基本的にピンチからスタートする根本ダメ人間
……んー、女の子が手紙を書きたくなるような、そんな理由……待てよ?
「そもそも人魚姫の書状を偽装するという線はないだろうか」
「無いですよ。というかそれだと最早主人公をハメる黒幕ムーブになると思いますよ。そこら辺のモブとして振舞うなんてもってのほかですよ」
「うーんネームドになれないモブ人生……」
「あ、その題名面白そうですね。書いてみます? そのタイトルで」
「いやぁそんな素っ頓狂なタイトルの小説書く気にはなれないなぁ」
「ご自身の小説のタイトル、まさかご存知でない……?」
何の事かな……? 俺の小説のタイトルは人魚姫っていう本家のタイトルがしっかり入ってる、至極マトモな小説のタイトルであると考えているのですか?
「それは置いておいて。やっぱり書状偽装は基本的にアウトだな」
「えぇ……王様への書状は、あくまでこの物語に人魚姫の母親が殆ど関わってこない、そして送る立場の相手が黒幕の立場だったから使えたウルトラCですから」
「まぁ、そうよなぁ。そう上手くはいかんよなぁ」
とはいえ、俺達が何かして、偶然彼女がお手紙を書くって言うのは、本当に細い線なんだよなぁ。やってみてわかったけど。それをどうにか手繰り寄せようと思うと、余程直接的な手段に頼るしかないというか。
「ふーん、腐らずやるしかないなぁ」
「――ねぇ先生。どうして王様に人魚姫を追跡させたのを、間違いだと思ったのですか」
「……ん?」
なんでって。そりゃあ前に説明したけども……
「結局の所、あの王様の動きが有ったからこそ、王子と人魚姫のラストは、互いが互いを削り合う決戦になった訳だし……」
「それは先生にとって、意に沿わない結果だったと」
「そこまでは言わないさ。アレは、俺が出来る二人の最良の終わり方の一つだとは思う。とはいえ、どうしたってあるんだよ。その当時最高の出来のモノを後から見ると、こっちの方が良かったんじゃないかって、IFを考えちゃうのはさ」
前も言ったっけ、こんな事。
「ですが、先生がその王様を使ったからこそ、この物語は成り立っているのでしょう?」
「あぁ、まぁそうだな」
「そこが変わってしまっては、物語は、最早別のモノになってしまうのではないのでしょうか……と、ここまで付き合っておいて、今更こんな事を言うのは卑怯かもしれませんけども」
……そうだなぁ。必死こいて書いて、兎に角努力して、そしてその末に考え出されたキャラクターは俺の手を離れ、的確に人魚姫を襲い、二人の傷害として立ちはだかってくれたわけだ。そして、その流れで、この小説のオリジナルのキャラクターも、色々と生まれた訳で。ふむ。
「――まぁ、確かに今更それ言う? とは思うけども」
「申し訳ありません。私も、ただ目の前の物事を解決すれば良い、と思い込んでしまっていたようで。其処を変えて、本当に大丈夫なのか、等……編集の私が、誰よりも早く気付かなくてはいけなかった部分です」
「って言っても提案したの俺なんだけども」
そして編集さんの言ったことは全て俺に帰って来るっていう。ヤバいな、罪悪感がまるで山のように積み重なっていく!
「根本から戦略を変更する必要がある、というのは間違いないかも知れません」
「いや、にしてもループの原因をどうにかしないといけないと、抜け出せないんだからさその辺りを考えれば、妥協するしかないんじゃないのか?」
「――そもそも修正する箇所が違うのではないのでしょうか」
えっ?
「いえ、冷静に考えたんですけど。王様に干渉を控えさせるように書状を出すという事は当然自分の配下、というか息子にも追跡をやめる様に命令するのでは?」
「…………んっ? …………あっ」
そ、そういえばそうだ。王様の命令で人魚姫を追跡する邪魔者が解き放たれたのもそうだけども……そもそも王子が人魚姫と何度もぶつかり合うのも、王様が人魚姫を追いかけてるっていう大義名分を得たからでは?
「つ、つまり王様の動きを自重させる事は……」
「寧ろやってはいけない事ではなかったのかなって、ほんっとうに今さらですけども」
……今更にすぎるわぁアアアアアアアっ! お、俺って奴は! どうしてこんな簡単な事にも気が付かずに今までやってこれたもんだ! マジで脳味噌の皺、足りてないんじゃねえか!
「がっ……お、おれが……こんな、間抜けを……晒すなんて……っ!」
「顔面がぐにゃっと。コレが顔面崩壊ですか。成程成程」
そ、そうかっ……ループした原因がようやくわかった……そもそも、俺が立てた予想が根本から間違っていたんだっ! そりゃあループだってする、俺が自ら間違いを生み出したんだからよ。そりゃあ俺自ら裁かないといけないわなぁ。
「これが……生みの苦しみ……っ!?」
「全国の母親の皆様に謝って頂くとして。さて、そうとなれば王様への書状を書こうと思って書いた此方も、まぁ見事に無駄になった訳ですが」
……あぁ、買っておいたインクと紙ね。まぁ、態々買った訳だからねぇ。
「書くだけなら木炭と……いや、俺の布をずっと使われるのもアレだけど、最近黄なままの面を表にして被って誤魔化してるから、汚れてる方表に出したら間違いなく浮浪者扱いだしなぁ」
「裏面も汚しましょうか折角ですし」
「またメモするって事!? 良いじゃんか! 別に必要でなかったとはいえ、紙とペンを買えた訳だからさ! ソッチに書けばいいじゃんかよ!」
「庶民に使える筆記用具云々……」
「買ったんだから使って良いでしょうよ! そりゃああん時は買う予定も無かったんだから安上がりにするために木炭を使ったけれどもさ!」
……いや、しかしその使わなくなった手紙。
「使いようがあるんじゃないか? 何か」
「使いようと申しましても。あくまで私たちがそこら辺の何者か、として振舞うには書状を偽装する手段は余り相性が宜しくないのでは?」
「……問題は王子への書状だ」
盗賊を止めるというか、商人さんの動きを止める為の一手だけど。それを、何か別の事に応用できないか……っ!?
「……いやっ、まて」
「何か、思いつきましたか?」
「――確実、とはいかんかもしれんが。ないことは無いぞ」
アンデルセン先生ごめんなさい。
『先生』も私もそんなもんです……




