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ポンコツ作家と有能編集、自世界を行く  作者: 鍵っ子
二章:ポンコツ、新天地に立つ
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幕間:たった一つの違和感

「……やられましたね。一応追い払う事は出来ましたが……どうします」

「どうもこうもあるまい。大人しく王子の元へと戻り、報告するしかあるまいよ。だが今の我々が王子の元に向かう、と言うのもおかしな話だが」

「我々の事を穏便に済ませる為に、王子は向かっているのですからね」

「国を思っての野心を持つあの方と、野心に全てを傾けた王が居る故の妙だ。このままお互いの行動が嚙み合わねば、我が国は割れるか……それとも」


 ――男達に下された命は、単純な物だった。王子にこれ以上勢いづかせる事を阻止する為に人魚姫を、始末する事。此度の一件も、王子と姫の居る隣国の居城の一つに人魚姫を向けさせない……という、言い訳を被った、威力偵察である


「いや、今はそれを気にするべきではないか。しかし……アレは全く。とんでもない化け物だ。始末、となると相当に労するぞ」

「王に今からでも方針を変える様にお伝えしますか?」

「いや、厳命とまで言い切られたのだ。恐らく王は考えを変えぬ」


 彼……王の側近を努める騎士は、自分で解決できる範囲の事なのだろうか、といささか疑問に思ってしまっている。王子に頼ればその分彼に勝手を許す、と自らの手勢で始末する事に拘っている事に些か、無駄ではないか、とも思えてならない。


「となれば……やれるだけの事はやるしかあるまい。幸い、王子はしばしこの国に留まる事となった」

「そりゃあそうでしょう。あの王子が、人魚姫なんていう格好の獲物を逃す訳ない」

「しかし隣国の君としては、我々がウロチョロするのも気に入らぬのだ。王子が好き勝手するのを快く思う訳がない。自由には動けんだろう。まぁ、それを分かっていて、王子を我々のしりぬぐいに向かわせたのだろうが」


 自らの国の主導権争いに巻き込まれた隣国としてはたまったものではないが、騎士としてはそれをどうにか出来る立場ではない。


「――戻りました」

「奴の足取りは」

「海の方に逃げて行ったのを、分隊が確認しましたが……それ以降は、全く。そもそもあの速さで動く人型を追えというのが無茶ではありますが」

「ふむ、そうか……分かった。分隊にも戻ってくる様に伝えてくれ」

「了解」


 そう言って、彼は大通りを見つめていた。松明と炎を素手で掴み取り、王子へのプレゼントとして使うなどという、とんでもない力を見せた、超人。先ほどまで火を若干嫌がっていたというのに、言葉一つ聞いただけでアッサリとそれを克服して見せた、あの胆力。


「肉体だけでは無く、心も強靭。全く、笑い話にもならんな」

「しかし、王子にはなんと説明したものか」

「平謝り以外の選択肢があると思うか?」

「……ありませんな。我々は所詮庇われる側ですから。地に頭を擦り付けるのが精々と言った所でしょう。久しぶりに、頭が軽くなりそうです」

「常に我らの頭は枯れ葉よりも軽いだろうよ」


 自分達が無駄なプライドに固執すれば、その分、任務に支障が出るというのを騎士と言う特権階級に居て尚、男は理解している。男は、世の中という物を実に良く知っているのである。


「しかし、あの姉弟……あれらの余計な一言さえなければ……と思ってしまいますな」

「言うな。王子と姫が出会う、等と一体何処で聞いたのか知らんが……子供なら見たくなっても仕方ないだろう」

「まぁ、姫と王子の御姿など、私達も目の保養としたい所ではありますが」

「不敬だぞ。そんな事言っている暇があったら、念のために見回りの一つでもしてこい」

「はっ、申し訳ありません。しかし……本当に、無念ではあります」


 そう、溜息を吐く部下を見て、空気を読んで欲しい、と言うのも分からないではないがとは思うが……しかし、とここで騎士は考える。実際、空気を読んで欲しいというのは間違いないが、しかしそれは自分達にとってはそう。しかし……


「(……あそこであの発言があったからこそ、あの女は振り切った動きをしたのではないだろうか。あの女は。それが何故なのかは分からんが)」


 問題は、タイミングだ。あそこ迄いいタイミングであの二人が来る、というのは都合が良すぎる気がするのだ。それこそ。


「考えすぎが……しかし……」

「どうされました?」

「――あの姉弟、一体何方に逃げて行った?」

「えっ?」


 あり得ない可能性ではある。しかし……一応、一応調べておく程度の積りである。と言うより、何かのついでで調べておいて、この奇妙な可能性と想像を、あり得ぬ、と切り捨てられれば良し、と言う事で。


「あ、いえ。見ては居ませんけど……」

「そうか……これから見回りに行くのであれば、その姉妹の特徴を伝えて何か知っているか聞いてみてくれないか。居なければ……それでいい。見つけたら一応話を聞くように」

「は、はぁ? 分かりました。行ってまいります」


 そう言って、走り出す部下を尻目に、幾らなんでも考えすぎか……とは、彼自身も思うのである。しかし、しかしながら……彼には一つだけ、気になる事があったのだ。


「……あの女性……」


 弟、と呼ばれた男に覆いかぶさって許しを乞うていたのが印象的で、金色の髪に恐ろしい程に整った豊満な……それこそ、男好きしそうな体形で。だが、騎士はそれらを思い浮かべて尚、全く違う一点が気になっていら。


「気のせいか……あの声……しかし、あの、横顔は……」


 熱が入っている様に聞こえる声。しかし、一瞬、僅か一瞬見えた横顔……恐怖に怯え切った顔にしては汗も一つも掻いていない様に見えたのだ。兵士と言うのは、どうしても恐れの対象になりやすく、そんな自分達に詰め寄られた相手の表情というのは幾度も見た。


『わっ……わたしはなにもっ! して、おりっ! ませんよ!』

『ゆるしてください、たすけっ、しにたくない、いやだぁっ!?』

『ひっ、はっはっ、あぎゃあっ!?』


 中には声にもならない程に怯え切っていたりと千差万別の表情、その中で共通していたのは、恐れと焦りから限界になった人間の流す、脂汗。それに関してだけは、必ず彼は見た事があったのだ。


「だが……」


 彼女に関しては、チラッと見た横顔だけではあるが……()()()()()()()()()()()()()()()()()、気がしたのだ。まるで、その怯えた動きも、声も、全てが完ぺきな演技だったようにも。見えたのだ。


アンデルセン先生ごめんなさい。


一切触れられない主人公。

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