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ポンコツ作家と有能編集、自世界を行く  作者: 鍵っ子
二章:ポンコツ、新天地に立つ
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俺はドM……な訳が無い。

「――本当に、やるんですか」

「はい。そのセリフも、もう何度目ですかね。ここに来てから」

「そりゃあ毎度毎度、俺の心をへし折る様な悪辣な策略を立ててくださるからね。いや有効だとは思うよ? 思うけどもさ……」


 ……これから、やるのか。俺が。いや、やられるか。正確には。いや、首輪だとか付けられなかっただけ、まだマシだと思う事にしよう。


「今回は私だって辛いんですよ。先生にひどい仕打ちをするのは」

「今までいっぱいして来たというのに?」

「ちゃんと取材旅行だったり、そういう名目があってこそですし。コレに関しては酷い仕打ちをした所で先生に何の得も無いでしょう」

「いきなり海外旅行ってリスクとリターンと一切見合って無くね?」


 まぁ、今更そこを突っ込んでも仕方ないか。取り敢えず、辛いと思ってくれてるだけでも僥倖と思う事にしよう。いや、打開の為だからと、罪悪感の一つも持ってないとか普通に在り得そうだったし。


「……でも」

「でもなにさ」

「ちょっと、なんでしょう。目覚めてしまったら……すみません」

「目覚めてしまったら、ってちょっと待って。これ以上、あの、えっ」


 目覚められたら困るんですけど。って、ちょっと待って、話を聞いて。どんどん先に逝かないでください。あのっ!


「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!」

「――待つ訳ないでしょうこのダメ人間」

「ホブゥッ!?」


 ……あれっ、もう町中に入ってるとはいえ、こんな自然に入る? あまりのショックに俺、今って結構な顔してると思うよ?


「……えっ?」

「金も稼がず私に縋ってばかり。ダメ人間と言われても仕方ないと思わないのでしょうか貴方は。自覚をしてください。自分が人として終わっている事を」

「まって、そ、そこまで言わなくても」

「言いますよこのロクデナシ。偶には働いて金の一つでも稼ぎなさい。この無能。何か弁解でもあるのであれば聞いて差し上げますよ? その貧相な脳味噌で、私を納得させられるのであれば……ですけど?」


 つ、冷たい。見られただけで凍り付きそうになる。コレが女王様の瞳って奴か。あ、足が竦んでしまう……ダメだ。ここで怯んではいけない。頑張って食らいつかなきゃいけないですよ。この人の提案から、って!?


「――オイ、アイツの顔!」

「いやでも、こんな真昼間から、堂々と大通りに出てくんのか!?」

「でも立て札そっくりじゃねぇか! 知らせた方が……」


 アァアアアアアアこの痴態が見られてるぅぅぅうううううう止めて見ないでお許しください! チクショウ……演技に集中するんだ俺っ! 他人の視線に負けちゃいけない!


「俺だって、は、働いてない訳じゃないし! 全然!」

「へぇ? 働いてる? 私が? 頑張って? 貴方を支えて、やっとだと言うのに? 能天気なお言葉をありがとうございますねぇ……?」

「ひぃん」

「では私が支えなくて? 貴方は? 生活できているんですか? 良く考えなさい?」


 間違いは無いんだよ。言ってる事。俺だって頑張って仕事してるし、しかしそれは編集さんの支えがあってこそっていうのも間違いではないし。しかし言い方一つ変えただけでこのダメヒモ男っっぷりよ。


「え、えぇぇぇっと……」

「――せめて即答するくらいの甲斐性は見せなさいこのクズ」

「ぎゃんっ!?」


 待って割としっかり頭踏んで来てないこの人!? いや、事前に踏むっていうのは聞いてたし、結構手加減してるから俺から倒れ込む感じになってはいるけども! しっかり体重かけてきますね!? グリグリされてらっしゃるよ!


「うわっ!?」

「か、顔踏んづけられてるぞ!? ひ、悲鳴上げてるし……!」

「ちょ、止めた方が良いのかなコレは!?」

「っていうか、アイツ立て札そっくりの顔だけど……別人か?」

「どえらい泥棒なんだろ? それが、アレ? いやぁ、ちょっと違うんじゃないか?」


 アレ呼ばわり止めろ。


「……上手く行ってますね」

「悲しい事に、こっちの意図通りですねぇ……ひぃいいいいん……」


 ――要するに、イメージとの乖離を狙うのがこの作戦と言う訳で。俺は仕事もマトモに出来ない情けない男として、編集さんはそんな俺を徹底的に詰って詰って詰るなんか付き合ってる女性風味な感じで。


「――おい、姫様が来たぞ!」

「いや、でも来たところでなぁ……アレだろ?」

「無駄足にさせちまったかなぁ。アレじゃどうしようもないと思うんだが」


 おうアレアレ言うんじゃねぇや恨むぞ……ってそうじゃない。此方が最も気にするべき方々が来たようだ。こうやって顔を晒した以上、絶対に反応はあると思ってたが、予想以上に早かったな。


「此方です……此方、なんですけども」

「なんですの、アレ。なんですか、あのしょうもないのは。私は悪人を成敗しに来たのであって、痴話喧嘩未満の虚しい諍いを見学しに来たのではありませんよ?」

「大変申し訳ない……!」


 おうアンタ等もアレ呼ばわりか。しかもしょうもないと来たか。確かにね? こうやって編集さんの尻に縋りつく姿、演技とはいえ俺も人間として終わってるようにしか見えないのが問題である。


「……っはぁあああああああ。顔がそっくりというだけで呼ぶんじゃありません。完全に無駄足になったではないですか」

「如何に顔が似てると言えど、アレは違いますな」

「本当にそっくり、というか似顔絵そのものですけど。ですがあんな情けないのが国内を荒らしている、とは到底思えませんからね」


 あ ん な 情 け な い の。よーし、そろそろ演技止めてぶっちぎって殴り掛かって宜しいかな? あっ、ちょっと待って、それを察知して足の力を強めないで。拘束してないでください。許して。


「ホラ、周りの皆様に情けない姿見られてますよ? 情けなくないんですか? 泣いてやめてくださいと懇願して見せなさい。ほら、ほら、ほらっ!」

「ぐぎぎぎぎ、ゆるせぬぅうううう……」


 え、演技とはいえ情け容赦の欠片も無いこの人。ちょっとは容赦してください。あの、踏みつけ強化しないで、ガンガンしないで。そろそろ辛くなってきました。はい。


アンデルセン先生ごめんなさい。


良しっ! コレで解決!

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