プレッシャーで押し潰す
「――いやー、俺此処の警備に回されて良かったぜ。これ終わったら酒場行くんだー」
「おっ、語り部さんの話聞くのか? 奇遇だねぇ、俺もだよ」
「俺さぁ、あの人に投げる為に、貯めてた金、ちょっと出しちゃったよ」
「お前、ちょっとそれはマズいんじゃねぇか!? ……俺も貰った給料そのまま持ってきたけどさ。ひひひっ」
「オイオイお前も人の事言えねぇぞホント!」
……なんだろう。コレは。まさかの反応に『やったぜ、投げ銭が増える』とか呑気に言ってられない。寧ろこれはプレッシャーが増えた気すらするので泣きたい。
「いやぁー、千客万来ですね先生」
「馬鹿野郎! お前そんな呑気に言ってる場合か! ぷ、プレッシャーが……!」
「もう書いてしまったんですから、プレッシャーも何もないでしょうに」
「そ、そりゃあそうなんだけど、にしたって、そんな期待しなくてもいいじゃない。なんだよ貯金降ろして来たって!」
「全く男らしくない。それとも、もしやご自身の作品に自信がない……?」
「――あんだとォ!?」
この編集、スマッシュヒットを叩きだした作家に向かって、なんて煽りをしやがる。さては喧嘩売ってるな?
「うるせえ今回も渾身の出来だ! 舐めてんじゃねぇぞ作家をよぉ! ……あっ」
「左様ですか。では胸を張って皆様にお聞かせしに行きましょうか。パパッと」
「待って! 過言だったかもしれないからもうちょっと待って! ストォップ!」
へ、編集様! お許しを! お慈悲を!
「それで、今日は止めようと思うんだよ。酒場での公演」
「?」
「そんな綺麗なお目目で『どうして?』って顔しないの。分かるでしょ? 幾らなんだってこの状況でさ? ね? ちょっと考えれば分かるでしょう?」
「兵士の皆さまが見に来る可能性でしたら考慮にも値しないどころか、むしろ稼ぎ所だと思うのですが、その辺りはどうですか先生」
「はー貴女の意見は私と全く食い合わない模様で!」
今俺らが大罪人一歩手前って、散々事実確認をしたというのに、どうして貴女は積極的にリスクを購入しに行くんですか!
「一回くらい良いじゃないか! 休むのも立派な仕事!」
「先生は休むのが仕事だと勘違い為されてらっしゃる? 仕事は仕事、休みは休み。もしや熟語の意味がお分かりになってらっしゃらない?」
「マジレスヤメロ」
休みも仕事っていうのはアレだよ。何時も仕事頑張ってるおじさんへの言い訳みたいなものだというのに。それも封殺されたら俺はどうすりゃあ良いと。
「しかしキッチリと仕事はしないといけませんし、休んでいたからといって状況は変わりませんよ先生」
「だからって兵士が集ってるこの状況で態々全力を尽くす事無いでしょうよ!」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず……ですよ、先生」
「無表情でグッと親指を立てるんだんじゃない!」
それで納得すると思うなよコラお前。虎穴どころか地雷原に裸で突っ込むが如き暴挙なんだよそれは。
「ぶっ殺す! って気概お持ちでらっしゃる? 俺を? もしかして?」
「いえいえ。先生を活かすつもりしかありませんよ、私には」
「じゃあ何度も言うようだけど……いや、もう安全は気にしない方向で行こう。分かったよ貴女の方針に従ってやるよ」
「あら、物分かりが宜しくなったことで」
「アンタがやろうっていう理由も分からんでもないからな」
「ほうほう……その心は何処?」
「兵士は高給取りでございますれば、お金を搾り取るチャンス……違うか?」
「――流石。私とお付き合いが長いだけはありますね」
この人、凄い効率厨だからな。稼ぐチャンスと見れば食らいついて逃がさぬとばかり啜り尽くす、となれば。
「まぁ俺も早く脱出したいし……その為に努力は惜しまない男でいたい」
「なるほど。となればもっと追い詰めていっても宜しいと?」
「それとこれとは話が別だバカタレ」
これ以上追い詰めてろ、飛ぶぞ。空の彼方に。俺の意識が。辛くなったら現実逃避するのは得意技だからな! 舐めんなよ!
「分かりました。いつも通りで……それで、仕上がりは如何ですか?」
「上々だ。いきなり恋愛ものにシフトしたからといって、俺の腕に不可能は無い。見事に仕上げたよ。しかし、なんで書いてた奴を恋愛にシフトさせたんだよ。もう一本位だったら別に書けない事無いってのに」
「先生は一本の作品に集中して頂く方が仕事も出来ると思うので」
「……そう言う所は無茶言わないのよな、アンタ」
「出来る無茶と出来ない無茶、それにさせる必要のない無茶を見極めるのも編集の仕事ですから」
成程な。流石編集さんといいたい所ではあるが……問題はその基準が俺のモノと違って大分ガバガバなところなんだよなぁ……噛み合わぬのだ。
「モチーフは、前回も言っていた通り……赤い靴、ですか」
「そうそう。ちょっと結末があれだからなぁ。しかし、元々のラプンツェル案はどっかへと弾け飛んでいったわけだけど」
「しかし、これの流れは結構悲惨な流れの話ですが、ド派手に改変しましたね」
「足切るとか許されんから。俺の小説に。ダメだよ」
それが赤い靴には必要? 知るか。
「――ですが、この改変、嫌いじゃありません」
「とはいえ、一般さん向けに書いた作品だから、兵士受けするかは分からんけど」
「大丈夫ですよ。恋愛ものなんて誰にだって受けるジャンルですから」
「誰にでも受けるなんて怪談くらいだろうよ……恋愛ものだって、内容次第で全然別の人へ受ける内容に変わるんだから」
「それでも一定であればウケますから、大丈夫ですよ」
いや、そうはならんぞ言っとくけど。作家やってて、俺だって経験は積んでるんだよ。どういう作品が誰に受けるかぐらいは分かる。
「個人的な意見だが、俺はウケ無いと思うぞ。絶対に」
「恋愛がウケる、のではなく先生の腕がウケを取るのですよ。その辺りは勘違いしてはいけません」
「えっ、なんで急に褒められてんだろう俺」
分からない。編集さんが分からないんだけども。
アンデルセン先生ごめんなさい。
赤い靴って相当グロイ話なんですよね……




