異世界転移
意識が戻ると、そこは暗い場所だった。
だんだん暗闇に目が慣れて、今いる場所が部屋の中だということがわかった。
机に椅子、ベッド、クローゼット、それと全身が映るくらいの鏡がある。
「裸……」
そういえば体育館でみんなが消えていくとき、制服だけが残っていた。体だけがここに移動してきたってことか。
電気類は何もない。あと他に目につくものと言えば机の上に置かれたあれくらいだ。
「巻物?」
これみよがしに置かれていただけにかなり怪しくはある。
まだ机の引き出しやクローゼットの中は見ていないけど、ひとまず先に見ておこう。
巻物を開くと、巻物と言うにはかなり短い一枚の紙だった。ふわりと浮遊し青白い光を放ち始め、そしてそのまま僕の体の中に入り込んで消えてしまった。
「ってちょっと待って! 勝手に他人の体に入るな! なんだこれどうやって取り出せばいいんだ!」
なんて一瞬は取り乱したけど、案外簡単に取り出せた。
「出てこい!」
そう強く念じると、僕の体の中からさっきの紙が現れた。
なんかさっきより大きくない?
「開いて大丈夫なんだろうな」
恐る恐る開いて見たけど、さっきみたいなことは起こらない。
【ステータススクロール】と書かれている。
さらにスクロールの下を見ていく。レベル、魔法、剣技、スキル、アビリティ、etc.という感じだった。
これはもう間違いない。
「異世界転移」
であればこの不思議な紙も、僕達が突然ここに飛ばされたことにも説明がつくか。まさか生きているうちに経験することになるとは。
ともあれこれが転移であるとすれば、他の生徒たちもひとまず無事のはず。もう少しこの部屋を調べてから外に出ることにしよう。
タンスの中には衣服が一着あった。これで裸で外に出る必要はなくなった。そして机の引き出しには本が二冊。一冊は魔法書、もう一冊は見たことのない文字で書かれていて読めない。
まずは文字のわかる方の魔法書から開いてみることにした。内容は魔法の基礎について書かれているようだった。
次に知らない文字の本。こっちは開くと表紙と同じように知らない文字や魔法陣らしきものがびっしりと書かれていた。そしてステータススクロールと同じように光を放つと、その魔法陣と文字が浮かび上がり、僕の体に吸い込まれていった。本の中身はすべて白紙になっている。どうやら一度きりの効果らしい。
そしてその効果はすぐに理解できた。理屈はわからないが僕は魔法とスキルを覚えたらしい。そしてそれを感じ取ることができた。
「〖イルマ〗」
そう唱えると、指先に光を放つ小さな球体が現れた。これは灯りとして使える魔法らしい。そして〖サイカ〗、ものを動かす魔法。最後にスキルが一つ、気配察知が使えるようになったようだ。
試しにサイカで木の椅子を動かしてみたが、ゆっくり引きずりながらしか動かすことができなかった。この魔法で重たいものを動かすのは厳しそうだ。
魔法二つとスキルが一つ。特にここがどういう世界かわからない以上、すぐに危険を察知できる気配察知のスキルなんかはありがたい。
そうしてしばらく一人で魔法の練習をしていると、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。
転移した誰かだろうか。念の為慎重に扉を引くと、そこにいたのは同じクラスの小碓健くんだった。
「お、海穂か。よかった無事だったんだな」
「小碓くんこそ、無事だったんだ」
「ああ、他のクラスメイトも無事だ。男子だけだけど……」
女子はいないってことは転移しなかったのか? それか男子とは違う場所に飛ばされたと考えたほうが可能性としてはあり得るのか。もしそうだとしたら早く合流したほうがいいかもしれない。ここが異世界なら何かに襲われることも十分にありえる。男子ならなんとかできても女子の方は心配だ。
「まあ言いたいことはわかるけどよ、今は男子全員の無事を確認しようぜ」
僕の表情を見て何を考えていたのか察したみたいだ。さすがはコミュ強の陽キャ代表だ。
「よし、じゃあ他の部屋も見て回ろうぜ。誰かいるはずだ」
「わかった」
建物の中を歩いていると、他の生徒ともすれ違う。一年から三年までの生徒がしっかり転移させられたみたいだ。そして確かに男子ばかりで女子とは一人もすれ違っていない。
窓から外を見ると今は夜らしい。大きな屋敷がいくつも並んでいるのが見える。この建物も似たような形をしているのかもしれない。あの中のどこかに女子たちもいるんだろうか。
「あの扉、まだ開いてない部屋だ」
確認済みの部屋は扉を開けたままにしてあるみたいだ。
小碓くんは扉のしまっている部屋の扉をノックした。
「誰だ!」
「二年C組、小碓健と稲凪海穂だ」
「小碓と稲凪か。入れ」
そう促され僕らは部屋の扉を開けた。
「無事だったかお前ら」
部屋にはガタイの良い男子が裸でベッドに座っていた。明かりはイルマでついている。
どこかで見たことあるような気はするけど、あと少しのところで思い出せない。隣を見るけど小碓くんも同じらしい。
「誰だお前。二年か?」
ストレートだな。お前など知らん、というような態度の小碓くんに、男は立ち上がり近づいてくる。
「先生に向かってお前とは、随分と気が強くなったじゃないか」
「先生? もしかして東堂先生ですか!?」
「当たり前だ!」
どうやら体育館であの謎の現象にたった一人抵抗していた、生活指導の体育教師、東堂天慈先生だったらしい。
「ていうか先生、なんか若返ってません?」
「ん? 言われてみれば。なんだこの滑らかな肌は。まるで男子高校生の肌のようだ」
先生、気づいてなかったのか……。
「いや、まるでっていうか多分先生俺らと同じくらいまで若返ってますって!」
「なんだと! 少し視線が低くなった気はしていたが、通りでお前たちも俺だと気づかなかったわけだな!」
豪快に笑う東堂先生。
先生とはあまり話したことがないけど、意外と天然なのかもしれない。
「お前たちが無事だったということは他のやつらも無事なのか?」
「今みんなで手分けして確認しているところです。今のところ男子だけですが、かなりの生徒がここにいると思います」
「そうか。それなら部屋を調べ次第、全員俺のところに来るように言っといてくれ。それと教師がいればまず俺のところに連れてきてほしい」
「先生はどちらに?」
「全校生徒、少なくとも男子が全員集まれる場所を探しておく」
「それならさっきうちのクラスの皆方がかなりの大広間を見つけたみたいなので探すといいかもしれません」
「わかった、そうさせてもらう」
東堂先生はそのまま皆方くんを探すために部屋をあとにした。僕と小碓くんは、引き続き他の生徒と先生を探すために建物内を歩き回った。