終わらぬ明日へ
「――『こうして、赤い靴の少女は、老夫婦に見送られながら、愛しい彼の待つ協会に向けて、足を進めていったのです』。めでたし、めでたし」
「「「……っシャアアアアアアアアアアアッ!!!」」」
うおうっさ!?
「喧しいぞオイ! ここが俺の店だってこと忘れんな!」
「良いじゃねぇかオヤジ、ちょっとくらい騒いだって。ケチケチするんじゃねぇや!」
「ちょっと、じゃないだろうが! お前ら、目の前に神さん降りて来たみたいな歓声上げやがって! この酒場を奥様方の噂の的にするつもりかテメェら!」
「噂になるほど人気でも無いだろこの酒場」
「良しお前ら叩きだされたいんだな? 覚悟決まってると見て良いんだな?」
「うわーオヤジが切れたぞー、逃げろー逃げろー、ウワー」
あーもうこのままじゃ店内大乱闘だよ。仕方ない。編集さんへのおひねりがうやむやになるのも勿体ない、ここは冷静になって頂かないと。
「まぁまぁ店主さん、落ち着いてくれ」
「兄ちゃん……」
「姉さんの折角の部隊なんだ。あんまり潰したりするのはご勘弁だぜ。ここは、俺の顔に免じて……あんまり乱闘とかするのは、勘弁しちゃくれないかね」
「――おう兄ちゃんはいい加減に酒を頼んでくれや。そんな事を叩く前に」
おおっと藪を突いて蛇出しちゃったかなぁ?
「すまん店主、また今度だ……」
「もうそれ何度目のセリフだアンタ! いい加減にアンタに押し付けられるリンゴも飽きてきたんだよ! 十個近く押しつけやがって!」
「そう言わないで頂戴。リンゴ美味しいでしょ?」
「うるせえな、何個かは酒にしちまったよ。食いきれるかリンゴばっかり」
それはね、完全に正論も正論と申しますか。一番、アレなんですよ無難な、その……贈り物かと申しまして。あの。
「――あぁ、皆さま。いつも通りありがとうございます」
「ほ、ほらオヤジさん。姉さんにおひねり上げて頂けるとありがたいですけど」
「……まぁ、良いけどよ。いい加減になんか酒頼んでくれると、嬉しいんだけどなぁ?」
いやぁ、すいませんねぇ。永遠に注文しないと思います。ここでべろんべろんによって下手こくのはあんまり宜しくないから。迂闊に俺がやって来た事喋ったりすると哀しい事になるから。打ち首とか。
「しっかし、ああいう恋の話って言うのは、なんつうか新鮮だな。結局どんな話も、大抵哀しい結末になるって聞いてたが……」
「ふ、舐めちゃいけない。そんな今の風潮に合わせたばかりの話じゃ、安定した面白さしか得られない…………って、姉貴が言っていた、気が、しないでもない気がしたんだけどもまぁ」
「ほー、さっすが語り部さんだなぁ。言う事が違うぜ」
ホントは俺が言っていたんですけどもね? というか、より正確に言えば、あの人にそうするように仕込まれたから、だから間違っちゃいないとも思えるんだけど。
「……しかし、調子いいのはいいんだけどなぁ、その、雇って貰ってる貴族さんは大丈夫なのか? 大分時間経ってるけどもう、休暇も終わってんじゃねえか?」
「っあー、あの、えっとなぁ」
漸く来たかこの質問。うん。しっかり打合せしておいた通り、ちゃんと話をしておかないといけないか。いやしかし、想定内とはいえ、マジでこういう質問が来ると、しっかり対策しておいて……ああいや、今は良いか。
「実は、その……」
「良い淀むって事はお前まさか!」
「うん、完全に首になり申したよ。大分前に。今の収入は、これだけだなぁ」
「うっわマジか、そいつは、なんともご愁傷さまというしかないか」
まぁ、実は最初からそうだったから。別に関係ないんだけども。とはいえ何時までも嘘を吐き続けているのも微妙だし、だからって、嘘でしたっていうのも問題になりかねないし……まぁ、上手い事利用した方が良いかなって感じで。
「しかし稼げそうか? どうだ?」
「見ての通りさ。中々なもんだろう?」
「そうだな。心配する方がバカらしいくらいに稼いでるな。俺の稼ぎよりはるかに多いんじゃないか? いや間違いなく多いな。スゲェもんだぜ」
「その稼ぎもあの銭の山の内だ。投げ銭ありがとさん」
「そーだなぁ……まぁそれくらいに価値あるもんだとは思うけど」
「だろ?」
そう言って貰えると鼻高々でござる。まぁ褒められてるのは姉と呼ばざるを得ぬ鬼編集な訳だが。アレ書いたのは俺だしな! ……ちなみに、恋愛経験は未だ殆どないので昔の恋愛ドラマ的な展開に仕立ててみました。
「しかし、良いのかと思っちまうなぁ。語り部さんが居ればここの売り上げも上がるから嬉しくない訳じゃないんだけど」
「何が良いのか、なんだよ」
「お貴族様のお抱えっていうのが当然みたいに面白い話、俺の酒場が独占する……」
「あー、成程成程。申し訳ないってか? なんだよ、可愛い事言うじゃないの」
「当然だろうが、アレだけの語り、何処でだって通じるってもんだ! それなのにこんな、ふっつうな酒場にずっと留まらせて……申し訳ないっていうか、勿体ないって思うのは普通だろうが」
お前は編集さんのマネージャーなのかな。
「母ちゃんも最近売り上げが良くなって喜んでるからなぁ。このまま居て貰うのが丁度いいってのは分かってるんだけどなぁ」
「姉さんもここが気に入ってここでやってるんだ。気にするんじゃないよ」
ここら辺でお隣の国まで行く分をしっかり稼げたら、速攻でお隣へ逃げ出すけどもね。いやぁ、本格的にお尋ね者になるまで、どれだけかかるか、って言うかもうそろそろ危ない気がするから。三件目だぞ俺ら。
「それに、別の場所でやるつもりが、無い訳でもない」
「あ、やっぱりそうなのか?」
「そりゃあそうだ。ここがお気に入りだって言ったって、別の所でもやらなきゃ名前もあがらないし。こうやって生計立てる以上、先ずは名声を、って言うのは間違っちゃいないだろうよ」
いうてここには戻っては来ないだけども。さて……こうやって順調に稼いで、後は隣の国まで逃げるだけだ。のんびり行こうじゃないの!
「――あぁ、昨日の結構夜遅くくらいだったか。隣の国までしっかり商いにな。アンタ等には宜しく伝えといてくれって」
「……えっ?」
アンデルセン先生ごめんなさい。
よし、お隣迄行けば安心だな!(フラグ)




