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川下り

出陣っ!3度目の正直かなかなっ

作者: 山本大介

 来たっ、この時。

 

 甲冑舟には苦い思い出がある。

 10月に柳川で行われる「おにぎえ」というおまつりの最中、甲冑を着た鎧武者たちが舟に乗る。

 掘割や川の沿道にいる観光客、すれ違う川下りの舟に、武者たちはほら貝、または「エイエイオー」と掛け声をしたり、刀や槍を身構える。

 なんとも勇ましい甲冑隊なのである。

 今年は日吉神社から、うちの乗船場までの距離いわゆる川のぼりである。

 で、甲冑舟の2隻の内、一隻の船頭が私となった。

 前回、前々回のリベンジが来た。

 私は武者震いをした・・・そう、武者のぼりだけに・・・・・・ごめんなさい。


 最初の甲冑舟との出会いは、まだ私が船頭青葉マークの頃、あれは風の強い日だった。

 油断すると風で舟が回ってしまう、そんな豪風の日(遠い目)。

 私は安全運航を心がけゆっくりと川を下っていた。

 そして柳城橋の手前で武者たちとすれ違った。

 その時っ!

「エイエイオーっ!」

 武者たちが叫ぶ。

 私の魂が燃える。

「エイエイオーっ!」

 調子に乗って、拳を振りあげる。

 2、3回・・・すると、強風に煽られ、甲冑舟の横をすり抜けた私の操船する舟が、柳城橋で半回転し、シュールな感じで橋を抜ける。

 しまった!だけど、お客様に下手こいた姿は見せられぬ。

 私は平然とさも当然とばかりに余裕顔(心はブルブル)を見せ、何度も自信ありげに頷いてみせる。

 そして、そのままバック走行で、しばらく川下りをするという・・・なんともかんともなスタイルをみせた。

 これが甲冑舟とのファースト・コンタクトだった。


 そして去年は、川下り中、袋小路という所のクランクの死角から突然現れた甲冑舟をよけきれず、こつりとぶつかってしまい、鎧武者から「乗り込めっー!」と言われる始末だった。

 前回の事もあり、より気を引き締めていたのに・・・。

 悔しさが込み上げるもお客様が無事でなによりだった。

 ああ、甲冑舟の日は何かあるなとトラウマ寸前だった。

 

 ・・・こう書くと、私はダメダメ船頭みたいだが、普段はそんなことないんだからねっ、この日だけは特別なんだからねっ!

 ・・・と、ツンデレおじさんはそこまでにして、ま、こんなのネタにして書く方もどうかと思うが、今回は心に期するものがあったのだった。



 10時前、日吉神社にて船頭長ともに待機する私は、舟の準備をし万端、鎧武者たちの到着を待つ。

 やがて、ぞろぞろと槍や刀を持った意外と本格的な武者たちが現れ、舟に乗り込む。

 先頭の船頭長の舟に13人、私の舟に14人という布陣だ。

 最近、少人数でのお客様との川下りが多く、久しぶりの大人数、しかも甲冑をみなさん装着しているということで、竿を水に入れた最初の一さしで重みを感じた。


 ほら貝が吹かれる。

 出発となる。

 私は歯を食いしばった。

 今日は少し風が強い。

 船頭長の舟にしっかりついて行く。

 しっかりと風をみよう、よもう。

 そう、自分に言い聞かせる。


 すれ違う舟に甲冑武者は声をかけ、抜刀のパフォーマンスや「エイエイオー」の鬨の声をあげる。

 それを見たお客様はスマホやカメラを片手に大喜び。

 思わず、私の顔が綻ぶ。

 ぐっと、拳に力が入るが、今年の「エイエイオー」の拳振りあげは自重した。

 まずは失敗しない実績づくりが大事だ・・・「私、失敗しないので」と言いたいじゃん(・・・してるけど)。

 竿さしに専念・・・全集中する、心を燃やせ・・・なんか、ごめんなさい(笑)。


(順調、順調・・・重いけど)

 狭い水路も無事くぐり抜け、T字路を左へ内堀から外堀へと向かう。

 好事魔多し・・・というほどの事もないけど、少し先頭の舟との間が開き、隙間が生まれた間にT字路の右からベテラン勢の舟あげ(回送舟)隊の一隻が猛スピードで間に割って入った。

 私はスピード緩め、接触をさけ後ろへ回り込む。

 くしくも、先頭甲冑舟、舟あげ舟、甲冑舟2(私)、舟あげ隊数隻の陣容となる。

 川下りにこんなアクシデントというか、出来事はよくあること。

 しかし、

(空気読めよ)

 と、心の中で悪態をつきつつも、前との距離を空けてしまったことを反省した。


 私はすーっと深呼吸をする。

(よし、ここからだ)

 前方の舟との距離をはかりながら、安全運航を心がける。

 低い橋では声掛け。

 重い、舟が重いけど、こなくそだ。

 二度あることは・・・じゃなくて、三度目の正直だ!

 乗り越えるぞっ!


 舟は城堀水門を抜け、二ツ川に入ると、大きくひらける。

 開放感。

 左右の柳が風にそよぐ。

 突き抜けるような青空にほら貝と鬨の声。

 舟は柳川橋を抜けて乗船場へ舟は到着する

 肩で息をする私に、ベテラン武者が、

「お疲れ様、来年もよろしく」

 と言ってくれ、私は笑顔で、

「はい、またお待ちしております」

 頭をさげ竿を軽くあげると、腕が重い。

 だけど心地よい。

 3度目の正直だ。

 私はぐっと拳を握りしめる。


 とりあえず、三度目の正直かな。

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― 新着の感想 ―
[一言] おおっ。大事な任務。お疲れ様です! 大きな事故もなく、無事に終わってよかったですね。 これで実績が……。来年も頼まれたり〜。ですね〜。
[一言] 全集中、心を燃やせ……(笑) 読ませていただきました アクシデントもあったようですが無事終わってよかったですね お疲れ様でした
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