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ポンコツ作家と有能編集、自世界を行く  作者: 鍵っ子
二章:ポンコツ、新天地に立つ
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限界ギリギリの表現へ挑め

 いつも思う事だが。こうやって、原稿を編集さんに出す時は本当に、こう、緊張する訳で。しかも、ワープロじゃなくて、慣れない手書きだ。そりゃあ緊張も跳ね上がるってもんだよ。うん。


「……思いきりましたね、このセリフ改変は」

「出来るだけ刺激は抑えた積りだが、限度があった。野郎共には間違いなく受けるが、女性客にウケるかってなるとちょっと分からないと思う……正直、性差別的な発言とか言われても文句は言えない」

「下ネタ、というものはそういうものです。別に禁忌と言う訳でも無いのですから、そこまで気にしてはいけませんよ先生」


 ……そうだな。うん。あんまりビビっていても仕方ない。良し。ということなら、このままの案で押し通す積りで、うん。


「という事でもっと思い切って変えましょう」

「いやどういう事なんでしょうか!?」

「気にしてはいけないのです。だから気にしてる部分があったのでもっとそういう遠慮してる所を削ぎ落すのです。ゴリゴリと」

「まだ!? まだ!? まだ全開にしていく!? 開脚全開レベルで!?」


 これ以上とか刺激が強いレベルじゃないよ!? ダメだよ!? 多分悲鳴が飛んでくるレベルだよマジで。これ以上、ちょっと下品のレベル跳ね上げちゃうのは。ダメだよ。それは作者権限で却下だよ。


「分かる?」

「いえ下げます。作者権限とか美味しいんですか?」

「とっても美味しいものだねぇ!? というか!? 作者には当然あってしかるべきのもんだよ多分だけども! それを切除するとか作者に書かせてる意味とは!? 自分で描いた方が良いんじゃないの!?」

「ダメですよ。アイデアを文字に起こし、しっかりと書けるような才能は、やはりそう簡単にないんです。文才って単語、ご存知でしょうか?」


 ご存知ですけど、その文才と言う単語にアンタが真っ向から喧嘩を売ってるんですよ。俺がこの辺りが良いんじゃないかなって思ったもんを絶滅させるとか、良くないでしょうよそれは。


「ギリギリ限界まで詰めれば、それでもしっかり売れる作品を書くと信じての事なので。頑張ってください。そもそも、良くないからやり直し、ということでもありませんし、この方向は間違ってないのでもっといけませんか? と言っているだけですし」

「限界まで絞りに来る辺り、俺をさては荏胡麻か何かと思ってるな?」

「荏胡麻より絞るのは難しいですけども……」

「さては俺を荏胡麻以下だと思ってらっしゃるなこの編集??????」


 チクショウ植物以下とは何という屈辱! これはアイデアがみゅりみゅりと絞り出てくる様子を見て貰って評価を荏胡麻以上にしないとマズイ!  よーし久しぶりにちょっと本気出してみようかなぁ全力だなぁ!


「頭に火を点ければ一発で燃え尽きるって所を見せてやる……!」

「いや荏胡麻に寄らないでください。油が出る方向で張り合わないでください」


 おっと間違えた。落ち着け。


「要するに、この表現がギリギリまで追い込んで良い感じになれば良いんだろうが! アウトとセーフのギリギリ、人間の極限を見せてやる!」

「たいげんそうごにならないといいとおもいました」

「オイこら小学生みたいな凄い棒読み感想やめろ。一切思って無いだろうそれ」


 く、屈辱じゃ……某の実力を侮られておる……しかしながら、この戦働きを見れば殿の御心も動くはず! 良し、となれば早速己の刀を取って! って何を侍調になってるんだ己を取り戻せ。


「で、締め切りは後どれくらいだ?」

「そうですねぇ。三日後くらいでしょうか」

「上等だ! 見せてやる、作家魂のその先をなぁ!」


 表現のギリギリに挑むのは作家の性。文学史に一瞬さっと光る流星を見せてやるよ覚悟しておけ。アンタのハートに致命傷を刻み込んでやるってんだ!




「思いっきりブレーキ踏みましたねこのヘタレ」

「すっ……すみませんでした……」


 だ、ダメでした。結局、この、筆が、筆が進みませんでした。あんまりすぎる表現は俺の心の中のアンデルセン先生が無言で首を横に振って下さいまして。ビビっちゃった……そんな振り切った真似は出来なかったんだよ……


「まぁそれも想定内ですけど。丁度良くなったと思いますよ?」

「えっ」

「先生なら、追い詰めに追い詰めて、一気に踏み越えようとして、しかしながら失敗しまぁ丁度いい所で止まるのではないかな、と。それくらいしないと、注の丁度いい一線すら超えませんから、このヘタレ」


 ……くっ、実際ヘタレてしまったから何も言えない。しかしそれすら計算の範囲ってのが凄まじく気に入らん。この人にまるで傀儡の様に操られてしまっている……いや、作家って割と編集の傀儡な事あるな。


「そう思えばそこまでムカつきもしない……?」

「何一人で納得してらっしゃるんですか? アイデアならほら、今書いて」

「もうないわっ! それを書くのに全部絞り出したってんだよ! そうじゃない、俺が納得したってのは、別の事で……いや、それはいい。で、それでいいんだな?」

「えぇ。これで問題は無いかと。間違いなくウケますよ」


 そうか。それなら、頑張って荏胡麻の様に全てを絞り切った甲斐があるってもんだ。今、俺の脳味噌に潤いも何も欠片も無いよ。カラット乾いて、多分油で揚げたらいい感じになるんじゃないかな……?


「ふははは……えごまにはかったぞ……」

「だから荏胡麻と張り合わないでくださいとあれほど。全く、本当に仕方のない人ですね貴方。まぁ、後は細かい所の修正は私がやっておくので、休んでください」

「りょーかい……」


 ホント、書き上げた後の編集さん程、心強い人も居ないんだよなぁ。なんだって出来るっていうのは嘘じゃない。あー、そういえば、編集さんが俺と初めて会った時も、確かそんな事を……


「……どうなさいました? こっちを見て」

「いいや。なんでもない。もう寝るわ。疲れたし……」

「いや、だから休んでくださいと言ったじゃないですか。良いですよ繰り返さなくて」

「ああすまん……やっぱ疲れてるんだなぁ……」


 なんて言ってたっけ。あん時は。つっても、今は、ちょっと、もう思い出すのも厳しいか、頭ももう、大分眠い……あぁ、でも、ウケると、いいなぁ……


アンデルセン先生ごめんなさい。


本当にギリギリの表現を今でも探しています。

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