作家は限界オタク
「――此方になります。会えると良いですね。その金髪の美人さんに」
「私もそうなる事を願っております……あぁ、そういえば。先ほどのお話、あっさりと承諾して下さって、宜しかったのですか?」
「いいんですよ! 先ほどのお礼の代わりにしては、安いくらいです!」
……随分と上手い事やったなぁ。俺、全然考えてなかったし。いや、まだかかると思ってたんよ。正直な話。って、今はその話じゃないか。漸く問題の浜に来れたんだから。
「さ、貴方もお礼をね」
「分かってるって……ホント、ありがとうございました」
「いやいや。しかし、お姉さんの仕事の手伝いとは、本当に姉思いの子ですねぇ」
「まぁ、一人でやるよかは、まだマシだと思っただけなんですけども」
もうシスコン扱いも慣れたもんだ……慣れたっていうか、摩耗して反応する根性も失せたって言うか。
「それでは、ここら辺で。帰り道は分かりますか?」
「えぇ。安全な道を態々教えてくださったのですから覚えていますとも」
「それは安心しました。まぁ、ここら辺は最近、王宮の方々がしっかり盗賊なんかも締め付けてるから、そうそう危ない事も無いと思いますけどもね」
盗賊を締め付けてる、っていうか、多分人魚姫を打ち倒そうとして結果盗賊も纏めて〆た、みたいな感じになったんだと思う。なんてパワープレイ。しかし合理的ではある気がする。
「――さて参りましょうか。って、どうなさりました、ボーっとされて」
「んー? 俺の物語の中の登場人物が有能にやってくれてるのを見ると、なんか嬉しいって言うか」
まぁまぁ、それは兎も角。
「早く行こうぜ。会えるかどうかは分からんけど」
「まぁここで会えなくても、今は何度でも向かう事は出来ますし」
道順覚えたしなぁ。とはいえ、何度も会えるとは限らんぞ。結局タイムリミットがある訳だし……?
「――早速当たりだな」
「居ましたか」
「あぁ。見ろよ、めっちゃ様になるじゃねぇか……」
青い海をバックに岩の上で、座禅を組むその姿が。
「全く、ピクリとも動いてやしない。流石に凄まじいインナーマッスルぅんべ!?」
「正気に戻りなさい。海をバックに座禅は全く様になって居ません」
「そんな事無いだろう!? キラキラ輝いて寄せては返す波、そして対照的なピクリとも動かぬ座禅、静と動! 完璧なコントラストじゃないの!」
「どういう性癖ですか……あっ」
「いや、純粋に綺麗な光景だな、と思って何が悪いんだろう。全部性癖だとかそう言う方向につなげるのは良くないと思うんですけれども?」
「――先生。そちら、そちら」
「そもそも女性の貴方が、そういう何もかもシモの方向のネタにもっていくのは違うでしょうよ。そういうのはね、男性の仕事なの。分かる? 男尊女卑とかそう言う話で無くて。こういうのが許されるのは、元から汚い男性だけなの。分かるかな?」
「あの、ですから先生。そちらです」
なんなんださっきから後ろを指さして。そんなんで気を逸らそうって言ったってそうはいかないのよ。普段からのストレスもある、偶にはしっかりと、こう、お説教を(トントン)……なんだよ、邪魔すんな。(トントン)邪魔すんなって……
「ちょいと」
「どこのどいつだトントントントン、俺はこの子にんぎょひめぇ!?」
「……喧しいねぇ。なんだってんだ」
ウェエエエエエイブかかった金髪! エメラルドグリーンの瞳! かなり濃い黄金の眉毛! 堀の深すぎる顔! ヨーロッパ美人と和風美人のいいとこどり!(イラストレーターへの無茶な注文) 初めて上がって来た表紙を見た時の気分そのまんまじゃないかっ!
「はわわわわわあっわわ」
「正気に戻りなさい」
「二度目の鎮静剤ッ!?」
そろそろ頭凹んじゃうかもしれない。痛い。じゃなくて。
「ったく、なんなんだ。人が体を鍛えてるって所に……」
人魚姫だ。出来る限り、原典に忠実な人魚姫をっていう、俺の我がままで、しかし俺の作風にリファインされた……人魚姫だ。姉御って呼びたくなるような……うわぁ、やっべファンボーイになっちゃう……メッチャ造形意識しちゃう……
「――連れが失礼をしました。こんにちは」
「……はい。こんにちは」
「確認させていただきたいのですが、良くこちらの浜にはいらっしゃるのですか」
「まぁ、ここはお気に入りの場所だから。って、だからアンタ等はなんなんだっての」
「成程、お噂の人物に間違いないようですね。申し遅れましたが、私、然る貴族のお方の元で、語り部を生業としている者でして……」
うわぁ、足がゴツイ……鍛え上げられてる。極まってる。はーっ、ちょっとこの極まり方は犯罪でしょ、これ見たボディビルダーが筋肉のバランスの良さに皆崩れ落ちちゃうから、逮捕よ逮捕。
「……で、さっきからアタシの足を見てくる変態は?」
「気にしないでください、唯の弟ですので。不作法は本当に申し訳なく……」
「そ、そう。難儀な弟をもってるね。んんっ、それで、私に会いに来たん、だよね?」
「はい。噂になって居る程の美人さんという事なので、会ってお話を聞いてみたいな、と。そしていい加減その不躾な視線をやめなさい愚弟」
「オゥッ!?」
はっ、つい理想のヒーローが目の前に出てきて頭が可笑しく……落ち着け、女性の体をマジマジと見つめるとか変態の所業だぞ。
「もう手遅れですけど……」
「――話を聞いてみたいって、私は別に話が得意って訳じゃ……」
「いえいえ、あくまで体験などを語って頂ければ宜しいのです。それだけ整った見た目なら、いろいろ苦労も有ったでしょうし」
「苦労話を聞きに来たってか? 全く良い性格してる事」
うーん、しかし。本人は見つかったとはいえ、やっぱりそこまで反応は良くないかぁ。まぁ、当然と言えば当然なのかね。
「兎も角、勘弁して。そんなお眼鏡にかなう様な話が出来る訳でもないし、そもそも、そんな暇もないんだ……帰って頂戴」
あの真剣な顔。今の人魚姫は、原典に忠実に、忠・実・に! 王子に対して情熱を高めているんだからなぁ……とはいえ。
「そう言わず……私、恋のお話を語る為に、様々な方のお話を聞きたいのです」
「――恋の話?」
「そうです。熱い、熱い。燃え尽きるような、恋のお話を、ね」
こっちにだって、切り札が無い訳じゃないぞ人魚姫様。稼ぎの為と考えたアイデアはいっぱいあるんだ……っ!
アンデルセン先生ごめんなさい。
むかしのえほんのにんぎょひめをさんこうにしました まる




