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ポンコツ作家と有能編集、自世界を行く  作者: 鍵っ子
一章:ポンコツ、自世界に立つ
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なお、劇中でキメているのはロバです。

「こんな余興をやってるとは、随分と面白い酒場だ」

「いいや、俺達がやってる訳じゃなくて。つい最近。というか昨日からここに来てるんだよ。語りの練習に来てるんだってさ。あの子」


 ――やっべーい気が休まらない。と、隣に昼間の兵士が! なんで、なんでこんな所に居るんだ!? それは、貴方が、迂闊に、外に出てきて、自分の小説の感想を、生で感じたいな、とか、言ったからです。


「ほーん?」

「どっかのお貴族様に、物語を聞かせる役割の人なんだと」

「あー……居るわそう言う人。寝物語が無いと眠れない、貴族の方って言うの。ガキみたいだよなぁマジで」

「貴族の方々は我々よりも圧倒的に重責に苛まれているのだ。必要な事なのだろう」


 い、いやここはプラスに考えろ。ここでバレなければもうコレからもそうバレることは無い筈だ……っ! 万が一話を振られても、問題はその後だ!


「しかし、ここの男達が相当楽しみにしてる辺り、余程面白い話なのか?」

「へへっ、お貴族様が聞くとは思えないような、まぁ吹っ飛んだ話だとも。寝物語にアレを聞かされちゃ逆に眠れない」

「……オイそれって」

「なに鼻の下伸ばしてんだアンタ。そんな話じゃねぇよ」


 ……うーん、発想が若い、というか女子に猥談tって言うのが完全にサルのソレなんだよなぁ。もうちょっと何とかならんかね。


「まぁまぁ聞いてみろってんだ。俺だって楽しみなんだよ」

「じゃあ酒のアテにでもしながら」

「って違う! お前、ここには」

「いいじゃないの。昼間はずっと話を聞きっぱなしだったんだから。ちょっとくらい休んでも罰は当たんねーさ」


 いや、寧ろバチ当たってくれ。バチ当たって出来れば、体調とか崩して寝込んでくれれば一番楽。その間にスタコラサッサと参りますので。


「――それでは皆様、今日もお集りいただき、本当にありがとうございます」

「っしゃ来た来た! 始まるぜぇ」

「最近娯楽に飢えてたもんでな。これで大したもんじゃなかったら奢れよオヤジ」

「おい! やめろ! 集るんじゃない!」


 取り敢えず、兵士たちが編集さんの語りに集中してくれると思いつつ、取り敢えず頭の中で冷静に考えるのだ……編集さんにあんだけ啖呵切ったんだ。やらないとシバかれる。捕まったらシバかれる前に俺は断頭台だけど。


「今回も、私のつたない語りで、楽しんでいただければ。幸いでございます」




『くそっ、老いぼれ風情が……大人しく死ぬのを待ってりゃいい物を!』

『老いぼれ風情が、か……のう若いの。老いぼれが、大人しく、早く、誰にも悟られぬように死なねばいけない理由が何処にあるというのかね』

『あぁ!?』


 蹄を打ち鳴らしながら、老いたロバは一歩、踏み出しました。


『ワシはのう、こうして歩けるようになったのも、初めからではない。昔は良い相棒に恵まれて、地面を四足で踏み締めながら、荷物を運んでいた……』

『この……語ってんじゃねぇぞ!』


 その余裕のある姿に、盗賊は酷く怒り狂っていました。相手にもされていないのか、と渾身の力と恨みを込めて。振り下ろしたのでしょう……しかしそれを、右手の蹄で、あっさりとロバは払い除けました。


『しかし、相棒が先に逝ってしまってからは、ワシはどうやって生きればいいのかと途方に暮れた。相棒と仕事をしている時が、ワシの生きがいだったからのう』

『このっ、このぉおっ!』

『そうして、呆然と、ただ息をして、生きているだけだったワシは、ふとある日気が付いたのだ。こうやって、無気力に生きているだけのワシを、果たして相棒はどんな目で見ているのか、とな』


 盗賊の鋭い刃も、ロバは全然怖がりません。丁寧に、鋼鉄の蹄で捌き、弾き、決して受ける事はありませんでした。


『ワシはもう一人。しかし、天国からきっと相棒は、ワシの事を見てくれている。だったら相棒を心配させぬ為にも、ワシは精一杯、生きねばならぬ』

『くそっ、たれが……!』

『そんな相棒に、精一杯生きていると示す為、ワシはこうして、色々とやって来た……両足で歩く練習などしてみたりもな。そうだよ盗賊、お主の振るう剣に当たるよりも、お主の様な悪党を見逃すような生き方こそが、ワシは怖いのだ』


 そうして、思い切り振り下ろされた剣を、同じようにしっかりと弾いて……盗賊はロバの前に、隙だらけの顔を晒しまいました。其処を、ロバが見逃すはずがありません。反対の蹄を、しっかりと振りかぶって……


『故にこそ、ワシはお主を殴る。覚悟せい』




「――こうして、年老いた動物達は、その小屋に皆で住まう事にしました。自分達の余生を、悔い無きものにする為に、彼ら四匹は友となる事を決めたのでした」


 ――拍手。

 一人が上げたら、他のも一気に。良い感じだ。昨日と同じ様に、酒の入った輩から始まり、後は他の奴らも、ポンポンとおひねりを投げている。


「ねーちゃん! 面白かったぞー!」

「はぁ……俺、母ちゃんに誇れる生き方してっかなぁ」

「してるに決まってんだろ! してなくても、明日から頑張りゃあいいんだ!」

「うん……そうだな! おーし、明日からもガンバるぞぉー!」


 コレで収入は問題ない。取り敢えず、一日は凌げるとは思う。問題は……隣か。


「――っすぅ……あぁ……」

「どうした」

「故郷に、幼馴染が、居て……俺、アイツに誇れるような、生き方してたかなって」

「今からでもすれば良い。ロバ殿も、長い時間をかけて、誇れる自分になったのだから」

「あぁ、そうだなぁ……っし! 張り切って仕事しないと! 明日から、しっかり例の脱獄人を探さないとなぁ!」


 うわメッチャ反応してくれてる。若い方ちょっとウルっと来ちゃってるし。そんな感動させるつもりも無かったんだけれども。


「――なぁなぁ、そこのお二人さん」

「あ?」

「ん?」


 まぁ、好都合っちゃ好都合だ。今だったら話もしやすいだろう。ふふ、君達にはとても申し訳ないが、その覚悟は空回る事となろう。ふふ、弁えたまえ、君達は一太刀にて屠れるような創造主の前に居るのだぞ……うん。自分で言ってて迫力ないな。


「昼間、怪しい男は居ないかって、触れ回ってた兵士さん達だろ」

「そうだが……」

「俺、見たぜ。怪しい奴。昨日からこの村に来てた奴さ」


 ――さーて。ここでミスればお縄に付く。シナリオ通りに、行って欲しいが。


アンデルセン先生、ごめんなさい。


老ロバ、怒りの鉄拳。

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