君に縛られて僕は屈辱
「良いか! そこで大人しくしていろよ!」
はいはい。アンタとももう一方的に顔見知りだよ……さて。
「さ、とっとと脱出しましょう先生。幾ら慣れるのが遅い先生でも、そろそろ慣れたでしょう」
「勘違いするなよ、ア ン タ の 慣 れ が 早 す ぎ る ん だ か ら な !?」
「そうでしょうか?」
「常識を打ち破るにはそれだけの覚悟と時間が居るんですゥウウウウウ! ハイこの話はもうおしまい! 切り替えましょう!」
正直このループから出られない可能性は無視してるけど。それだったら詰みだからね! という事でいい加減この謎現象から逃げ出さないといけないのだ! 何とかしよう!
「ここから脱出したらどうします?」
「……当然の様に脱獄するのはどうなんだと思うけど。まぁ、なんだ。いい加減外に脱出しても仕方ないであろう事は悟った。この城の中に活路を見出そうと思う」
ただなぁ……脱獄したのがバレれば絶対……痛い目見るよなぁ。死ぬよなぁ。死んだら間違いなく終わりだろうな……良し。
「先ずは服でも探そう」
「変装ですか?」
「……素人考えだけど、安全に行動したいからなぁ」
「先生の顔は平凡ですからね。目立つ服装でさえなければ誰にも気に留められませんし」
「あぁあああああん!? シレっと人をモブ顔呼ばわりしたかこの鬼編集!?」
はっ、この場合はモブ顔の方が良いんですぅー! バレないように周りに溶け込みやすいんですぅ―! かーっ!
「そう言うアンタこそ溶け込みにくいお顔なさってる事でねぇ! 美人さんだからまぁ目立つでしょうねぇ! 頑張ってくださいねぇー!」
「大丈夫です。美人というのは溶け込む必要もなく、顔の暴力で何とかできますので。私並の美人ではなく、人の魂を抜くレベルの美人なので」
「アンタ大分吹っ飛んだ発言してるって理解してらっしゃる?」
自分が美人だからだれも疑いはしないって、美人は何者からも許されるって恐ろしい発言をしてらっしゃいますよ? 悪役令嬢そのものですよその発言は?
「じ、自信過剰……と、いえないのが本当にムカつくっ……マジで美人なのは間違いないからなアンタってばよぉ……」
「なので先生の足手まといにはなりませんよ」
「いや、足手まといになりそうなのは俺だってわかって言ってんなアンタ」
「……まぁ」
「きーっ! みてろっ! マジで! 同じレベルの事やり返してやるからな!」
「セクハラですので後程通報いたしますね」
「自覚できてるならそれをやめろ!」
ホントコイツは……一遍ちゃんと人の扱いというモノを分からせないと駄目な気がするなホントコイツ。
「なぁ、一つ聞いて良いかな? 編集さん」
『なんでしょうか』
「なんで貴方はフルアーマー? そして俺は完全に変装の一つも出来ないまんまでなんでお縄を受けているのかな。」
そう。この人、ちょろまかして来たのがまさかの鎧である。なんとこの人、壁に飾ってあった物をそのままひっべがして付けたのである。力技にもほどがあるのだが……その上鎧を装備した途端に俺を縛り上げてきて……このザマである。
『いえ、確かに美貌の暴力で押し流す事も出来ますが、こっちの方が確実かと』
「俺に無理くりSM縛りプレイ強要すんのが?」
『はい、脱獄した囚人を捕まえて、お城の中を好き勝手。見つかってもまぁ、囚人連行という感じで誤魔化せば行けますし』
「先生を囚人にジョブチェンさすなこの編集!」
チクショウ、横山先生もビックリの裏切りサスペンスだよこんなん。思わず怒りのあまり崖上With刑事も辞さんわ。そもそもバレるだろうこんなん! 明らかに怪しいわ!
「――ん?」
ってあマズい、ちょ、お兄さん待ってください私達は怪しい者じゃなくて、ですね。ハイただの作家と編集と申しますか……!
『これはどうも。囚人が脱獄したので、連行中であります』
「お、そうかそうか。良くやった。先程から城全体に厳戒態勢の命が下っているからな、その所為で牢の監視塔は緩んでいるやもと思って居たが……見張りが付いているのであれば安心だな。任せるぞ」
「いやアンタそれでいいのか! ちょっと! ちょっと待って!」
「うるさい囚人、さっさと檻に戻れ。貴様が何の罪で掴まったかは知らんが、脱獄なんてしおって、罪が重くなるだけだぞ」
その脱獄を決行させてしまったのは後ろに居る兵士擬きなんですけども?! このスットコドッコイ編集、呑気に口笛なんぞ吹きやがって……! とぼけてんじゃないわよ!
『お任せください、キッチリと牢にブチこんで置きます』
「おう。頼んだぞー」
「気づけ! 気づけアンタ! おかしいのは此奴の方なんだぞ!」
『黙りなさい。貴方に発言権はありません。この期にお論で下らない言い訳なんてして、全く反省の色が見えませんね……』
気づけ! ソイツは壁に引っ掛けられた鎧を引っぺがし、自分の担当する作家を囚人に仕立てるような悪鬼羅刹なんだぞ! 此奴の、コイツを見逃しちゃいけない!
「……」
『――ナイス囚人の演技でした。先生』
「全 部 本 音 だ よ ! おま、お前っ! ホントッ! マジでッ!」
『どうしました? 限界オタクですか?』
「良く言えたなあんなセリフ! 窃盗! 器物破損に身分詐称! それだけやって全くノーリアクションで!」
『やると決めればやれる人間ですので、私』
「それは人間として大変な美点だけど今の状況に当てはめるとあっと言う間に極悪になる不思議……っ!」
し、しかし頼りになるムーブなのは事実! この可笑しなケイオス空間にお別れをするにはこれ以上の素質は無いだろうが。しかし釈然としないのは何故だろうか……
『じゃあ行きましょうか』
「あぁ……物語のお決まりらしく、鍵になりそうな何かが転がっていてくれると助かるんだけど」
そう上手く行ってくれるかどうか。
「……あれ? というか、もしかして俺。コレが解決するまでずっとこの羞恥状態さては」
『それが一番自然なので。大丈夫です。実にお似合いですよ?』
「わーっはっはっ! 全くもって嬉しかねーや!」
お縄にされて喜ぶなんてもうそれは変態のソレだと思うんだよねぇ!
「なんで俺こんな目にあってるんだろう……一応、この世界の作者、だとおもうんだけど」
『グチグチ言ってる間に歩いてください』
「アンタは兵士の役が良く嵌ってる事!」
『……あ、ありがとうございます』
「照 れ ん な ! 褒 め て ね ぇ !」
――ドッグォォォォォオオオオオオオオン……
アンデルセン先生ごめんなさい。
友人がいっぺんやって欲しい、と言っていてびびりました。