偶の反撃
「――所で、その騎士ってどういう方なんですか?」
「モデルはアンタって辺りで察して欲しいんだけどな編集さんよ」
「? それはどういう意味ですか?」
「ホントアンタは……良いか!? 俺は、頭脳明晰で、暴力以外が完璧な人物、っていうのを書くにあたり、一番いいモデルだと思ったのが貴女だったの!」
「先生は私をそういう目で見ていらした、と?」
「えぇ。全くそうでございますわ!」
実際そうなんだもんこの人。暴力以外は完璧なんだもん。いや、性格にも若干難有りな人ではあるけど。でもそれはスペック面だけを参照するなら関係はないから。性格は実直な騎士で、スペックは、まぁ。その時俺が見てた編集さんを最大限参照した。
「その所為か、動かしやすいキャラだったよ。本当に。この人がやれば、たとえ後付けでも本当にそこまで考えてるみたい……的な感じに見えたしな」
「左様ですか。そんな賢い人間ではないと思うのですが。私」
「貴女様は実に賢うございますれば。でだ」
それがそのまま物語の中でも反映されてるとなれば、とんでもない難敵だ。まるで古くからの知り合いが如く、人魚姫の動きを予測し、邪魔し、捕らえようとしたんだから。俺達の事なんて掌の上かも知れない。
「俺達、見つかったらヤバいよなぁ……同じ立場だったらどうする編集さんは」
「――こんな砦に住んでる人物ですよ? 人魚姫の任等関係なく、不振がって捕らえようとするのではないでしょうか。それこそ、国に仕える騎士であれば、その安寧を願うのですから、隣国との関係改善を狙って、そのトラブルを解決しようと考えても」
「成程ね。オーケイだ」
見つからない方が良いって言うのは分かった。となれば、俺達は未だこの砦からコッソリいろいろ仕掛けてかなきゃいけない訳か。
「ふふ、フィクサーなんて出来るような人間じゃないんだけどなぁ」
「向こうでもフィクサー染みた事はやったのですし、今回もやれる……と、楽天的に行きましょう。考えすぎてもいけません」
そうかぁ。そうだなぁ
「そう思った方が気楽に行けるか。俺としては町に出ないのに、メリットもあるっちゃあるしなぁ。町での評判が実にアレですし。俺ってば」
「それだけ軽口叩けるなら平気ですよ……町での活動はお任せください。先生は、ここで存分に対策を練って頂ければ。ここまで上手い事、ご自身のキャラ達を出し抜いてきたその創造主としての手腕、見せてください」
「……そんな風に言われると、大層なモンに聞こえるんだけどなぁ」
要するにキャラの特性把握からの状況に合わせたメタ読みだから、別に俺じゃなくてもキャラの事を良く知ってる人だったら出来ると思うんだよなぁ。うん。
「ま、精々キャラを作った本人として、やれる事は致しましょうぞってな」
「そうですね。そしてやり過ぎた結果、そのキャラクターたちにこの世界を操るフィクサーとか言われて消されないように注意いたしましょう」
「やーめてよその嫌な想像……」
めっちゃある奴やんそれ。なんか、上位的な存在を始末するっていう覚悟の決まった人に蹂躙される奴じゃんかよぉ。凄い超次元的な存在を、最後には血みどろになりながらも意表ついて殺戮するやーつじゃぁん……
「俺そんな超人でも無ければ、世界を意のままにする力も無いですよぉ……」
「そうですね。だからこそ、先生はこそこそと、石の裏に張り付く虫の如く、目標に向けて迫って行くしかないんですよ」
「言い得て妙。石をひっくり返されたらもう後は潰されるしかないその詰み具合とか」
ふ、しかしああいう虫って、見つかっても案外しぶとく生き延びるってなもんだからなぁ、其処は見習っていきたい所ではある。その悲しいレベルの生命力というか、儚さは真似したくはないけれども。
「で先生早速ですが、そのフィクサー的な知識から、何か騎士様を切り崩す一手か何か思いつきませんか?」
「思いつく訳が無いんだよなぁ!!!」
「あら即答ですか先生」
当たり前だってんだゴラァアアアアア! 誰を参考にしてると思ってるんだこの鬼編集さんよぉ! 分かってくださいよ!?
「俺の天……んんっ! まぁ、力関係的に俺が下位に回らざるを得ない相手を参考にしたんだぞ! 無理だよ!」
「何を言いそうになったのかは、まぁ聞かずに置いときます。その上で言いますが」
「……何ですか編集さんなんでそんな目を覗き込んで来るんですかやめてやめて」
「ひねり出してください」
「まぁそう言うわなぁ!」
貴女はいっつもそうなの! 無茶ばっかり私に言って! 無理だとか無茶だとか、そんな言葉を気にしないで! NOは一切気にしないの! YES以外は気にも留めないと来てるの! ビックリしちゃう!
「良し分かった! やってみましょう見せましょうってんだ!」
「おや、今日は言い訳とかしませんね。その調子ですよ先生。全ての要求に対してYESと言えるようになりましょうね」
「そうなると詐欺とかの要求にもYESって言っちゃうのでは?」
そう言うのが良くないからNOと言える日本人って言葉が出来たんですよ。とはいえ、編集さんとしては俺が全部YESっていう方が都合がいいのは間違いないだろうけど。
「ああいえ、全ての要求というのは、私からの、だけです……♡」
「ちょっと可愛げ見せてんじゃねぇマジで。騙されんぞ」
「まぁそうでしょうね。でも良いですね、先生が、私からの要求にだけはが全部YESって言ってくれるって」
「……不穏な発言してんなぁ」
この人に限って絶対にありえないけども、なんかヤンデレチックな波動を感じる。まぁ万が一、どころか億が一位にこの人が俺にそう言う感情を抱いたとして……まぁ、俺は先ず抵抗できなさそうだなぁ。とか。いや、蛇足だな。
「別に不穏では無いのでは?」
「そうかぁ?」
「そうですよ。というか、こんなに先生をサポートする健気な女性に対して不穏とか言うのが失礼な気がしませんか?」
んー、それは多分そうだとは思うんだけども。健気なサポートか、と言われればちょっと……コレも前に言った気がするし……良し、偶にはちょっと反撃してみよ。
「――そうだな。俺をずっと支えてくれる、優しくて、頼りになる女性にこんな事言うのは失礼だわな」
「……えっ?」
おっ、ちょっと呆然としたな? やったやった。良し。コレで留飲も下がるってもの。
「あ、いえ、そのっ」
「寧ろ、俺も編集さんの期待に応えられる様に頑張るんで、サポートヨロシク!」
「……分かりました」
まぁ、これで期待に応えるっていう大義名分出来ちゃったから、頑張らざるを得なくなってしまったんだけども。ま、いいか。良い表情見れたその分の代金と考えりゃ上等だ。
アンデルセン先生ごめんなさい。
褒めるというのは武器になる……もはやこれは常識……




