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ポンコツ作家と有能編集、自世界を行く  作者: 鍵っ子
一章:ポンコツ、自世界に立つ
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異世界で役立つ(?)元の職

「――あんちゃん、見ない格好だね。旅の人かい?」

「……まぁ、そんな所だよ」


 木製のカウンター。丸テーブルが疎らに置かれ、そこかしこでガヤガヤと騒ぎの聞こえる店内。中世ファンタジーで親の顔程見た酒場。ちょっと待ってれば世界を救う勇者が入口から堂々と入って来ても不思議じゃないだろう……と思う。


「で、何にする」

「安くて、あんまり酔わない奴で」

「……あいよ」


 で、そんな酒場の店主としては出来るだけ高い酒を注文して欲しいんだろうが、残念ながらこちとら、今は文無しだ……万が一踏み倒しても、問題無い様な酒にしておくに越したことは無い。渋い顔してる所、申し訳ないが。


「――随分と賑わってるな」

「そりゃあそうさ。最近、この近くで絶世の美女を見たって奴が多くてな」

「ほーん、絶世の美女を、ねぇ……野次馬って事か?」

「娯楽が少ないもんでな。見物となれば態々足を運ぶバカは多いのさ。ま、俺はこうして客が入ってくれりゃ何でも良いけどよ」


 ……多分、人魚姫の事だな。


「随分と下半身に正直なバカ共だな。ビックリだ」

「そう言うアンタの下半身は反応しないのかい? 若そうに見えるが」

「はっ、俺の知ってる美人は性格破綻してるとんでもない女なんでな。アイツに会ったら世の中のあらゆる美人が悪鬼羅刹に見えてくる」

「……おい、怖い事言うんじゃねぇよ。なんか、実感もこもってるしよ」


 そりゃあそうだ。めっちゃ実感してるんだよ。さっき迄。ひっさしぶりに、しかも一回か二回しか使ってない奴で、必死に書いたものを……ホント……あそこまで……


「――っんとによぉ……あぁ……」

「お、お客さん。その、大丈夫か」

「心配するなら、取り敢えず邪魔しないでくれると助かるよ」


 そんな『は?』って顔されてもね……そうとしか言えないんだよ。で、暗記するのにちょっと時間かかるって言ってたが、そろそろか?


「アンタもしかしてもう……酔って……る」

「……どした」

「い、いや……その、噂の美人って、いうのは……あんなんなのか、と思って、さ」


 ……あぁ、来た来た。はー店内の男共目が釘付け! 恰好からしてパンツスーツだし目立つもんだが、身長にしても体系にしても、まぁ人離れしてるし、仕方ないとは思うが。中身を知ったら……


「――こんばんは」

「お、おぉ……こんばんは」

「此方の席、構いませんか?」

「あぁ。全然。寧ろ、汚ぇ席で、申し訳、ない、というか」

「いえ、掃除は行き届いているかと……」


 ――予定通り、カウンター席の真ん中あたりか。さぁ、問題はどれだけ注目を集められるかだが……もうそれは終わってるか。釘付けだもんなホント。


「……でけぇ」

「どっちもデケェ……」

「な、なんだありゃ。巨人か?」

「馬鹿! そんな酷い面じゃねぇだろ……見ろよあのいろっぺぇ口とかよぉ……!」


 皆さん。其方の女性、見かけは国宝級ですが中身は暗黒ですよ。全てを飲み込んで粉々にするタイプの。騙されちゃいけません。そんなんに引っかかったら終わりですよ。人生ドブに捨てるようなもんです。現在進行形でドブに漬からされてる俺からの助言です。


「――ふぅ」

「ご、ご注文は」

「えぇっと、すみません。こういうお店は慣れていないもので……ご注文、お任せでも宜しいでしょうか」

「い、いえ全然! おすすめの奴お出ししますよ!」


 目を伏せて、不安そうにする仕草とか、凄い堂に入ってるでしょ? 百パーセント演技ですから。信じられないって? いま目の前で起きてるのが真実だバーカ。


「……お、お嬢さん。こういう所は初めてで?」

「えぇ。少々と縁遠い職業なもので……」

「そ、そいつはどんな?」

「――貴い方々へ、物語を紡ぐ……語り部、のようなものを」


 こんな職業ある訳ない……と思って居るでしょうが、しかしあったんですよ昔は。吟遊詩人とも若干違う、そんな感じの人達がいたんですよ。まぁ、残念な事に彼女の本職は編集なんですけど。


「へぇ」

「ただ、今日は寝物語は必要ない、と急に……休日を言い渡されて。はて、何をしたものかと思って……」

「酒を飲みに、ですか?」

「い、いえ。その。お酒は、少し苦手で……」


 わぁー、伏し目がちにしてより弱々しいというか、庇護欲をそそるような表情をしていらっしゃる。そしてお手本の様に鼻の下伸ばす店主よ。もう完全に俺のこと忘れてそっちさんに夢中だな。まぁ、その方が都合がいいっちゃいいが。


「そ、それじゃあいったい」

「……私なんて、話をするだけしか能がありません。物語の一つも話さないまま一日を終えるというのは……どうにも、ちょっと……不安で」

「ふ、ふあん、ですか」


 はいここで胸を強調! 色仕掛けって奴ですね! この店主もう編集さんが作った胸の谷間に夢中にござる! チョロい! 需要は無い! 今に限ってはある!


「はい……話していないと、話し方が下手にならないか、とか。胸が、どきどきと」

「ほ、ほほぅ……むねが……」

「……むねが……」


 近くの客まで食いついたッ! 明らかに頭が悪くなってらっしゃる! 男は下半身でモノを考えるとは言ったものだが、ここ迄露骨だともはやコメディだな……


「ですので……御迷惑でなければ、その、此方で……物語を一つ披露するのを、許可していただけないかと。ご迷惑はおかけしませんので……」

「は、あぁ」


 下からの上目遣い。小さい子が一番様になるであろう仕草なのに、美人がやるとそんな年齢など気にならない程に相手を射抜く。痛々しいとか全然思わない。反則な気がする。


「だめ、ですか?」

「お、ぉぉんいや!? 全然、そんな、娯楽に俺ら飢えてるし!? 吟遊詩人の詩なんてそれこそ暇つぶしはぴったりだろうから、こっちからお願いしたい位で! な、なぁおめえらも聞きてぇよなぁ!」

「「「ウォオオオオアアアアアアア!」」」


 だから吟遊詩人とは違うんですけどね。まぁそんなんどうでも良いんだろうけど、なんだったらその目の前の美人のおねーさんを見ていたいだけなんでしょうけども。


「そうですか。あぁ、寛大な御許可ありがとうございます……(ちらっ)」


 ――おう、後は頼むぞ編集さん。アレだけボロカスにこき下ろしてくださったんだ。これでウケが悪かったら泣くに泣けんぞ、ホント。


「では皆様、私の物語、聞いて頂ければ幸いでございます……『爺戦場のブレーメン』」


アンデルセン先生ごめんなさい


異世界(自世界)は先ず酒場から。

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