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ポンコツ作家と有能編集、自世界を行く  作者: 鍵っ子
一章:ポンコツ、自世界に立つ
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ステゴロ台風の目

「――まだっ! 粘る! とはねっ!」

「貴様こそ……途切れぬその蹴り、賞賛に値する……っ! だが、これまでっ! そろそろその激流、我が門が、断つ!」

「人の域の技で、災害が如き私の技をか! 面白い、やってみなっ!」


 いやーやめて頂いて良いですかねぇあっもうダメだ入ってる入ってる技に……伏せなさい私! 命を大事に! っひぃっ!


「……今の一発、向こうの海に若干、波立ててませんでした?」

「いやぁ気のせいだと思いたいけど俺にも見えましたね。ひゃーっ!」

「急にどうしたんですか。何を急にお笑い芸人を志してるんですか」

「引き笑い=お笑い芸人じゃないから。寧ろ普通の笑い方の方が多分重宝されると思うんだよな……いやそうじゃなくて」


 別に志してるのはお笑い芸人じゃないし、なんだったらとっくに志の果てに走り抜けていった挙句に虎の巣に突っ込んで虎の尾を踏んでその虎にケツをひっぱたかれて書き続けるとかいう三つ首タイガー、もはやなんという魔改造ケルベロスか。


「どうすんだよ。いよいよ逃げるタイミング失っちゃったぞ。あの嵐の真っただ中、ここは台風の目と同義だ……脱出しようとしたら細切れだぜマジで」

「こうなったら決着つく迄見届ければ宜しいのでは?」

「うーん呑気。しかしそれが正解っぽいのがまたムカつくと申しますか」


 ……となれば。もうじたばたしても仕方ない、か。


「ノンビリ、俺達もあの決闘を見届けるかぁ……いや、ノンビリは無理だわ。今王子様が地面踏ん張っただけで、こうちょっと割れたわ。怖すぎだわ」

「――その割には、酷くワクワクとしていらっしゃいませんか?」

「……」


 ワクワクって、年でもない。怖いのは間違いないし。なんだったらもう小便撒き散らして逃げてもおかしくないとは思うし。まぁ……でも。


「俺の想像した英雄二人の殴り合いな訳だからなぁ……そりゃあ、感動して腰が抜けちまってさぁ……逃げようもないわな」

「そうですか。良かったですね」

「良くはねぇな。感動して逃げ出しようが無くなったとか唯の間抜けだよ」


 んー、いやでも、本当にカッコいいなぁ、特に蹴りとかの後の残心が、蹴りに残心あるのって? ある。というか武道に関わる全ての型には残心が存在していると言ってもいい。因みにその取材もして、見惚れてしまって変態ですかとか言われたのはご愛嬌。


「いえ、ただ間抜け、という訳でもないと思いますよ、私は」

「……そうかい?」

「人魚姫や、王子は、傍から見てもとても魅力的なキャラクターだと思います。先生がしっかりと小説内で書き込んだからこそ。その証左ですよ、そうしてご自分でも感動してしまっているのは」


 う……あの、あーっ


「なんだ、その言い方は……ちょっと、なんだ。アレだよ。やめてくれ。なんか、恥ずかしくなってくるから。なんだ、こそばゆいぞ」

「事実だと思いますし。先生は、私の無茶にも応えてしっかりと仕事をして、そして無茶を振った分、素晴らしい成果を上げてくださいます。どれだけ無茶を振ってもどうにもならないなら、そもそも私は先生の元に居ませんから」

「……何時も言われてるけど、今それを言われるのは、ちょっと……」


 感じが違うな。余計に恥ずかしくなって来ちゃったよ。いや、マジで。あー、このヤバイ顔真っ赤になりそう、もう火が出てるまである。


「まぁ、感動してる場合ではないんだけどなぁ……あークソ、蹴りがカッコイイ」

「そうですね。褒めている場合じゃありませんね。全力で離脱するタイミングを計らないといけません」

「とはいえなぁ、あの嵐の様な殴り合い……ん?」


 殴り合いって言うか、王子の防御を、人魚姫が全力攻撃で崩そうとしているだけなんだよなコレ。まぁ、その殴り合いで恐ろしい余波が出てるだけだけど。地面は安全な訳だけど……もう一つ……安全な……


「――あっ」

「どうかなされました?」

「いや、あったかもしれない。逃げ切る為のルート。奇跡的に見つけた」


 いや、あの良く考えたらさ、人魚姫の攻撃を全部受けてさ、全く退いてないパーフェクトな壁が存在してるじゃないかと、目の前に。


「……まさかとは思いますが」

「王子様には、我々の盾となって貰おうじゃないか……?」

「本気でやるつもりだこの人」


 この状況自体が正気の沙汰じゃないんだ。こっちが正気では突破は出来ぬ。となれば、此方も狂気に身をゆだねるしかないだろうよ。幸い、王子も人魚姫も、お互いに集中しきってこっちには目もくれちゃいない。


「今、丁度人魚姫、王子、俺らの順で縦に並んでる。逃げ出すなら、今の内だろう」

「しかし」

「あそこは、台風の目の様な物だ。戦いの真っただ中こそ、安全地帯は存在するんだよ編集さん。さ、行くぞ」


 時は今しかない。現実離れした光景に、多分頭の中のブレーキも吹き飛んでる。とはいえ足は抜けたまんまだから這いずって出るしかないけど……あっ、待って、這いずったままじゃ出られない。


「たすけて……」

「……はぁあああ。まったく。ちょっと失礼しますよ」


 いやホント、スイマセン負ぶって貰って……なっさけねぇ姿だよ。自分よりタッパがあるとはいえ、大の大人、しかも男が子供みたく女性に背負われるとか、カッコつかないにもほどがある。


「――本当に静かですね、ここ」

「ふはは。王子と人魚姫は対等の存在だからな。彼女の蹴りを受け止められるのは王子だけ、そして彼の背後は、人魚姫からの破壊を免れる安全地帯という事だ」

「足の不自由な彼女が足をもつれさせたところを、王子が受け止める、というのが原典での流れだと思いますけど……」


 そんな可哀そうな人魚姫じゃハッピーエンドは難しいんだよ。いや、これも中々に健康的過ぎると言われると何も言えんが……


「……無事に離れられました、か?」

「うん。少なくとも、巻き込まれる範囲からは逃げ出せた、と思うけど」

「後は帰るだけですけど、木に塞がれてるんですよね。道が」

「そうなぁ」


 ……いや、よく考えてみたら。


「今ならこの木を迂回するなりしても巻き込まれる範囲に居ないんだから、普通に行けるんじゃないか?」

「なるほど」


 さっきは嵐の真っただ中だったからね。でもま、こうやってノンビリ逃げ出せるなら別に時間をかけて……あの、ちょっと。俺を放り投げてしまった方が手っ取り早いって、ちょ、アンタ何をする、ちょっと、やめっ


アンデルセン先生ごめんなさい。


王子とは……人魚姫とは……

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