疲れと彼岸の狭間で
……っし! っしゃぁああああおらああああああああん! やった! やってのけた! 俺は、俺は完璧に仕上げたぞ! 王道も王道のこの仕上がり! しかして、しっかりとフックもある、良い感じだぁ!
「どうです編集さん!」
「見なくてもいいですよ。恐らくは、仕上がりも完璧だと思いますので」
「えっ、良いの? 本当に? もしかして、見なくても分かる位出来が……えっ? 今完璧って言った!?」
「難聴は良く聞きますが、遅聴は珍しい現象ですね。学会に発表します?」
「失笑を貰うだけだと思うよ多分だけども。精神的な問題だと思いますって」
いや、落ち着け。それよりも、だ。完璧って言ってくれるのなんてレアじゃない!? あの人が! あの鬼の編集さんが! 完璧!? SSRどころの騒ぎじゃないよ! こんなんレジェンド級よ!?
「っし、自信持てて来たぜ! じゃあ此方、お願いしてもいいですか?」
「えぇ。任せてください。先生の渾身の一作、間違いなくウケると思いますよ」
「へへっ、なんかそのセリフ、久しぶりに聞いたなぁ」
「確かこの物語の最初の原稿を書いた時じゃなかったでしょうか」
あー、そうだっけ。コレは良いって言われて、結構筆が乗って、勢いのまま書き上げたんだっけかな。今回みたいな感じで、アイデアがビリッと来た時だったから、余計にだったのかなぁ。
「その時みたいな傑作になってると良いけど」
「大丈夫ですよ。私だって、先生とずっと一緒に頑張っていたんです。今みたいな先生が作品を書いた時、本当に見事に仕上がっていますから」
「あらそう? にへへへへ、なんか、照れるな。そんな褒めて貰えて」
「だからこそこれからの作品の出来にも期待してしまいます。ファイト、です」
「いやー任せといて! はっはっはっはっ! ……あえっ?」
おかしいな。今、その場のノリで大変なお約束をしてしまった気がするんだけども気のせいかなぁ気のせいだなぁきっとうん、こんな、作品の仕上がりの後、良い感じの雰囲気の時に、まるで忍ばせてくるように言質を取りに来るなんて……!?
「いやアンタならやるな」
「何がですか?」
「い、いや。何でもないです……大丈夫です」
今、それこそ変な発言したら雰囲気がぶち壊しになっちゃう。落ち着けオイラ。ここは今のを気のせいだと流すのが、大人の対応だ。うん。きっとそう。
「大丈夫です。では、後は私が仕事をするだけですので。吉報をお待ちください」
「お、おう。アンタの仕事は疑った事ないさ。安心して任せるよ、編集さん。アンタが信じた俺の作品を信じさせてもらうよ」
ところで。一つ疑問なんだけども。
「その王族の方とどうやって会うお積りなの?」
「何度か行けばきっと出会えるでしょう。その為にも、それまでのアイデア出しをお願いいたしますね先生」
「な、なんだってぇええええええっ!?」
冗談だろうアンタ!? この上更に俺に書けと申すか!? 結構渾身の仕事をした後の俺に! この上更に書けと!? 申すか! 二度言ったぞ! ショックのあまり! アンタも渾身の出来って言ってたでしょうに!?
「渾身の出来だけに、大分体力使ったんですけども!?」
「調子に乗っている今こそ、傑作を量産するチャンスだと思われますので。頑張って欲しいのですよ先生」
「さてはこれからの作品と言うのはこの事だな!?」
書かないぞ! 書かないからな!? 舐めんなよ!? 今は本当に書き切って疲れてるからな!? もう暫くは休憩するレベルだからな! 止めろよ! 振りじゃないからなコレは! そんな目で見られても、絶対に! 絶対に!
「……」
「これだけ書ければ十分ですね」
このせかいにきて、はじめててつやしたね。おれ。
それでもてつやって、なれてるはずなんだけども。なんだろう。いまは、いつもいじょうに。だいぶ。つかれてるきがするよ。こきょうにかえりたいな。
「本当にお疲れさまでした。ではこちらを持って、後は出会う迄粘ってみます。資金はその間も稼げると思いますので、お食事に関しては、心配ないかと」
「……」
「……重傷ですね。流石に無理をさせ過ぎてしまいましたか」
あー、じいちゃん。ばあちゃん。どうしたの。ひさしぶりじゃん。えっ? あんまりむりしちゃあかんよって? だいじょーぶだよ、まだまだおれだってわかいんだ。ゆうのうなへんしゅうさんもついてるし。
「枕、でも準備出来ればいいんですが、こんな所ですし、そんなフカフカの枕もない」
「……」
「うーん、仕方ありませんか。余り、寝心地は悪くないでしょうけど……よいしょ。あら、案外頭、重いですね。先生」
すごいいまここちいいんだ。つかれてるけど、そのぶんってかんじ? それに、さっきからすごいふかふかの、いいまくらが……あたまのしたに……きもちいい……もうねちゃいそう……
「申し訳ありません。先生。私ではアイデアを思いつく事も出来ず。貴方の作品に頼らざるを得ないのです。せめて、こうして先生のサポートを出来ればと」
「……」
「『アンタに頼り切り』だと言いますけど……良いんですよ。私は、先生の作品にほれ込んだからこそ、こうやってやってるんですから。他人がどうこう言おうと、私は先生の作品に価値を見出したんですから」
……いや、待て。こんな良い枕、元の家でもここに来てからも持ったことないぞ。幾らなんでも、夢にしても都合が良すぎる。もしかしてこれって、走馬灯寸前で幻聴ならぬ幻触って奴!? そして目の前の爺ちゃん婆ちゃんって大分ヤバくない!?
「まだだっ! まだ俺は、理想の作品を書き上げちゃいねぇってんだよぉ!」
「おや、先生。お目覚めですか?」
「お目覚めですか? じゃねぇってんだ! ヤバかったぞ今! 確実に死にかけてた!」
あの感覚も死出への旅路の橋渡しと考えると、マジで背筋が凍りそうになる。もうちょっと気が付くのが遅れてれば……
「ぞっとしねぇなぁ……」
「流石にお疲れではありましたが、死ぬという程でも無かったと思いますけど」
「いや確実に危なかったからね? ったく」
死んでられるか。せめて、俺の一筆が、王族の感性に通じたか……せめて、それを見届けるまではな。いや、その後も普通に死にたくは無いけども。
アンデルセン先生ごめんなさい。
そろそろ人魚姫要素マシマシで行くか……()




