過去を超えて往け
「いったん離れましょう。一応彼女とは顔見知りですし、声をかけられる可能性は一応あります。知り合いだとバレれば非常に面倒です」
「それは実に了解。急ごう」
幸い、こっちに色々人が見に来てて人が集まってる。ここをすり抜ければ目立たず抜けられるはず……って、ここまでピンチに追い込まれ過ぎて、逃げる時に目立たない様にしないとなぁ、的な思考が染み付いてる。
「ふ、我が事ながら悲しいねぇ……」
「しかし、待ちの人通りが多い理由がコレで分かりましたね」
「さっき、リンゴが減ってたって言ってたよな? 多分、人魚姫がその辺りで暴れたんだろうな一回。で、ズルズルとズレて行って、あの辺りでの乱闘と化した」
とはいえ、俺達にとってはありがたい事だ……しかし、喜んでばかりも居られない。こっから離れたらやるべきことが、アホの様に増えたよ。
――二部の始まりは、人魚姫が隣国に入り込み、それを負って王子の国の追手が入り込み……そして同時期に、王子と隣国の姫が出会う処から始まる。勢力は三つ、王子の国の不法な侵入と、それに反発する隣国、そして人魚姫の自由奔放な行動が絡まって……
「一部より、大分複雑な話になる訳だな」
「まぁ慣れてきたからこそ、色々試してみようって思った結果からですけど」
「まぁそうな? で……後どれ位だと思う?」
「恐らくは、後一週間も経たずに始まりますよ」
まー、やっぱそうだよなぁ。人魚姫が来ちゃったもん。
「確か王子が隣国を訪ねて来たのは、他諸々の理由があったとはいえ結局は」
「人魚姫への追撃によって発生する軋轢への対処だからなぁ」
で、人魚姫が、今さっきこの国で堂々と騒ぎを起こしたって事は、もう王子の国には伝わる筈。で、王様としては、王子より先に自分の国の脅威を排除して、自分の威を誇りたい訳ですよ。
「で、序に軋轢を処理する役割で王子を拘束できる、と。手柄を立てさせまいと」
「しかし王子がそれを良しとする訳がない。そもそも、自分の渾身のクロスカウンターで潰し損ねた、という心残りからのスタートですから、彼女と明確な決着を付けないとどうしようもないという事で」
「で王子は、隣国の姫との会談をする……フリをして、自ら人魚姫と戦う為に動き出す」
で、こっからなんだよなぁ。問題は。隣国の姫様は、自分の国に急に入り込んで来た無礼者に対して、国を挙げてしっかりと文句言って、追い出すくらいの勢いだった訳だ。
「この二国が出て来た時、仲が悪い、くらいは設定したからな。だから隣国の姫様としてはその仲の悪い国に対し一発かましたろ、っていう気持ちもあったんだ」
「しかし王子はその意気ごみを完全にスルーしてくれやがったと」
「まー、姫様としてはお怒りだ。国と自分のメンツを叩き潰された訳で」
しかも王子は自分の守るべき国の中で好き勝手しようって訳だ。姫様からすれば『絶対に許されねぇよなぁ!?』レベルの問題行動。王子に付きまとって文句を言う訳ですがその様子を見た人魚姫からは、全く違った光景が見える訳だ。
「人魚姫としては、気になる男が、なんだかとんでもない美人と一緒にいて、しかも良く見てみたら自分と同レベルの蹴りの使い手な訳だ」
「気にならないという一言が全力で嘘になるレベル」
だって自分の属性を全部食い潰す勢いで来るお嬢様だからね。で、その二人に近づこうとする人魚姫に対し、下手に干渉して国と国との仲がこじれるのを防ぐ、っていう大義名分を得た王様が全力で邪魔を。具体的には刺客を。
「いやーぐっちゃぐちゃ。ここに干渉するんだって!! 笑えるね!!!」
「控えめに行っても難易度クレイジールナティック」
「編集さんも思わずキャラ崩壊全力。しかし気持ちは分からんでもない」
外交問題も絡む超変則的な矢印が無数に絡まった所に超有能編集とそれを打ち消すレベルの凡人ポンコツ作家のデコボココンビが介入する? ジョークよ。
「……やりたくないなぁ……」
「私も気持ちは分かりますが、しかしやらない選択肢はありませんので」
「そうなんだよなぁ」
内容が複雑になった事で、そりゃあ何処に干渉すれば何処に影響するのかって言うのが分かりにくくなっているっていう。頑張って見所作ったり、ここはマズいだろうと思って修正してしまった結果、アキレス健を寸断するとか言う事態になりかねないという話。
「――まず、各陣営の把握は必須レベル。其処の関係性に関して間違いなく……っかしいなぁ、異世界転生ってもっと気楽なもんだと思ってたんだけどなぁ……こんな現代でも胃が痛くなるような事なんでやってるんだろ」
「どこの空の下も、世知辛さは変わらないという事ですよ」
「そうか。異世界転生も現代思考って事だな」
そういう系の小説って読んだ人に娯楽と夢を届ける為の物だったと思うんだけどもなぁその内情はこんなもんかぁ。
「其処からどういう風に魅せるのかも、作家の勝負のしどころかとは、個人的には思いますけど……そこは兎も角」
「話を戻すか。一番単純な形で考えるのであれば……」
二国間と、その王族二人の関係はさっき言った通り。でそれを見た人魚姫の反応もいつも通り。ここで整理してしっかり考えるべきは……王族の刺客連中。要するに騎士になる訳だけど。
「アイツ、人魚姫を止める事だけを考えてる訳じゃないから厄介なんだよ。ちゃんと現状を考えて、隣国との関係を悪化させない様に器用に立ち回っているっていう」
「その騎士が整えた盤面を崩せば」
「その盤面自体俺が考えたもんではあるが……碌な事にならないのは間違いない」
当時の俺、そうとう筆が乗ってた頃だからなぁ。二部が始まって、新キャラを動かさなきゃって物凄い焦ってて、その勢いで沢山の展開と物語を書いて、で編集さんに選定されてたから、正に精鋭の話なんだよなぁ。
「ふ、過去の俺を乗り越えるとか、熱い展開じゃないか」
「もっとドラマチックな展開で過去を乗り越えるのが良いですけど、今回の場合はトライ&エラーを狂ったように繰り返す事になりそうですね」
「あぁ……」
必死に修行して覚醒するとかじゃない。セーブ&ロードで只管に経験を積む、なんともごく普通のやり方というか。まるでゲームが如きじゃないか。
「――ま、一番お似合いのやり方じゃないか? 俺には」
アンデルセン先生ごめんなさい。
どうして物語の世界のの主役を主役に据えられないのか……




