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ポンコツ作家と有能編集、自世界を行く  作者: 鍵っ子
一章:ポンコツ、自世界に立つ
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カッコつけられない修羅場

「追手は!?」

「来てないです。どうやら逃げ切れた模様ですよ。やはり先程の激突で大分混乱してらっしゃるのでしょうね皆さま。僥倖僥倖」

「マジかぁ……いや、それは今はどうでもいいか。さっさと宿に帰って、突破できたかを確かめないと……しかし、これで突破できなかったら、マジでどうすれば良いんだろうな俺達は」

「何とかするしかないでしょう。その時はまたサポートいたしますので」


 そう言って貰えると有り難いけれど。


「ったく、それにしてもまだ聞こえてるよ。二人の衝突音」

「コレは朝までコースですかね」

「現代だったら間違いなく不信音として通報物だけど。まぁ、それだけ熱いバトルなら作者としては、セッティングした甲斐が……あれ? もうちょっと恋愛方向に持ってくる予定だったのに、熱いバトル展開してる……?」


 おかしいな。今までの修正点二つだって、結構恋愛方向に上手い事シフトするようにって頑張ってた筈なのに、もう今回はそんなの関係なくなっちゃってる。もう見所作ればいいやって感じに……


「……妥協してる? ちょっとずつ……? 駄目じゃねぇか俺ってば……」

「――バトルが彼女たちの会話なのであれば、殴り合うのは恋文を送り合う行為に等しいのではありませんか?」

「成程! そうだな!」

「そうですよ」


 俺としたことが……なんて事だ! もうちょっと冷静に考えればそう言った発想だって出てきたというのに。弱気になって居た様だな。


「よーし、もう何も問題ないな! 帰ろう!」

「そうですね……チョロいなこの人」

「何か言った?」

「いいえ何も。さ、元気になった所で、行きますよ」


 おうおう……しかし。アレだけの殴り合いを演じてれば……心配はいらないかな。これでまだ生き残ってたりしたら、それこそ人間じゃないと思う。


「……まだ何か?」

「ああいや……盗賊君達はもう気にしなくていいなと思って」

「盗賊って、人魚姫がシバキ回していた? 彼らは彼女が全滅させたはずですけれど」

「いやぁ、確定してはいないからなぁ。ボコボコにしてたのは確かだけど。そもそも全滅したかとなると分からなくない?」

「……王子の軍勢が雪崩れ込んで、有耶無耶になってましたね」


 うん。だから、ちょっと不安に思ったけど……まぁ、あの闘いに巻き込まれて地獄みたいな有様になってるだろうし。


「――へへっ、地獄に仏だな本当に」


 こんな風に、絡まれて、急にピンチになる可能性とかも、もうないと思って居たんですけどあー目の前にアイパッチつけてる髭モジャが存在してらっしゃるんだよなぁしかもお仲間っぽい体のガタイの良いお方がいらっしゃる事で……!


「あの地獄みたいな二人から逃げてきたら……良さそうな女がいるじゃねぇか」

「頭、コイツを売り飛ばせば、少しは金も入るんじゃないですかね」

「あぁ。今は何よりも金、金、金だな。まぁだから安心しろ嬢ちゃん、売り飛ばすまでは丁重に扱ってやるからよ」


 あーしかももう『ねーちゃんこれからしけこもうぜ』とかじゃなくて、もう速攻で人攫いムーブメントじゃないの……一番厄介なパターンじゃないの。死ぬじゃん。いや死なないけど。


「隣の男はどうします」

「使い物になるかも分からん。殺すぞ」

「そうっすね」


 あースイマセン俺死にます。そりゃあ男の方は要りませんよね需要ありませんよねはいはい分かりました……っ!


「悪い予感が的中しましたね」

「――仕方ねぇ。編集さん。分かれて逃げるぞ」

「そうですね」

「俺は正面。アンタは宿の方に向けて全力で走れよ。出来れば早めに助け呼んでくれるとありがたい。じゃないと死ぬから」

「――何言ってらっしゃるんです?」


 ……いや、正直俺も一緒に逃げたいけどもさ。ね?


「アンタ、捕まったら酷い目に合うだろ。マジで」

「だからってなんで先生が、正面って、彼らが居る方向ですよ」

「時間稼ぎって奴だよ。大丈夫、最悪、俺は人魚姫達が殴り合ってる方向に逃げる……から。生き残れる、とは思いたいけど」

「それでしたら私が」

「舐めんなよ? こちとら秘境の土地に飛ばされて、その土地の生物共と丁々発止とやり合ったことだってあるんだ。アイツ等に比べりゃ……まだマシだよ」


 まぁそんな経験ありませんけども。大嘘ですよ。まー、でもさぁ……なんだかんだ言って色々と、この世界に来る前も来た後も、沢山世話にはなったし……世話以上に苦しめられたこともあったけどもさ。


「ま、大丈夫だ。精々逃げ切って見せるよ」

「先生……」

「だから命乞い用のお金をちょっと渡しておいてくれると助かる」

「台無しです。酷いです」


 うん。保険はかけますよ。死にたくないですし。


「兎も角、アンタが逃げる位の時間は稼げるだろうよ……大丈夫だ。死にゃあしない。というか死にたくはないから全力で足掻くから」

「――分かりました。彼らにお金を払ってどうにかしてもらう積り、と」

「死ぬくらいだったら幾らでも頭下げるし、金も渡す」

「……では、先生は下がっていてください」


――どんっ


「……えっ?」

「先生をサポートするのが私の役目です。逃げてください。お早めに」



 おい、ちょっと待て、アンタ、何やってんだよ。俺に金渡して、逃げろって言ってんじゃんか。なんで、編集さん、ちょっと!


「――申し訳ありません。手持ちはこれしかないのです。見逃して頂けませんか?」

「なんだ? 随分と物分かりが良いじゃねぇか……だが聞けねぇな。今日はそれなりに良い一発を貰っちまって、それなりに稼がねぇと腹の虫が収まらねぇんだ」

「っちょ、ま、まてっ!」


 逃げられるかっ、こんなタイミングで……! 止めろっ!


「そ、ソイツに手を出す――」

「――墳ッ!」

「雄ォォォオッ!」

「……やめろっ! 今すぐ逃げろ! 伝説の超王子と超人魚姫が乱入して来たぞ! みんな死んじまうぞぉおおおおおお!」


アンデルセン先生ごめんなさい。


そりゃあドラゴンとオーガが殴り合いしながら乱入してきたら誰だって逃げるんだと忠告したくもなるのである。

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