恐怖の御姫様
「……うわぁ、浮浪者よ」
「見ちゃダメよ。目を合わせたら物をください、くださいと乞うてくるに決まってるわ」
奥様方。私そんな事いたしませんけども、なんだったらこうして座っているだけでございますけども。何か問題ですか? いや、何時の時代も浮浪者は座ってるだけで色々言われ続けるっていうのは、資料で見た事はあるけど。なんでなのかは分からん。
「……しっかし」
行きかう人々を見てると、スッゴイ立札を見てから過ぎ去っていくのが見える。これが国中にしっかり立てられてると思うと悪夢でしかないんだけども。顔が見えた途端に俺はあっという間に捕まって終わりだと……はっ、この俺の偽物、絶対に許さん。
「早く帰って来て……まだ……死にたくない……」
特に、この国の姫様は向こうの王子より明らかに危ない、自分の国の中で問題、犯罪者なんぞ見かけようもんなら圧殺よ圧殺。えっ? 圧殺って可笑しな話じゃないって? 残念ながら、その表現が正しいのよ!
「自分で設定しておいてこんな言い方するのはおかしいけど……」
結構、良い感じで流れを掴んで、第二部をやるって事になって。そんでもって話を展開すると人魚姫、王子に並ぶとんでもないキャラ、言わばライバルキャラを生み出さないとなってしまって……悪乗りの末に生み出したのが彼女なんだよなぁ。
「隣国の姫……」
通称姫様。同じ蹴り技を使う姫の筈なんだけども、その凶悪性は多分人魚姫とは比べ物にもならない。いや、性格が悪いとかそういう問題じゃなくて、恐るべきは戦い方なんだよなぁ……俺は周りから蹴りまくって圧殺するとかいうのをどこで思いついたのか!
「彼女に見つかったら最後、俺はサイコロステーキとなって見つかるだけだ……っ!」
……とはいえ、隣国に入った直後のこんな町で、お姫様が居る訳も無いと思うんだけども。まぁ警戒するに越した事無いだろうし。
「――見つかりまして?」
「いえ、姫様……申し訳ありません。奴も中々に上手い事逃げ隠れしている様で」
……!? ハァン!?!?!? いや姫様ぁ!? こ、声が姫様っぽいけども……いや、もしかしたらヒメ様っていう、巫女様的な、何かも知れない。多分。そうに決まってるうんうん。俺ヒメ様なんていうキャラ作った覚えないけど!
「王族の貴方にこんな辺境まで態々お越しいただくなど、大変申し訳なく」
「賊を討伐する為です。この程度はさして問題にもなりません。私は、自分の国で凶悪犯が暴れている事が決して許しがたいだけです」
「そのお言葉、流石姫様ですな」
あのーハイ王族の方ですなはいはいはい……つまり本物姫と。っはぁあああああ! 悪夢以外の何物でもねぇなぁ!
「――おや?」
「どうなされました……あぁ、浮浪者ですな。何か気になる所でも」
「いえ、そんな、気になる、という……いえ、ですけど……?」
俺浮浪者でーす。めっちゃ哀れな落伍者でいぃす。そんなね、哀れな落伍者様に何か言う事ございませんか? ございませんよね? さ、お帰りなさい。もう何もしなくていいですから、お帰りましょう。もうね?
「いいえ、取り敢えず先ずは凶悪犯の探索に全てを注ぎましょうか。時間は有限ですからね……貴方も、もう少しご自分で努力する事を覚えますように」
「参りましょう」
……行った? 行ったな。良し。おっけおっけ。あーしかし、あの後ろ姿、縦ロールのえげつのなさ、間違いなく隣国の姫だなぁ……ドレスもひらっひらで。あの格好でとんでもない威力の蹴りを繰り出すんだから見た目詐欺だよなぁ。
「……美人の筈なんだけどなぁ」
イメージが貰った時、ホントビビりあがっちゃってさぁ。生意気系美人の極みだと思っちゃったよホント。ツンとした感じでさぁ。
「……とか言ってる場合じゃねぇな。編集さん、早く帰ってきてぇー……」
「どうなされたんですか」
「かえってきたぁっ!? いそいで! にげよう! どこ!」
「どうなさったんですか脳味噌のCPUのレベルをガッツリ落として」
落とさざるを得ないんだよ! 限界だよ! 何もかもが! 処理落ちしそうだよ! あのモンスターみたいなお姫様が目の前に居たんだよ!
「……とりあえず、一度この町から出ましょう。その間に話しますから」
「分かった、急ごう!」
「本当に何があったんですか先生。モンスターを相手にして生き延びたみたいな反応してらっしゃいますけど本当に」
実際モンスターみたいな超人を相手にしたんじゃよ……いや見ただけだけど。
「で、どういう情報が見つかったんだ」
「いえ、情報という訳ではありませんけども。そもそも、逃げ場所の情報を聞いて回ったら明らかに不自然ですし」
「えっ、じゃあ何を聞いてたの。逃げ場所探すって言ってたのに」
「その情報を集めるとは言ってません。探す、といっただけです」
同義みたいなもんでしょうに……じゃあ、情報を集めずに、どうやって探したってんだこの人は。
「私が探してた情報は……まぁ、この国の歴史的な物です」
「歴史ィ?」
「先生が、王子の国と、隣国を設定した時の話、覚えてますか? 当然ながら実際の国などを基にして取材もしましたけど……その両国は、元々中の悪い国同士が、この二国の元だったはずです」
「……覚えてるけど、それがなんだよ」
「王子が、隣国の姫と知り合うきっかけは、両国の小競り合いでした。であれば、昔も何かしら、戦争が起きていたのではないか、と思ったんです」
あー凄い頭が回ってらっしゃる!? いやぁそりゃあ、城とか、取材旅行とかいった、というか行かされたのは間違いないけども、それをそんな形で利用する!? 出来たのが本当……頭良いなぁ!
「で、面白い話が聞けました」
「面白い?」
「昔は、この国は隣国と戦争していて……幾つも崩壊して、使い物にならなくなった砦なんかが、ある、との事で」
アンデルセン先生ごめんなさい。
王子と人魚姫に比肩する重要キャラ、そりゃあ化け物レベルに強くするってもんですよ。




