていることがわかった。かなりの数の部屋を捜索することになったけど、徐々に人手も増え、あっという間に全ての部屋を確認し終えることができた。

 皆方くんが見つけたという大広間へ行くと、おそらく全校の男子生徒がいるであろう人数が集まっていた。


「それじゃあ東堂先生、私は三年生の方を確認してくるので二年生の方は任せましたよ」


「はい、校長先生」


 そんな会話がざわついた広間で聞こえてきた。というか、あれが校長先生?

 校長も東堂先生のように若い姿になっていたのだけど、東堂先生よりも一回り体格の良いイケメンだった。先生たちの若い頃を見れるのはちょっと面白い。


「二年生はこっちに集まって聞いてくれ」


 東堂先生の呼びかけで二年男子が集合する。

 こうして見ると眼鏡をかけている者がいない。こっちに来たときに裸になっていたから、服といっしょで眼鏡は転移できなかったのはなんとなく想像できる。

 でも予想できなかったのは不良たちの目立つ髪色が全員元の黒髪に戻っていたことだ。染める前はみんな黒髪だから染料が落ちて黒髪になってしまうのか。正直一瞬誰だかわからなくなる。


「集まったらクラス毎に並んで、自分の周りにいないやつがいないか確認し報告してくれ」


 言われた通り、いつもの集会のときのようにクラスごとに並び、その前後がいつもの顔かを確認する。

 いつもの僕の前後は細い眼鏡のヲタクと太い眼鏡のヲタクだ。そして今もちゃんと前と後ろに、落ち着かない様子で座っている。二人とも眼鏡をなくして目が数字の三になっている。


「稲凪くん稲凪くん、稲凪くんはこれからどうなると思う?」


 太い方のヲタクである飯田玲司はいだれいじくんが声をかけてきた。

 僕は二人と仲がいいわけではないけど、この二人がヲタクで仲がいいこともあり、間の僕もたまに一緒に話すことがある。


「わからないけど。飯田くんはどうなると思うの?」


 よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、飯田くんは胸を張った。

 

「ふふん! それはね、きっと僕たちを召喚した国の偉い人が出てきて、僕たちにはものすごい力があることがわかるんだ! それで僕たちはその国を守るため、勇者として魔王を倒すための冒険を始めて————」


 彼のことだからそんなことだろうとは思っていたけど、実際に経験すると僕はそう楽観的なことを考えてはいられなかった。

 そういうファンタジー作品とかには興味はあるけど、今はまだ期待より不安のほうが大きい。

 魔王が出てきたとしても、僕たちが魔王を倒せるとは思えないし。


「うーん、僕はあんまりそうは思わないかな」


「そうですよ玲司くん!」


 すると今度は後ろから、細い方のヲタクの宇佐野和葉うさのかずはくんが、眼鏡を上げる動作をして空振っていた。


「きっと我々を呼んだのはこの世界の神様です! そしてこれから現れるのはその神様で、我々にチート能力を授けてくださるのですよ!」


 彼は彼で思っていた通りの答えを出してきた。


「いいや、王国の召喚師だよ! その国にはきれいなお姫様もいて、僕の力を見た国王がお姫様と結婚してくれってお願いしてくるんだよ!」


「いいや、神様です! チート能力で世界中を旅して、いろんな場所で困っている人たちを助け、さらに助けた美女たちが次々に仲間になっていくんです!」


 きっとこの二人が今ここにいる中で一番この状況を楽しんでいるんだろうな。

 こんな状況でもいつもと変わらない二人のおかげで、少し不安が和らいだ気がした。


 そうこうしているうちに二年生六クラスの男子生徒の安否確認が終わった。ほぼ同じくして一年生と三年生の確認も終わったらしい。

 結論としては当日学校に出席していた男子生徒の中で今この場にいない生徒はいなかった。そしてその日、全校で男子生徒に欠席者はいない。

 つまり、学内の男子全員がこの場にいることになる。


 よりによって全員が出席している日に限ってあんな事件が起こるなんて。もしこの事件を引き起こした何者かがいるとしたら、もしかするとその時を狙ってこの事件を引き起こしたのかもしれない。

 全員の安否が確認できると同時に、全員が事件に巻き込まれたことを知り、先生たちは複雑な表情を浮かべていた。


「東堂先生…………!」


 すると、広間後方の入り口から東堂先生を呼ぶ声が聞こえた。可愛らしい女性の声だった。

 見ると茶髪の、見たことあるような顔の女性が顔を覗かせて手招きをしていた。


「夕陽先生!」


 その姿を見てすぐに東堂先生が駆けつけた。

 やはり夕陽先生も僕らと同じくらいの歳に若返っているみたいだ。

 なぜか慌てふためく夕陽先生。そして困惑する東堂先生。ここからだと二人の会話は聞こえないな。

 しばらく話したあと夕陽先生はどこかへ行き、東堂先生だけが戻ってきた。


「小碓」


「なんですか東堂先生」


「どうやら女子の方も男子と同じ状況らしい」


 僕の少し後ろにいた小碓くんにそんな話をしているのが聞こえた。


「あの場にいた全員が教師も含めこっちに来ている」


「じゃああの場にいなかった生徒もいるということですか」


「いなかったと言っても朝伝えた行方不明の生徒一人だけだがな」


「そうですか」


 ひとまず女子の方もみんな無事そうでよかった。ただ、素人が集団でサバイバルするには人数が多すぎるんじゃないだろうか。単純に今ここにいる人数の倍だとして何百人いることか。それだけの数をなんの情報もない地でまとめることができるのか。いくら教師も数十人いるとはいえ、先生たちもきっとこの状況に戸惑っているはず。転移してきた数百人のうち、正常な精神状態でいれる人がどれだけいるか。


「安心しろ小碓。お前ら生徒は俺が必ず守ってやる。それが俺の役目だからな」


「先生、ありがとうございます」


 東堂先生はいつも通りそうだ。僕達にとっては数少ない精神的支柱になってくれるかもしれない。


「それと、女性陣も一旦こちらで合流することになった。スペースを空けといてくれ。俺は他のクラスにも伝えてくる」


「わかりました」


 東堂先生が一年生の方へ行くと、小碓くんの指示で二年生全体が広間の角の方へ移動した。続いて一年生と三年生も移動し、広間の半分に空きスペースができた。それにしても、本当にここは広いな。一体なんのための場所なんだろうか。


「みんな聞いてくれ」


 東堂先生の声が広間に響く。


「これから女子がここにやってくるが、それまでにまだ時間がかかる。その間にこの場の全員の今使える魔法とスキルの効果を聞いておきたい。手早く済ませられるように協力を頼む」


 魔法とスキルは元の世界には存在しない。今まで持っていなかった力を突然渡された僕らは、まだその危険性に気づけていないだろう。監督者である先生たちが全員のスキルを聞いて回ることは必要だというのはわかる。ただ、今は文字を書くペンもメモするための紙もない。この人数の能力を教師たちだけで覚えきれるんだろうか。

 そうして随分時間が経って、ようやく僕のところに先生たちがやってきた。


「稲凪、魔法とスキルは何が使える」


「僕は周囲を照らす魔法イルマとものを少しだけ動かせるサイカ、あとは気配察知のスキルです」


「サイカというのは大きさや重さはどれくらいのものまで動かせそうだ」


「重さは部屋にあった椅子がぎりぎり動かせるくらいですね。大きさはわからないですけど、重くなければ動かせるんじゃないかなと思います」


「なるほど、では軽いものだとしてどれくらいの速さで動かせる」


「すみません、それも部屋に軽いものがなかったのでわからないですけど」


「わかった、ありがとう」


 そう言って東堂先生は立ち上がり、宇佐野くんの方に回っていった。

 ちゃんとわからないところは聞いて、一つ一つ調べてるのか。こんな状況じゃみんなの魔法に頼ることも多そうではあるし、僕の魔法やスキルもどこかで役立つことがあるかもしれない。

 東堂先生がみんなの魔法とスキルを調べて数時間は経っただろうかという頃、女子たちがようやくこの場所に到着した。

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