四十周年おめでとうございます
「皆様、本日はお招きいただき、誠にありがとうございます。主人も、自分の雇った者が王城へと招かれるほど評価されて鼻が高い、と申されていました」
さて。訓練場と申しますか。ちょっと広めの場所に、編集さん、で、そこから離れて急遽設置された観客席に、兵士の皆様。で、そこからさらに離れた場所から、この状況を俯瞰しているのが俺。
「いえいえ、此方こそ、です。兵士達も日頃から色々と鬱憤をためておりますからな。娯楽の一つでも、と思って居た所に貴女が快く引き受けてくださって、感謝の気持ちしかありません」
「その鬱憤を少しでも晴らせるよう、努力させていただきます」
まぁテレビなんてあるもんじゃないし、こうやって、語り部やら、歌の歌い手やら、そう言うのを招いて兵士たちのガス抜きをするのは珍しい事じゃなかったらしい、こういう時代は。
「――それでは……今日、語らせていただくのは、皆様に合わせ、一つ。兵士の物語でございます」
「えっ、何時もの奴じゃないのか?」
「はい。期待されていた方には、申し訳ありませんが……題名は、『白雪姫と封じられたリンゴ』でございます」
『白雪姫の頭脳には、世界を亡ぼすほどの価値があるのだ!』
お妃さまは顔色を変えて叫びます。愛しい白雪に、与えてしまった罪の実。その責任を取るために、彼女は決して外の世界に彼女を触れさせまい、と。理想の箱庭に閉じ込めて来た、母の思いが、そこにありました。
『あの子の価値はそんな所には無いのに! あんな頭脳を持ってなお、何物にも汚されぬ美しい心だというのに!』
『その心を! 貴方が悲しませているのだと何故気付かない、王妃!』
『ええい、黙れ小人隊! 貴様等の様な薄汚い傭兵に、あの子を攫わせるものか! 出会え出会え! その者達を切り裂き、豚の餌にしてしまえ!』
そうして、七人の周りに集まったお妃さまの手先は、誰も彼も屈強な男達。しかし小人隊は、それでも己の剣を掲げます。
『彼奴は外に出たがってる!』
『自分がどんな存在であろうとも。守られるだけで、閉じ込められるよりも』
『王妃と一緒に、日の当たる下で! ピクニックの一つでも楽しみたいと言っていた!』
『女の子が泣いてるんだぞ! アンタと普通に過ごしたいって!』
『親子なのに、なんでアンタがそれを分からないんだよ!』
『……その願いを、分からないというのであれば……っ!』
『俺達が! 七人の小人隊が! 全力でぶん殴って、目を覚まさせてやるってんだ! 親バカなお妃様よぉ!』
七人の小人隊は、果たして、愛ゆえに苦しむ哀しい親子の垣根を、打ち崩す事は出来るのでしょうか。
「――その続きは、また次回、という事で」
「「「いやあああああああっ!? そこで!? そこで止める!?」」」
うん。その反応を待っていた。そりゃあね、兵士主人公で、美しい姫と、その母を救うっていうまぁまぁ王道なヒーローものだしねぇ。そりゃあ、ウケるでしょうよ。兵士なら特にさ。
「かーっ……ちくしょう。やっぱいい感じに引きを作るなぁ!」
「考えてやがるぜ、あーどうなるんだよ!」
まぁ、ハッピーエンドが約束されているんですがね。初見さん。ふふ、残念だったな。全く、ヒーローものを初めて見た子供達みたいな顔しやがって。楽しませ甲斐があるじゃねぇの……!
「しっかし、赤の最後の啖呵のカッコいい事!」
「やっぱリーダーだからか?」
「お前何色好き? 俺はやっぱり青! クールだよな本当に」
「緑色、かなぁ……一番、こう、カラーにしっくりくる性格してたよ」
「紫が一番カッコ良くねぇ!?」
「いや、紫はちょっと喋り方が古風すぎるというか……」
そして、当然の様に七人の小人は七色で分けています事よ。ふふ、戦隊物のエッセンスを付け加えたこの男心擽るこの設定、如何かな? 楽しんでいただければ幸いでございますが?
「――いやぁ、語り部さん。楽しかったですよ」
「ありがとうございます。そう言って頂ければ幸いです」
「いやぁ、私は黄色の小人が好みでしてね。あのなんとも言えない、底抜けな明るさが」
「左様ですか」
――とりあえず、こうやって大うけなら何とか潜り抜けたかな。はぁ、取り敢えずコレで首切りだけは凌いだかな。俺が付いてこなきゃいいんだけど、いやぁ、知らぬ土地に一人って言うのは得策じゃないし……?
「――伝令から……」
「っ!? そいつは本当か!?」
「間違いない。城の中に居る兵は、全員集結だとよ」
「タイミング的にはラッキーだった。丁度慰安が終わった所だからな」
なんだ? 外から兵士が……兵士を全員集結? と言うか、なんか見ちゃいけないもの見たみたいな顔してない? 外から来た人。一体何を見たってんだ。
「隊長!」
「なんだ馬鹿者! 今はお客人に礼をしているんだ。失礼のない様に」
「奴です! 城周辺を張っていた兵士からの連絡で、数分前に、城周辺の河を駆け上って此方へ向かってきている、との事で!」
「――何? この前、アレだけ王子とやり合って、傷も負った筈だが」
「しかし、何人も目撃者がいるので」
……か、河を駆け上って来てる、ですか。そ、そんな豪快な方いらっしゃるんですね。というかいや、もうその辺りは現実逃避は出来ないか。うん。
「先生」
「どうやら、来てらっしゃるようですねぇ……噂をすれば、って奴かな……?」
影って言うか、もう実物が来てるみたいだけど。しかし、そうか。時期的に二回目の来襲はこのタイミングだったのか。
「――語り部さん。それと、弟さん、で宜しかったでしょうか?」
「は、はい。あの、なにか?」
「その、ですね。少しばかり城の方へ。ちょっと……した、山賊と申しますか。そんな奴らが、此方にズラズラと。もしやすれば、此方は危険かもしれないので。どうぞ、城の中へ」
……多分山賊じゃなくて、もっと恐ろしいもんだと、創造主的な勘が告げてんだよ。例えば、そうだな……海の覇者、人魚姫様、とか?
アンデルセン先生ごめんなさい。
白雪姫との相性は、抜群かなって。




