元気はつらつ
「――あっ! あそこに見え……」
「煩すぎます。静かにやりましょうとコレで何度言えば分かるんです?」
「ふぅぅん……しゅみません……ゆるちて……」
熱の入った演技をしようと思うと、どうしても声が大きくなってしまうんです……私だって、声を抑えてひっそりやりたいんです……本当に……
「五週目かどこかしらで大きな声を出し過ぎて普通にバレたんですから、それを忘れないでください。幾ら捕まってもループしてくれて帳消しとは言え、無駄な時間を過ごすのは良くありませんから」
「俺も練習する度に掴まるのはちょっと勘弁だよね……」
因みに、マジで『うわぁあああああなんだおまぇええええええっ!』とか言って松明こっちに向けて来た時もあったし、確率で燃やされそうになるとか恐怖でしかない。幾ら超緊張していたとしてもやり過ぎでは?
「いや、いきなり後ろで大声が上がったら、そんな状態だったら限界化して襲い掛かっていても不思議じゃないかな……?」
「だからと言って松明を押し付けるのは宜しくないと思いますけど」
「そうなれば火達磨だもんねー。笑えねぇ」
……つっても、正直な所、これ結構高いテンションでゴイゴイ押し切らないと辛いのよね。ハッと我に返った途端が最後。もう続けられなくなると思うのである。
「――良し、開き直って全力で行こうじゃないか! やっぱり!」
「だからやめてください。なんでそんな凄いスピードで間違った方向へ突進してしまうんですか。また捕まりたいんですか。今度こそ火達磨になりたいんですか」
「だって止まったら死ぬんだよ!」
「止まったら死ぬってマグロじゃないんですから……」
実際マグロかもしれない。止まって我に帰ったら砕け散るかもしれない。精神が。そうしたらもう何も出来なくなるかもしれない。もう一回立ち上がる勇気は残されていない。多分この場所で泣きながら地面に転がる。
「兎も角、ちょっと熱は込めさせてもらいたい。練習にもならん」
「……まぁ、声をちょっと張り上げるのはまぁ良いですけれども……」
「よし、じゃあいいな? すぅぅぅううううう……! あっ!!!! アレがそうだね姉ちゃん!!!!」
「だからそれですよ脳味噌が死んでるんですか貴方は」
「――ひぇっ!? なんだ!? なんだよ!? 何だってんだ!」
あっ
「極めたぜ……」
――諸々の地獄は越えた。何回か焦げた。羞恥の悪夢も、キッチリ超えた。もう今の俺に、怖いもの割とあり。このまま振り切って限界超えてしっかり演技を仕切った結果、俺が一体どうなるのか……想像もしたくない。多分限界超えて爆発して果てる。
「――準備は出来ましたか?」
「イメージはバッチリ、と言いたい所だけども……あー、気乗りせん! 周りからそうみられることは無いとはいえ……客観的に見たら……地獄だ……! 個人的な……いやホントに悪夢だよ……」
「先生、それは特定の人々を馬鹿にしていませんか?」
「俺の滑稽さを嘲笑ってるからセーフでしょうよ」
本当に滑稽としか言えないんだけど、何も知らなかった昔の俺を今の俺が鑑みるとか。普通に羞恥で顔面発火で人間マッチになるまである。寧ろ全身に広まって火達磨。そうなったら騎士にでも抱き着いて重症にしてやろうか。
「ま、実際やったら全身火照ってる男が抱き着いて来るとか言うそれこそ地獄みたいな案件になるけれども……それこそ向こうに精神的ダメージ与えられそう」
「その筋の方が良い寄って来た、と考えると確かに色々来ますよね」
「因みに俺も致命的なダメージを負うからやらないけどな!」
「ソッチ方向も開拓してみましょうか? 先生でしたら濃い描写の良い小説が書けると思いますよ? 素質はあると思います」
「その素質は喜んで宜しいのか……」
広い範囲をカバーできるって事で喜ぶべき……いや、ダメな気がする。俺はそっち方向で稼ぎだしたら負けだと思う。そういう人たちを差別してる、って言う訳じゃない。寧ろ尊敬してる。
「そして尊敬してるからこそ、描写に一切の妥協はしない、そして……描写がねちっこくなって言った挙句……うわあああああああああ!!!」
「何発狂してるんですか」
「見えるんだよ未来が! そう言う界隈の人達もドン引きな描写するような未来が! こんな童貞がそっち方向に力振り出したら、もう、えらいこっちゃやで!? もう女子絶叫レベルよ!?」
「そうした方がウケは良いものですよ?」
「……もういい。始めよう」
これ以上は心を余計に痛めつけるだけだ。先に進め俺。大丈夫だろう。俺は強い子だから大丈夫。多分だけど。
「……大通りに飛び出すんだよな?」
「えぇ。一気に。後は声を張り上げるだけ……簡単な仕事です」
「方向は向こうであってるか? 間違えたら、あーいや……そこまで気にしてもしかたないかうん。やろう」
「間違ってませんよ。時間稼ぎは止めましょう先生。行きましょう」
はーい。さて……やるか。やってしまうのか、もう。良し、俺は役者。芝居の天才。もうそんくらいの感覚で行こう……! ここは舞台袖! 俺は此処から羽ばたいて伝説の役者になる! 良し! オッケェ―!
「――姉ちゃん! こっちこっちー! こっちだってー!」
「あらあら、そんなに焦らないで。お城は逃げないから焦らないで。ね」
「やだよー! 俺めっちゃくちゃ待ってたんだからさー!」
出来る限りはつらつに……!
「だって、お城でさ、綺麗なお姫様とカッコいい王子様が合うんだってさ! もしかしたら見れるかもしれないんだぜ!」
「ふふ、そうね、そうだと良いわね……ってあら? あ、ちょっと! 危ないわよ!?」
「うわっ!?」
ぶつかって脇を駆け抜け……そしてババっと抜け出して! コレは小柄な俺の体が良い感じに生きた! 若干哀しい!
「あっ! アレがそうだね! 見えたぜ姉ちゃん! お城だ! お城が見えた!」
さぁ……仕事開始だ! 子供の如く! 全力で! 別人と見紛うばかりにやるんだよ! でもって視線を……城に向けさせる……!
アンデルセン先生ごめんなさい。
このテンションを私が維持し切れるか。




