品性不良
『本当に良いんだな? 俺は責任取れねぇぞ!? マジで! マジで行くんだな!? 知らねぇぞ!? あいつ等女と見れば見境なく襲い掛かってくるロクデナシ共だぞ!?』
との事だったけど……それは店とは関係ない筈なんだけどなぁ。なんでこんな、一見しただけでも普通に帰りたくなるような荒れ具合をしてるんだろう。アレかな、属性が同じだから引き寄せられたとかそんな感じかなぁ。
「……あの柱とか、何あれ。傷付いてない場所の方が少ないじゃんか。何をどうしたらああなるんだ」
「あの辺りちょっと小突けばそのまま倒壊しそうですね。無法地帯って感じが出てます」
「いや、あ……っと、どこだっけ。どっかしらを旅した時のスラムよりもひでぇぞ」
「そうなんですか?」
「あそこはゴミとか汚れとかが酷かっただけだからなぁ」
あばら家と見間違う様な荒廃具合じゃなかったよ。しかし、ここに入るのかぁ……負のオーラが奥から溢れ出して来てるけど? あっ、看板がズレた。
「帰らない?」
「帰りません。参りますよ」
「そっかぁ……じゃあ仕方ねぇなぁ。ちょっと、取り敢えず仏にでも祈りを捧げてから突っ込むからちょっとだけ待っててもらえる?」
「祈る前に足を前に踏み出しましょう。その分前進できますよ」
「言ってる事は正論なれど実行は難しいんじゃ……あ待って!? 行かないで!」
「ここで待っていても構いませんけど?」
「それは流石に無理だっての!」
ここで一人で放置とか! 後で角から出て来た厳つい男の人に人質にされるフラグじゃんけ! 流石にそんな間抜けを晒す程馬鹿じゃない。とはいえ、内部に行って二度と出てこなかったとかも怖いけども……!
「――失礼します」
――ギロッ
わぁ皆一斉こっち向くじゃん。凄い連帯感。これを発揮されて一網打尽にでもされたら洒落にもならないだろうなぁ。帰りてぇえええええ……!
「……んだよテメェ」
「ここは俺らが貸し切ってんだよ……さっさと出てけ」
「……く、腐り切ってる……!」
目が! 目が! ヤバい! 今にも唸り声上げて突進して来そうな位! でろんとしてるよこの人たち! やだ! 関わり合いに成りたくない! 暴力とかそう言う問題じゃなくて、この人たちに関わってたら俺たち迄引き込まれそうな気がする! 何処かへ!
「へんっ……んぐぐぐ姉さぁんこれ帰った方が……!」
「其方の方々、一つ、我々の話を聞いて頂けませんか?」
「オォォオオオオ恐れしらずぅぅううう!?」
ヒッ!? 待ってこっちみた!? どの瞳も濁ってやがる……っ! 無理無理無理無理冥府に引き込まれる! 本当にここはこの世なのか!? いいや違うね、ここはあの世の一丁目だ! 助けて! 魂引っこ抜かれる!
「ヒィイイイイ帰ろう帰ろうって!」
「あぁ、此方の喧しいのは気にしなくていいですので」
「――なんだ、よく見たら別嬪さんと……青臭いクソガキか。なんだ、俺らの食い物になりに来たのかい、お二人さんよ」
「いえ。私はあなた方にお願いがあって来たのです」
「ねぇ見て!? 目の前のお歴々の目!? 普通じゃないって分かんない!?」
あぁダメだ! もう無数の視線に俺ら、ロックされてる! 許して! 私を逃がして! 後編集さんも逃がして!
「落ち着いてください」
「おうおうそうだぜ。あんまりピーピー泣いてると、〆るぞ小僧」
「はい永遠に黙りますね」
NOと言えない日本人だからね。NOと言っても仕方ないのだよ。決して悪漢たちの圧力に屈した訳じゃないないから許してくれねぇかな。いや、誰かに言い訳してるわけではないんだ。自分自身に対して危ないから無茶はいけないと諭してる訳でして。
「すいません。色々と話の腰を折ってしまいまして……コレはお詫びと、前金です」
「前金……?」
「はい。こちら、お受け取り下さい」
はい、ジャラっと。音が重い! 割と貯めておいた奴をガッツリ使っておりまして。これの所為で、紙が買えないレベルで資金不足だった訳だったけど……今となってはこれでも足りるのかなぁ? そもそもこんな黄泉の住人みたいな面構えに金で通じるのか!?
「――っ、金だっ!」
「良い音したぞ! どんくらい入ってるんだ!?」
「おい慌てんな馬鹿野郎共! そっと拾え、零すんじゃねぇぞ!」
めっちゃ通じてる……あの腐り切った目がめっちゃ輝いてる。馬鹿みたく単純じゃないコイツら。めっちゃ嬉しそうだなぁ……残念ながら可愛げどころか恐怖しか感じないけども。なんだったらもっと怖くなったけども。
「す、すげぇ……大金じゃねぇか!? 良いのかい本当に!?」
「えぇ。それは貴方達にお願いごとをする為のお礼ですから」
「……お願いごとぉ?」
「はい。それも、貴方達にとって、実に気に入らない人に一泡吹かせる為に……本当に簡単な事だけで宜しいので。協力して欲しいのですよ」
あっ、立ち上がった。こっち来る。あの、すいません。ヤバいんじゃないですか流石にちょっと……いや、でも、さっきより大分目に輝きが戻ってるって言うか。さっきより危ない雰囲気は失せてる。その分肩いからせてチンピラっぽい態度が現れ始めてるけど!
「俺達に何しろってんだ? 姉ちゃん」
「簡単ですよ。私達がここに居た、と証言して下さるだけで宜しいのです。それも、私達が頼んだ日にちだけ」
「……それだけか?」
「えぇ。それだけです。それだけすれば、貴方達を余計に痛めつけた……お節介な騎士様に一矢報いる事も、容易いかと思いますが」
あっ、目が攣りあがった。反応したって事は、やっぱりそうなのか。この人達、騎士にボッコボコにされたのか。
「――あのすまし顔の野郎にか」
「その通り。如何ですか? お話、聞いて頂けますか?」
「こんだけ好条件だされちゃあ、なぁ? 良いぜ、こっち来いよ」
「いえ。私は此処で……弟が、怯えてしまうので」
「ちょっ!?」
俺を出汁にああああああやめてこっち見ないで私は無害です……「ちっ」待って今舌打ちしなかったこの人たち!? マジでガラ悪!? 酒場の連中たちがマジで品行方正に見えてくるよ!
「良いぜ。そこで話しな」
「ありがとうございます……それでは。互いにいい取引となる様に誠心誠意、努力させて頂きますので」
アンデルセン先生ごめんなさい。
本当にヤバい状態にある人達って、『あっ、コレ関わったら引きずり込まれる』っていうレベルなんだそうです。




