地道な道のりで描いてみよう
「――ダメですね。これも」
「ダメかぁ」
「王道かつ、シンプルで分かりやすいですが。やはりインパクトが薄い。現代では歯牙にもかけられないレベル。この時代でも、通じるかどうか怪しいです」
はい。予測はしてました。正直丸く収めようとして、結果毒にも薬にもならない様な作品に仕上がったのはもう分かってた。でも、綺麗に仕上げたとは思うから、一応は提出しては見たけども。
「っはぁ~……あーこの。三度目の正直すら光明の見えない感じ……どうにもならんと言いたい所なんだけどなぁ」
「言っても居られませんよ。書かねばいけません」
「もうちょっと手応えが欲しいけど。ヒントすら見えないからなぁ!」
結局の所、王道って言うのは、基礎にして奥義。誰にでも通じる強い形ではある。だがそれ故に、腕が足りなかったり、慣れてない作者が書くと、どうにも、尖った部分の無い作品になりがちというか。
「とはいえ、悪い出来ではありませんよ。進歩はしてます」
「そうかい?」
「えぇ。元々、基礎が出来てなかった訳ではありません。要するに、王道を極めようとするとなると、基礎を極める事に通じて来ますから。結局の所、基礎を鍛えるのは書く腕を上げる最短の道のりなので」
出来も良くなったし、それなりにはなったのかな、とは思う。けどなぁ……結局の所、通じるレベルの作品じゃないと意味ないんだよなぁ。
「色々、昔の、それこそ、伝説に伝わるレベルの作品とかを参考にしてるんだけど。結局パクリ、みたいな形になっちゃうんだよなぁ」
「どんな作品を参考にしたので?」
「そりゃあ……王道って言ったら、十万馬力に、空飛ぶパンに、後は青狸。どれも王道も王道の作品だと思うし。クラシックな作品だし」
「成程。そんなあからさまなやり方を。流石先生。貪欲ですね」
貪欲じゃないとどうしようもないからな。まぁ、結果として、自分の実力を上げるだけの結果に終わりましたけど。
「もっと、精神にガツーンと来るショックのある形が良い……けど、それじゃ結局インパクト重視になる……んがああああああああああっ!?」
「おお、のたうち回ってらっしゃる。痛くないですかそれ?」
「痛いよ! 腕も、足も! 何もかも!」
それでも叩きつけねばならないのだ。この痛みが何かを生むかもしれないんだよ! 奇跡を呼ぶんだよ! もっと! もっと叩き付けるんだ! あっ、ちょっと今ファニーボーンに思いっきりボカってやった……シャレにならない……辛い
「なんか喧嘩でボコボコにされたような有様ですけど」
「ふふ、良い感じにダメージを受けたよ」
「それで? その痛みで何か思いつきましたか先生」
「いいえ全くもってですね。なんだったら頭の中が痛みで真っ白になって言ったよ」
「ダメじゃないですか」
ダメですけど。バリバリに糞みたいな状況ですけど。でも、それでも何か思いつくかと思ったら止められなくなりましたけれども? 自分一人で喧嘩してましたけども……ん? アレ? んんん?
「――なんか引っかかったような」
「本当ですか?」
「うん。けど……何が引っ掛かったかは全く分からない」
「いやダメじゃないですか。其処覚えていてくださいよ先生」
いや、本当にゴメン。脳味噌の皺がもうちょっとしっかりしてれば良かったと思うんだけども……しかし、なんかしら頭のどっかに引っかかったのは確かだと思うんだけども。
「――とはいえ、引っかかる様になったのは良い傾向だと思います」
「そうか?」
「えぇ。今までは形にしようと必死に考えて、そっちに頭脳を振ってしまって、いいアイデアを出そうとしたり、何かから着想を得たりっていうモノすらなかったので……」
……そうだなぁ。余裕がある時じゃないと、アイデアも何も出ないって奴だ。あー、そう考えてみると、隣国の姫を登場させた当初もそうだったなぁ。彼女はインパクトを重視したキャラの所為で、動かし方が始め分からなかったんだよなぁ。
「それで、必死に動かす事しか出来なかったって言う。余裕も何もないからさ。姫のキャラを活かすもクソも無かった。お陰でまぁ、展開も特に特徴が映える訳でも無く、って感じになっちゃったんだよなぁ」
「因みにその時はどうやってその姫の描き方を掴んだんです?」
「……どうやってと言われても。なんつーか、完全に流れだったよな」
取り敢えず、殴り合わせてみれば後は流れで何とかなるかなー的な軽いノリで書いてガリガリ書いてたら、どっかしらでガチンとハマってくれた、と申しますか。やっぱりステゴロでの殴り合いこそがこの作品の神髄だからか、結局殴り合いで悟ったよ。
「結局の所、人魚姫と合わせて色々書いてみるのが良いんじゃないかっていう話。まぁ王子を巡って(拳を交える相手を)取り合いになるしさ。話を弾ませるのもやりやすい」
「女性が男性を巡って争うというのに何とも色気のない事で」
「その頃の俺は色気なんて出す余裕も欠片も無かったんだよ」
それに、足を流麗に捌いて水の如く叩き込む蹴りの乱舞と、ヒールを応用してのガトリングストンプで圧殺する人間らしい蹴りの応酬で、キャラクターの性質も動き一つに表す事が出来るってもんで。
「コレは健康志向の殴り愛物語だったんだな、ってその時悟りを得た気がする」
「まぁ王道とは腐っても言えない物語ですね。そう言った物語だからこそ、先生は活き活きと書けるんでしょうけども」
「ケンカップルとは違うんだよなぁ。そもそも俺は書けないし」
「喧嘩だったら幾らでも書けるんですけどね、先生は」
だって、複雑な人間関係とかあんまりやり過ぎると、拳一発で粉砕したくなるんだもんな俺。小説家向いてないんじゃないの? とは言われたけど、それが否定できないのが物凄く悔しいというか。
「一遍、熱血学園モノ、の亜流的なのの原作ちょっとやってよ、って言われて、まぁ酒も奢って貰ったし、ちょっと書いたら『これ貰うわ』って言われて。そのままデビューよソイツ」
「上手かったんですかねその人」
「分からん。ソイツは『この原作良い仕上がりじゃね?』との事だったけども」
……喧嘩。喧嘩、そうか。喧嘩かぁ。漢一匹、ステゴロ、組織での跳ねっかえりの青二才……!!!
「お、おぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお! 来た来た! 脳にシナプスヴァリッヴァリだぜ! 思いついたぞ!」
「おや、本当ですか?」
「俺でも、書ける王道はあった! あったんだよ!」
アンデルセン先生ごめんなさい。
因みに、友人が実際こういう感じで原作やったそうです。事実は小説よりもなんとやら。




