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ポンコツ作家と有能編集、自世界を行く  作者: 鍵っ子
一章:ポンコツ、自世界に立つ
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幕間:小物は意外と大物

「――しかし、まさか盗賊の居た先に、あ奴が居るとは……お体の方は?」

「問題は無い。最も、向こうもそれは同じだろうがな。全く、ここまで反撃すら出来なかったのは……いや、蛇足だな」


 僅かでも気を抜けば、そのまま潰されて終わっていただろう、とは言わなかった。不安を態々煽って何の意味があるというのか。彼――王子は、自分の腕の調子を確かめながら先ほどの一撃の感触を、思い返す。


「しかし、奴とああして殴り合うのは、存外と楽しかった。久しぶりに、良い運動になったというもの」

「お戯れを。アレの蹴りを王子が貰う度に、心臓が冷えて冷えて……」

「誰も俺の相手が出来る者が居ないのが悪い。所で、賊は?」

「あ、はい。既に叩きのめされていた輩どもを含め、全員確保済みです」


 一種、その賊には感謝の一つもしてもいいだろう、という気分にすらなって居た。彼らが居たから、人魚姫と出くわす事が出来たのだから……と、そこまで考えて、王子は思考を切り替えた。あの闘いは心躍る物であったが、浸り過ぎてもいけないと。


「ならば良い。奪った品物等はどうなっている。どうせため込んでいるのだろう?」

「……それが、妙な話なのですよ」

「妙な話?」

「はい。あの盗賊共、ここら辺には宝を隠していない。そもそも来たばかりなのにどうやって自分達が居ると分かったのか、と。嘘かと思って、何人か絞ったのですが……答えは皆同じと来ました」


 ――そして、その切り替えた脳が、その話に大きな引っ掛かりを覚える。


「だとすれば、確かに妙だな」

「えぇ。そこに人魚姫も居たという。奇妙な偶然です」

「――馬鹿者。そこではない」

「えっ?」

「来たばかり、というのであれば、どうやって目撃したというのだ」


 そう呟いて、隣の騎士がハッと息を吞む音を右耳に聞いた。気が付いたのだろう。ここに来たばかりだというのが本当なら、そもそも目撃するのなど相当に難しい話だ。それが盗賊を二度も目撃した人物だと?


「信じられる話ではないな。にわかには」

「……確かに。ここらに根を下ろして、色々やっている時に見た、というのであれば話も分かりますが」

「都合が良すぎる。その放蕩貴族とやら、少し気になる」

「その貴族からの手紙を運んで来た、使いの者がいた筈ですけど」

「その二人から話が聞きたいな。書状を受けとった兵士から、特徴を聞きたい。急いでここに連れて参れ」


 ――その暫く後、騎士に連れられて来た兵士は、普段はマトモに顔も見ないような王族の前で、完全に委縮してしまっていた。


「えっ、えっと……何の御用でしょうか」

「お前に、盗賊発見の書状を届けた二人についてだ」

「はえ? あぁ、あの二人について、ですか。語り部の姉弟ですよ。ほら、俺達の慰安に来てくれた、あの」

「……凄腕の語り部を呼んだ、とは聞いていたが、彼らか」


 奇妙な偶然だ。とはいえ、これで居場所は割れた。町に逗留しているのを呼んだと聞いているので、町に迎えを送ればいいだろう。よしんばいなくても、行き先くらいは掴めるはずだ……と、そこまで考えてから、傍らの騎士に声をかける。


「今すぐでなくても構わん、その語り部の姉弟、城に連れて参れ」

「承知しました。それでは、兵士達も、度重なる賊討伐で疲れておりますので……そうですな、三日後には必ずや」


 そう言って下がっていく騎士を尻目に、王子はもう少し、目の前の兵士に話を聞く事にした。万が一、間違えた人物を連れてきても、しっカリと分かる様にと。


「それで、その姉妹は、どんな人物だ?」

「えぇ! そりゃあもう、驚く程に美人ですよ、姉の方は。俺なんかより背も高いですし体形も、正に、あれは、完成された、こう、美って言えばいいんですかね! 金の髪がそりゃあ綺麗なもんで!」

「ほぅ。成程な」


 金の髪、背が高い。王子が記憶したのは、取り敢えずそこだけだった。


「弟の方は?」

「そっちの方は、顔を見た事が無いんですよ。ずっとぼろ布を羽織ってて……なんでも人前に顔を出したくないそうで。後、そこまで背は高くないですね」

「……顔を見た事がない?」


 明らかにおかしいではないか、と言いそうになって、何とか堪えた。怪しい。ぼろ布を被っていて、顔すら見た事がない。それこそ、賊の一味レベルの怪しさではないか。どうしてそんな人間が普通に見逃されているのか。


「まぁ、怪しいですけど、別にそんな大した奴じゃありませんよ」

「そう言い切れるのは、何か理由でもあるのか?」

「はい。アイツ、酒場に言っても酒も飲めない、素面でもシスコン、なんて揶揄われても語り部の姉貴にべったり、ってんですから」


 本当に大したことがなさそうな情報しか出てこない。そこまで情けない、小物染みた人物であれば、顔も見せない、ずっと襤褸布を羽織ってても、誰も気にしないというのも頷けるのではあるが。


「――まぁ、一応、その弟にも顔をしっかりと出して貰った上で、話をしてもらおう」

「そんなに気になりますか」

「素顔を布を被ってずっと隠すというのは普通ではない」


 とはいえ、その男、無視という訳にもいかない。多分何も出ないだろうが、万が一という事もあるのだから。


「まぁ、言われて見りゃあそうですけども」

「――っと、用はこれで終わりだ。持ち場に戻れ」

「あ、はい分かりました。それでは失礼いたします」


 兵士を返し、王子はくるりと振り返る。語り部の姉弟は兎も角として、賊の発見に関しては実に気になる所ではある。彼らから何か聞ければ、そのきっかけ程度は掴めるのではないのだろうか。


「もし、何かしら、問題があれば……」


 それを手柄として、もう少し自由に動けるかもしれない。いけ好かないあの国王、父親を相手では、手柄の一つでも立てねば話すら聞かないのだから。


「……全く、世界の一つでもひっくり返す程の手柄でもあれば、奴を永遠に黙らせる事も難しくないのだがな」


アンデルセン先生ごめんなさい。


先生は小物だけど、抱えてる物は大物。

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