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ポンコツ作家と有能編集、自世界を行く  作者: 鍵っ子
一章:ポンコツ、自世界に立つ
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妥協したら終わりな気がする

「……何を思いついたんだよ」

「いえ、一つ気になってはいたんですよ。最初のあの時、そして今回も」

「だから、何が気になってるんだってんだ」

「先生が考え込むときと言うのは、私が修正を入れて、代替案を出そうと頑張って居た時が多いです。王子と人魚姫の初対面もそうでした」


 ……そうだよ。幾らなんでも城の窓越しにチラッ、じゃ風情もクソも無い、って頑張って色々とアイデア出したけど、悉く却下の雨霰だったからな。


「それは編集さんが厳しすぎただけですし」

「いえ。先生の出したアイデアに対して、出て来た代替案が悉く合わないんですから仕方ないです。先の王子が、中庭に向けて飛び降りる、位のアイデアは欲しかったです」


 俺だって出したかったわ! 当時に! でも仕方ないじゃない。思いつかなかったんだからさ。


「……それで、その事と、今と、何か関係があるのか?」

「もしかしたら、程度ではありますが。前回の王子と人魚姫の出会いの場面も、先生が、とても頑張って代替案を出そうとしていた所なんです。ハートノックに関しても」


 いや、ハートノックは別に代替案出そうとは……


「ハートノックに関しては、もっと良い、恋の発芽があったのではないか。そして、その後に泥を啜ってでも覚悟を見せるあのシーンに関しても、『こんな経験をここで活かしたくは無かった』とぶつくさ言っていたのを覚えています」


 そんなこと言ったっけか? ハートノックに関しては、アレで恋に打ち落とす必要があっただけで……あ、いやでも、そうだ。仕方なくオッケーしたんだ。あの場面に関してはそうだそうだ。


「思い出した……ハートノック以上にしっくりくるものが、出なかったんだ」

「それを修正しようと、何時間も粘っていましたね。先生」

「うーん、案外覚えてない事も……で、それが?」

「ここは先生が生み出した小説の世界です。其処に何故来たのか、その辺りも不明なままでしたけど、私の思いついた仮説が当たっているのなら。どうやって実行したのかはともかくとして、どうしてこうしようと思ったか、に関しては筋が通るんですよ」


 あー、ホワイダニットって奴か。推理小説でスゴイ大切な三つの事的な。あー、俺は推理小説向いてないって、編集さんに良く小突かれたっけな……思い出したら悲しくなってきた。


「ぐすっ……んで、何がどうなってるってんだ?」

「ここが先生の生み出した小説の世界なら。修正したい、と思った場所は幾つもあるでしょう。自分が生み出せた最高の作品であっても、『さらに』を夢想するのが作家というモノですから」

「――まぁ、そうじゃなけりゃいい作品なんて生み出せないし」

「だから、先生は自らの手で修正しようと思ったのではないでしょうか」


 自らの手でって……


「直したいポイントを?」

「こんな良い題材なら、もっと書ける、こんな良い作品なら、もっと良い物に出来る。そんな思いが、先生をここへ導いた、とは考えられませんか?」

「――要するに、ここに俺を連れて来たのは……俺って事か?」


 いや、そんな、まさか。


「過程などをすっ飛ばした考え方ではありますが、しかし、結果がこうしてある以上は過程を考える必要はあまりありません。その上で、どうしてこのタイミングのループなのかを考えてみたんです」

「……俺が、もっと書ける、もっと良い感じに出来る、と思ったから?」

「そして、より良くなるまでループからは抜け出せない。どうです?」


 どうです、と言われましても。


「いや、確かにそういう理由なら、俺がここに連れてこられた、と言うのも納得は……いや納得できるのかコレ。してしまっていいのか。分からん」

「そしてその考えに従って動く場合。この王子と人魚姫のハートノックで、先生が満足するように、修正を入れなければならないんです。我々が、今この状況から」


 成程。ふむ。ふむ。その仮説が正しいとあの二人の間で起こる、ハートスマッシュの結末を俺達で変えなきゃいけない訳か……ほうほう、そうかそうか。


「帰ろうか」

「帰れませんよ。ずっとループ内です」

「いやだって! そんな、そんな仮説の為に俺、命を棒に振る様なエゲツナイ事しなきゃいけないんか!?」

「仮説とはいえ、一番可能性のある理由だと思いますよ?」

「ならそう思う根拠を聞かせて欲しい!」


 そうじゃないと命張る気にはなれん!


「まぁ、単純明快な話なんですけど。それ以外可能性が無さそうなんですよね」

「……どういうこったよ」

「だって、先生を態々誰かがこんな所に送る理由、あります? 私は当然ながら、ここに送る位なら先生により書かせますし。色んなものを」


 まぁ、そりゃあそうだろうけども。ここで書くんだよとかも言われてるくらいだし。


「他人じゃなければ、後はご自分でやる位しかないと思いまして」

「いやその思考はちょっとどころではなく短絡的では?」

「じゃあ誰がこんな事するんです?」


 そ、れは……えっと……


「そー……れこそ神様とか?」

「何故先生が想像した世界に? 普通に異世界とかの方が確率があるのでは? 並行世界は無数にある、と言う話もある事ですし」


 うぐっ、それは、確かにそうなんだけれども……! だからって、だからって俺が何か自分でここに来たとか、そんな。


「それに、一番の理由は、もう言ってあります」

「なんだよ」

「繰り返すようですが、このループが起きる前後は、先生がもっとよく出来るんじゃないか、と思って居た場所の前後です。もうそれが答えの様なものでは?」


 ……うぐっ、うぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ!?


「私としては、先生が、自ら、自分のミスを正す為に……」

「あーやめろやめろ繰り返して強調するな! 分かった! 分かったから! 取り敢えずその仮説で行こう!」


 ……仮説であって欲しい。マジで。もしそれが本当だとしたら……俺って、そんな、自分で発表した作品を、今更修正したいなんて……自分の作品を恥とでも思ってんのか無意識の俺は。


「――んな事絶対ない筈なんだが」

「さ、分かった事ですし。始めましょうか?」

「んっ? 何を?」

「ですから……修正。気になって居る場所がハートノックの場面なら、そこを修正しないといけませんし」


 あ、成程……そっか、その辺りは誤魔化し利きませんでしたか……


アンデルセン先生、そして読者の皆様、本当にごめんなさい。


小説を書いてると、本当に妥協したくない時が一杯ありまして……

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