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ポンコツ作家と有能編集、自世界を行く  作者: 鍵っ子
一章:ポンコツ、自世界に立つ
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その発言は見逃さない

「――皆様、お集まりいただいて、本当にありがとうございます」

「お待ちしておりましたー! よっ、俺達の歌姫……歌姫ではないか?」

「歌姫じゃないでしょうよ。まぁ姫ってのは間違いなさそうではあるけども!」

「美人だからなぁ……よっ! 語り部さんっ! 今日も綺麗なお声でお話一つ、聞かせてちょーだい!」


 男性人気って凄いですね。熱気というか、そう言うのが。寧ろ脂汗とか飛び散ってそうで、なんだろう。あそこだけ凄い臭そう。偏見だけども……あれ? これ、前も同じような事考えた様な?


「気にしたら負けだな」

「おう兄ちゃん。今日こそ酒の一杯でも飲んでもらうからなお前」

「こっちも気にしたら負けだな。よし。姉ちゃんが仕事するのを見届けるぞー」

「アンタここ酒場だって理解してる? 気にしたら負けって……」


 っと、椅子に座ったって事は準備が整ったかなコレは。


「では、今宵の物語は少し趣向を変えて……切ない、恋の物語を一つ」

「ほーっ……」

「恋の物語かぁ。なんか、母ちゃんとかそう言う話好きだけど」

「きっと皆さまにも楽しめる話となっているかと思われますので、ご安心を。それでは。始めましょう、題名は……『赤い靴』、でございます」




『……その、赤い靴は』

『っ』


――少女は、病床に伏せる彼の言葉で立ち止まりました。そして必死に涙を堪えます。もう成年の目は、ほとんど見えていない筈なのに。彼は、少女と出会うきっかけとなった、その靴だけは、その瞳に捉えていました。


『君なのかい。教会で、僕を助けてくれた……』

『――私、は』

『君にだけは、見て欲しくなかったんだ。こんな情けない、姿を……やせ細って、君が好きだと言ってくれた……男とは、もう、似ても似つかないだろう……』


――初めて、真正面から会える時。それでも、病床の彼に負担を掛けたくなくて、直ぐに帰ろうとしたのに……それでも、少女は嬉しかったのです。自分が来ていると、気付いてくれた事が。


『……それだけで、私は……』

『待って、どうして離れるのだ赤い靴の君よ。待ってくれ。お願いだ。もっと声を聞かせておくれ。あぁ、霞んで見えなくなる、君の、君の赤い靴が……!』


――その僅かな優しい思い出をよすがに、少女はそっと去っていきます。その血によって染まった赤い靴を履いて。長い旅路を終えた彼女は、そっとその屋敷を後にした。下唇を噛んで、涙をこらえて。




「おいっ……追いかけろよっ! そんなに、そんなになってまでっ! お前の事を追いかけて来たってのに……!」

「馬鹿ッ、男の方だってよぉ、病で死にかけなんだぞ! 無茶できねぇじゃねぇか!」

「だからって、こんな、こんな別れしなきゃいけないなんて」

「爺さん婆さんも、途中で助けてくれたってのに。あんまりだぜ……」


 いや予想以上に受けたわ。予想以上にぐいっと男共のハートを釣り上げているよ。というか編集さんの語り口がいつも以上に迫真なのが凄い。俺もちょっと、自分の作品なのにちょっとだけグッときちゃったもん。


「――ご清聴、ありがとうございました。『赤い靴』、前編。これにて終了でございますれば……後編は、また次回という事で」

「マジかよ……結局夜勤に回されて、来れなかったアイツにも伝えないとな」

「えっ? どうかしたのかい」

「いや、町の警備終えたらここに直行するって奴がいてな。貯めてた金降ろしたりしてたのにって、相当残念がってたよ。本当に惜しいな。これだけの話が聞けずじまいってのは流石に」


 あっ、兵士さん1ダメだったんだ。あんだけ話聞きたいって熱上げてたのに……まぁ仕方ないか。お仕事だったら。


「いやー、今日の話は、今までで一番続きが気になるねぇ」

「そう言って頂けて、幸いでございます」

「それで、大丈夫なのかな……あの、その、な?」

「あら、もしかして物語がどう終わるか、気になりますか?」

「ま、まぁ何時もとちょっと雰囲気も何も違うからなぁ、そりゃあ」

「成程……お気持ちは分かりますけど、物語を結末を先に語ってしまう事程、語り部にとって致命的なことは無いので……申し訳ありません」


 それはそう。とはいえ、そう言われる程嵌って貰ったと考えると、コレは大成功と考えて宜しいな。ってうわ、袋ごと投げつけてくる方もいらっしゃる……! うーん、一昔前のメロドラマ風に仕上げてみたけど、当たりだったか。


「――いやー! ホントに良い物を聞かせて貰ったよ! 恩を返すどころか、貰ってばかりな気がするなぁ、私も」


 ……っと、このタイミングでのご帰還か。


「あら? 貴方は……確かこの前の商人さん」

「やぁやぁ、この前はどうも。商いに行くつもりが、国境に兵士がならんで『暫くは通行禁止だ』なんていうものだからね。でも、ある意味ラッキーだったかもしれないな」

「そう言って頂けると、ありがたいです」


 どうやら小細工は上手い事行ってくれたらしい。いやーこれで小細工がバレないでいてくれれば最高なんだけれども。


「それに……丁度良かったです」

「丁度良かった?」

「えぇ。少しばかり、お願いごとがもう一つ、増えてしまいまして」

「いえいえ、この前の一件の恩、道案内だけでは返し切れないと思って居た所です。私に出来る範囲の事あれば、なんでも」


 ほうほう、何でもと申しましたか貴方。良いんですか。俺達みたいなハイエナにそんな迂闊な事を申し上げてしまって。


「そう言って頂けると本当にありがたいです。それで、貴方のお知り合いに、王家と商売をしていらっしゃる方が居ると思うのですが」

「え? あぁ、そういえばいますね。ソイツが?」

「その方に用がありまして……渡りをつけて貰いたいのです。少しばかり」


アンデルセン先生ごめんなさい。


商いの邪魔した挙句、その人に厚かましくも頼みごとをするクズが居るらしいですよ?

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