許すまじなりすまし
……町から出る時が一番危険、という話だし、油断は出来ないな。
「――誰も見てない……よし」
もう、こうやって誰かの目を掻い潜って生活するのにも慣れちゃった俺がいる。しかし安全の為に出向いたというのに、なんで俺はあんな所に戻るというのだろうか。もう屋内と言ってすらいいのか分からん。
「もう一週間だしなぁこうしてんのも、っと」
ここは、確か左に曲がるんだっけ……あー、やっぱり慣れてない。慣れてたらこういう道順をササッといけると思う。というか、道順が複雑すぎるんだよ幾らなんでも、そりゃあ隠れ家としてふさわしい所じゃないとダメだってのは分かるけど。
「なんだっけ……あぁそうだ! 右右左右左だ、確か。良し、思い出しちゃえば、えっとじゃあここは右じゃねぇか! アブねぇッ!」
迷う所だった……! はーこっわ、こんな森じゃ道順覚えて無けりゃマジで詰みまであるから。富士樹海に取材に行かされた時にそれは大いに学ばされた。学ばざるを得なかったよ。うん。
「っと、ここも右で、よしよし見覚えのある道だ……そんで、次がえっと」
「――左ですね」
「ふぉっぬぅほぉおおおおええええええええん」
……っはっはっはぁ……な、謎の悲鳴が、喉の奥から、ズルっと……落ち着け、ミーの内臓、この人は味方。余りにも冷静な言葉に肝も冷えるだろうが、大丈夫だから。というか声のかけ方が悪いと思うんだけど……
「もうちょっと、言い方何とかなりませんか」
「生来なので。それより、大丈夫でしたか」
「あぁ。取り敢えず、食事はこれだけ。今日作業してる間は持つと思う」
「であれば大丈夫ですね。後は、先日運び込んだ布で……ハンモック、上手く行けばいいですね」
「上手く行かなかったら睡眠不足がほぼ確定って事になるからな。成功して欲しい」
……なんで俺ら、こんなサバイバル染みた事してるんだろうな。ホント。あ、肺手伝いますんでもうちょっとお待ちください。ちょっと、足が疲れてしまって……
――編集さん曰く、看板を見た時点で商人さんの荷台から俺を下ろして逃げたのだという。万が一、俺の素顔を見られても実にマズい事になるという事で。ナイス判断だと言い方しかできない。
「どういう事だお尋ね者って!?」
「分かりません。ただ、あの立て看板に書かれてる顔、明らかにお顔が似てらっしゃいましたけども。というか先生そのものでしたよ。ほらアレ」
……おぉぉぉぉおおおおおん!?
「俺だァ、俺が居るゥ……なんか、スラム街で育ったと思われる人相の悪さの俺が存在してらっしゃる。えっ、なに? そんな凶悪な面してないけど……?」
「若しくは余りの凶悪犯ぶりに似顔絵の方が気合を入れたか」
「俺なんもやってらっしゃいませんけども????????」
冤罪も甚だしい。俺がこの国に来たの今日だぞ。今日まで俺は、あくまで冷静に、一市民として過ごして来たんだけども。それが信用ボロカスになりそうな状況に突如追い込まれるとか悪夢でしかない。お助け下さい。
「――どうするっ?」
「逃げる……のはちょっと。ここまで来て、逃げ出すというのも些か危ないと思うのですけれども。此方から非を認める事はいけません」
「なんか真面目に裁判か何かなのかなコレって」
完全な冤罪だからさ、もう勝訴に訴訟して当然だと思うんですけれども。あっ、ダメだ混乱して頭の中のろれつが死んでる。
「とはいえ、堂々とお外歩くわけにもいかんでしょうよ!」
「……まさか持ってきたどこでも野営セットを早速使う事になるとは……」
「それって要するに包まる用の布でしょうか!」
嘘だろ、安宿でもいいから速攻でベッドにもぐりこんでやろうと思ってたってのに隣国初日野宿!? 悪夢どころの話じゃねぇぞ! 野犬とか出るだろうに! どうすんだよ噛まれたら! 狂犬病!?
「くっそ、クッソ! 誰だよ俺に成りすましてこんな事しでかしたど阿呆は! 磨り潰してやる! 見つけ出して! 何処をとは言わんが! いや言うわ、男の急所を徹底的に狙って! 潰 す!」
「そうする前に今日の寝床を安全に確保する方が宜しいかと」
「くっ、正論。といっても、どうするんだよ」
「先ず先生はここら辺に居てください。私が情報をかき集めてきます」
「えっ、ここらへん? ここら辺というのは……本当にここら辺ですか?」
あの、道端なんですけど。なんだったら立て看板の近くなんですけど。そんな所に居たら誤解されかねないんですけれど?
「……こんな時の為に、やっておいて正解でした」
「えっ!? 何!? なんか対策的な物が……!」
「汚しておいたローブがありますのでそれで浮浪者の振りをして凌いでください」
「ローブ汚したのってそういう時の為に!?」
嘘だろ……!? こんな時に俺はどうしてこんな所で浮浪者の振りをしなけりゃいかんのだ!? い、いや、本物の浮浪者の皆様に比べればそりゃあ振りくらい何てこと無いのかもしれないけど……いやそうじゃない!
「バレるだろその振りしたって!」
「大丈夫ですよ。ローブの汚れ具合は本職の方と比べても遜色ないどころか、むしろ先生の方が汚いまでありますよ」
「誇れるもんじゃないわ! ……ちくしょう!」
ほんとうだ……すっごいいいかんじのよごれにみえるなぁ……いや、もう、煤だとか色んなものがこびり付いて、茶色ではなくて、極限まで行ってしまった、どす黒い、悲惨な事になってしまったようにみえる……こ、コレを俺が被って、座り込むと……
「……浮浪者にしか見えねぇな! ああ糞やってやるよ!」
「涙を呑んで耐えてください。その間に、逃げ場所的な物を探しますので」
「おう期待せず待ってるからよぉ!」
――あの時、浮浪者に扮してた俺って、多分うつろな目をしてた気がするなぁ……はぁ……まぁ、それだけなら、良かったんだけど、逃げ場所が、なぁ。
アンデルセン先生ごめんなさい。
昔の浮浪者さんの絵、的な者を探して……無いっ! じゃあどうしよう! 浮浪者って入力すればいい感じの写真出るかな! あった! → ……何であったんだろう?




