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ポンコツ作家と有能編集、自世界を行く  作者: 鍵っ子
一章:ポンコツ、自世界に立つ
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最近の主人公なんて牢屋スタートスタンダードでしょう

「案外掴まえやすかったな……」

「あぁ、アレの関係者、身内っていう話だからどんな化け物かと」


 ――あぁ、牢屋って、掴まるとこんな絶望的な気持ちになるんだね。知らなかったなぁ今度小説に生かせればいいかなぁハハハハハ……いやぁあああああああっ!?


「出して! 許してぇ!」

「良いか! そこで大人しくしていろよ!」

「急いで首を刎ねねば……人魚姫の関係者だ、七度殺しても殺したりないという事は無いだろうよ。その後は火炙りか」

「いや先ずは、此方に向かってくる奴の対処をせねば……」

「あの、お兄さんたち! 待ってください! 出して! 俺なんもしてません! 無罪なんですってば! ちょっとおおおおおおお!? 無視しないで戻ってきてぇぇええ!?」


 だ、ダメだ。まるで話を聞いちゃあいねぇ……っ! 急に仕事場から外に放り出されたと思ってたら……コレだ、先ず説明を求めたいんですけど!


「あ分かったコレドッキリだ! 編集さーん! 編集さーん! 良いですよもう出てきてこんな凝った事して! ビックリしましたよー! はっはっはっはっ! ねー編集さんってば! そもそもなんでこんな事したんですかねー! 教えて欲しいなぁ!」


 返事がないですねー!


「そっかぁ成程、コレってば現実かぁ! そっかそっかぁ! そっかぁ……」


 俺は、唯の一介の小説家だってのに。おてんとさんに顔向けできないような仕事はしてないってのに。ただ人魚姫を極限までマッシヴに書いただけだってのに。それが大罪だったっていうのか……


「チクショウ」


 良いじゃないか、健康志向強めの世の中の理不尽になんて負けない位には強い人魚姫を書いたって。我が子には世の荒波に負けないようにさ、自分みたく苦労しないようにさ、逞しく育って欲しいっていうじゃん。それに近いのよ……


「それを……結構不満な修正とか……あの編集マジで、二メートル級長身スーパーグラマラス金髪クール系美人とかいう性癖ド真ん中じゃなけりゃ何度ひき肉にしようとか思った事か! 書きたいように書かせろってんだ! 恨み抜く、絶対許さんからなぁお前ぇ!」

「――恨み抜く、ですか」


 ………………???????

 あ。アレェ? おかしいなぁ? い、今一番聞こえちゃあいけない声が、したような気がしたん、です、けれ、ど…………おひっ! み、見下ろされているッ! いつの間にか背後に立たれているっ!


「私は先生の為を思って助言をしたつもりなのですが」

「……あひゃああああっ!? 編集さぁん!?」

「おはようございます先生。早速ですが、こんな所に来てまで締め切りからの逃走ですか?」

「しょんなことありまへぇん……しゃぼるつもりなかったでしゅう……」


 どうして……どうしてこの人と一緒に放り込まれてるの!? 待って、だったら一人きりだった方がまだ万倍もマシなんですけど! チクショウ、地獄の缶詰92時間耐久を思い出しちゃう! あぁっ……! 旅館の窓に、窓に!


「た、た……たしゅけてっ! ここからだして! この人と一緒にしないで!」

「どうしてそんな事を言われなければいけないのか甚だ不満なのですが」


 くっ、冷たい目で見やがって……俺はそんなんで興奮するドMじゃねぇんだよ残念だけども! そもそもアンタに不満に感じる資格はねぇ!


「何度言えばわかるの!? 貴方顔色一つ変えずに鬼みたいな要求するじゃん! 人の限界ギリギリを攻める天才じゃん! アンタだったらここでも普通に小説書けとか言いそうだよ! 牢屋よ!? 俺捕まってるのよ!? 無罪の筈なのに!」

「寧ろ完璧な密閉空間なので、書く事に集中できて幸いなのでは?」

「机もパソコンも何もねぇってんだよ! 書く事すら出来ねぇわ!」」

「……それもそうですね。先ず書く環境からでしょうか」

「先 ず は 書 く 環 境 か ら で し ょ う か ぁ !?」


 たっ……立ち眩みが……っ! く、堪えろ俺。頑張れ! ここで押し切られたらマジでここで書かされることになっちまう! 此奴ならやりかねん!


「……よし、ちょっと話を聞いてくれ編集さん」

「はい」

「牢屋!」

「はい」

「隅っこの死体!」

「はい」

「我々は囚われの身!」

「はい」

「イコールどういう答えが出るか答えよ!」

「取り敢えず今日は七千文字頑張ってみましょうか」

「な な せ ん も じ が ん ば っ て み ま し ょ う か ぁ!?」


 分かってた……俺の家の合い鍵を……勝手に作って……俺の家に乗り込んでくるような奴だもん此奴……俺じゃ、太刀打ちできねぇ……っ!


「っ……あぁそもそもだ! なんで俺は牢屋に入れられてんだよ!」

「先生は色々教育委員会に文句を言われそうな作品を書いていらっしゃったので、それが教育委員会の逆鱗に触れたのでは?」

「そ ん な 好 き 勝 手 言 わ れ る 作 品 書 い て な い!!」


 胸張ってお天道様に捧げられる作品書いてるんだよ! 皆に誇れる全年齢版熱血バトル小説じゃい! 一切センシティブも無ければ、暴力描写だって出来るだけ気にならない様にさぁ! どう足掻いてもアンデルセン先生には土下座案件だけれども!


「こっちはちゃんと考えとるというのに! アンタは何の容赦もなく! 色々と好き勝手修正して! だとすれば責められるべきは俺だけじゃなくてお前もだろうが!」

「私は先生のアイデアを形にしたかっただけなので」

「赤ペンはペンより強しなんだよ」

「私は赤ペン以外にもいろいろ使いますけれど」

「そ う い う 問 題 じ ゃ ね ぇ ! 分かったぞ? さてはお前がこの檻に入れたんだろう! そうと言えこの鬼編集!」

「いいえ、私に先生を檻に入れるような趣味は……?」

「どうして黙った」


 おいマジでコイツがここに入れてくれたまであるんじゃねぇか!? だとすればお前色々覚悟決めて我が拳で砕く……のは無理でも揉むぞオラ。どことは言わんけれども全力で揉みしだいてやる……! 多分それしたら死ぬが!


「……いいえ。何か聞こえたような」

「誤魔化すな。何も聞こえねぇぞこちとら」

「いえ、何か金属音のような……? あ、これでしょうか」


 ん、何を拾った? って、それは……


「鍵?」

「鍵、ですね」

「えっ、ちょっと待って何処の……何処の……」

「此方の牢の、ですね……あ、ホラ開きましたよ」

「話を最後まで聞けお前! そしてサラッと開けてんじゃない! ほ、ホントマイペースだなお前ホントなぁ……!?」


 く、くそっ。こんな牢屋に都合よく鍵が落ちてたんだぞ! ちょっとは怪しんでくれ頼むから……あ、ちょ、まって。待てって! 行くな! ズンズン先に進むな! 見張りとか居るかもしれないんだぞ! 危ないから! 止まれぇッ!


アンデルセン先生ごめんなさい。


作家の方々にとって一番恐ろしい相手を一緒に連れて来てみる暴挙。

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