ラブ=ハグ
「――イケると思います?」
「自信はある。作者として、この先の展開は読み切れた。俺が理想の展開を望んでるっていうなら、これ以上に似合う展開は無い筈だ」
……問題は、ちゃんと視界に入ってくれるかどうかだけども。その為に先ほど一回目の観察位置まで来てるんだ。結構近いし、流石に目に入る、と思いたい。うーんしかしここから見ると相も変わらず、一瞬姿を見せては消えているようにしか見えない。
「タイミングは分かってるな。ハートノックの直前だ」
「はい。それにしても……先生がこんな演出を考え付くとは、正直想定外でした」
「なんでだよ」
「先生は、確かに恋愛的な展開を書いてはいらっしゃいました。しかし、それには必ず恋愛と言うか、別のロマンが混ざっている、一味違う感じの演出をしていらして……けど今回は、まぁ直球に近いと申しますか」
「アレが俺なりの恋愛展開なんだよ。恋愛なんて慣れちゃいないからな」
それでも書きたければ、自分のできる事を費やして、書き上げるしかないんだ。だからちょっと変わった展開になってもセーフなんだよ。
「そんな事より、集中集中」
「そんな事ではありません。先生には、将来的にそう言う恋愛展開も、素直に書ける様になって頂いた方が良いと思いますので」
それこそ推理小説と同レベルで似合わないと思うけども。
「とはいえ、今は確かに気にしない方が正しいというのは間違いないですね。と言うか何故直前なんですか?」
「恥 ず か し い か ら」
自分で考えておいてなんだけど、こんな頭茹だった事するとか正直恥ずかしいと申しますか。そもそもみられてなんぼって言うのがアレって言うか。
「最低限の時間で済ませたいんだよ」
「つまり先生の恥を捨てればもっと成功率は上がると」
「オイ待てそれはどういう意味だ」
「こういう意味です」
「わぷっ!?」
ちょ、問答する前に、しっかりやるなっ! やめっ! 苦しいって言ってんだろうが! 止せ、離せ! まだ早い、早いから! 飛ばしすぎだって!
「何をそんな慌てているんですか。ハグの一つや二つで」
「ハグって結構な事よ!? 自分で恋愛的って言ったんでしょうが!」
「そうですが、今までの先生のあまりにも貧弱すぎる恋愛経験から、比較して考えてという事です」
その言い方はちょっとあんまりじゃないの!? これ思いついた時、結構会心のアイデアを思い付いたっ! やった! 勝った! 完結! と思って居たんだけど、それを貧弱すぎる恋愛経験やらなにやらって!
「ほら、先生もしっかりと手を回して」
「ま、待てっ! まだ早いって……」
「いいから早くなさいこの童貞」
「……はい」
逆らえない。悟った。分からされた。DTって一言だけでこんなに辛いのね。これからDTで男を揶揄うのは止めよう。多分みんな傷ついてる。
「うぅ……どうていだっていきるけんりはあるもん……」
「別に童貞な事をなじってる訳じゃありません。踏ん切りがつかないその優柔不断さを言っているんです」
「あっ、はいすいません」
凄い真っ当に反論食らった。畜生、いじけるのも出来やしないとか。ええい、分かった分かった。切り替えてちゃんとすりゃあいいんだろ。良いよ、今の辺りで踏ん切りもついたってんだ。
「……しかし、マジで姉弟と思われるくらいの身長差だな俺ら。こうして改めて向き合うとさ。そう思うと姉弟設定は、案外とハマっていたいたんじゃないかな」
「良いからさっさと抱き合え」
「スイマセン」
女性がする命令じゃないと思うんだけども……しかし。
「言い出した当人が言うのもアレだけど、すいませんね。こんな事やらせちまって」
「何がです?」
「ほら、別に好きでも無い男性とハグなんて、嫌だろうに」
このハグにはちゃんと意味があるとはいえ、流石に俺も申し訳ないとは思うよ。肉体的接触ってのは男女誰だって、嫌な人は嫌だと思うし……編集さんがどっちかは取り敢えず置いておいて、嫌な事を強いている、という前提で接すれば、それ以上の失礼は先ずないだろうしなぁ。
「――別に気にしてませんよ」
「それでもさ……」
「寧ろ、私としては好ましくあります」
「えっ?」
好ましくって、それはどういう……
「身も蓋もないですけど、先生の身長って丁度いいんですよね……顎を置くのに」
「顎置き代わり……わぷっ!?」
「そら、そろそろ時間ですので、しっかり抱き合ってと」
……この作戦、致命的な問題が幾つかあって。一つはさっきの感情面の問題。もう一つは……俺が! こうして! 編集さんの! 胸に埋まる事なんだよ! あぁっ!? 羨ましいって!? 誰だか知らんが、性欲のサルめ、教えてやるよ!
「……っ! っ!」
「腰をタップしないでください。苦しいのは分かりますが、しっかりと抱き合う姿を見せるのでしょう?」
マジでマスクなんかとは比べ物にならない位息が詰まるんだよ! 天国どころか地獄だわ! だったら埋まらない様に言えば良いのではとは言うものの、仕方ないじゃんしっかり抱き合ってるように見せるにはガッチリ抱き合うのが一番なんだよ!
「――あ、互いに下がって、構えを……あっ」
「んぐっ?」
「目が合いました。今。彼女、顔を赤くしてらっしゃいます」
ほう、ほうほう。
「成功と見るべきか……?」
「結果は御覧じろ、と言う奴ですね。さて。あっ、人魚姫が今、手を大きく広げてハグの体勢に入りました」
――良し勝った。さっさと逃げるぞ。
アンデルセン先生ごめんなさい。
何でハグと言う結論に至ったのか。以下次回。




