第1話 そうして俺は
投稿頻度はまちまちです。
かなり見切り発車で書いております。
全てがフィクションかどうかは皆様のご想像にお任せ…
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「うん...もう大丈夫だから...いいよ...」
つ、ついにこの時が来た・・・!
周りが次々と卒業していく中、自分ももちろん経験済みだと嘘をついて話を合わせてきた。
ああいうのは動画だけの話だ、実際はどうだ、やれ演技だ演技じゃないだ、と知らない身からすればどっちでもいい談義を聞いてきた。
しかし!ついに俺も明日からは実体験を以て会話に参加できるのだ!!!
話題のマッチングアプリで出会って、初めて会って飲んだその日にホテルとか、ちょっと色々すっ飛ばしてる気もするが、
もうこのご時世そういう順番とかにこだわる人も少なくなっているだろう。俺も今この場に置かれてみるとどうでもよくなってきた。
ちゃんと可愛かったし、話も合うし、おまけに年上。終わった後から自分の気持ちを伝えても遅すぎるということはないと思う。
「わ、分かった。それじゃあいくよ...」
慌てて備え付けのゴムを手に取り準備をする。クソ、意外と取り付けるのが難しい。
まさかこんな急展開が待っているとは思わなかったから自前のを用意する暇はなかった。何となく財布に入れていたのももう3,4年前の話だ。
つ、ついに、、、!つつつつついに!!!!
「...あれ?ちょっと待ってね!?」
緊張のせいか、戦闘態勢に入っていた息子が急に元気を失くしはじめる。
まずい、非常にまずい。あんなに日々シミュレーションしていたのに。さっきまでめちゃくちゃ元気だったのに。
「ち、ちょっと先にトイレ行かせて!」
そういってキョトンとした顔を浮かばせる彼女を置いてトイレへ駆け込む俺。
大丈夫、まだいける。一旦落ち着いて、息子が元気を取り戻すのを待つんだ。
大丈夫大丈夫、初めてで失敗なんて、絶対に無い。
落ち着け落ち着け、さっきまで目の前にいた彼女を思い出せ!お気に入りの女優を思い出せ!
大丈夫........!
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「・・・・・はぁ」
だめだ、あの事件からもう3か月も経つっていうのにまだ昨日のことのように思い出してしまう。
なんで俺は...いや、俺の息子はあの時急にスリープモードに...いつもはあんなに元気なのに...まだピチピチの20歳なのに...。
DTは高校生くらいでささっと捨てられないと下手すりゃずっと引きずるとは聞いたことがあるが、当時はそんなの話半分に聞いてゲームばっかりしていた。もしかしたら話を半分も聞いていなかったかもしれない。
今、神様に『一回だけ時を戻してやる』と言われたら間違いなく高校生に戻る。そしてもっと青春を謳歌して、存在したかもしれない彼女とキャッキャウフフしたい。
「あ、時を戻すならドラ○もんでもいいのか。いやでもあの道具ってタイムパラドックス問題とかあるのかな?」
「東雲先輩?ため息ついたかと思ったら急にドラ○もんってなんですか?とうとう頭おかしくなりましたか?」
「・・・チッ、うるせぇ宮前。男にはいろいろあるんだよ。」
「だってそうやって時々ため息つくの、もう2,3か月でしたっけ?
聞いても答えないし、挙句タイムパラドックスとか言い始めるし、いい加減ヤバいですよ。」
あと、宮前じゃなくて『こころ』って呼んでください、そうぶつぶつ言いながら絡んでくるこいつはバイトで後輩の"宮前こころ"だ。大学進学に機に鳥取から単身で上京してきたらしい。
うちにバイトとして入った時には既に見た目は都会の女子大生、といった感じだったから適応能力は高いんだろう。
浪人はしていないとのことなので年齢は下のはずだが、俺が年上だってたぶん分かってない。生意気なんだけど不思議と気にならないのは彼女の魅力の1つだろうだろう。
「気になるだろタイムパラドックス。あと毎回言うけどそんなにため息ついてるか?」
「はぁ...。めちゃくちゃため息ついてますよ。女の子だったら絶対話聞いてほしいサインです。
しょうがないから聞いてあげてるのに、答えないから気になるしイライラするし。」
「・・・何でもないって。お前も1人で上京してきて大変なんだからまず自分の心配してろ。」
「じゃあその大変なアタシに心配されてる東雲先輩はやっぱりヤバいですね!あとアタシはしっかりしてるから平気ですし、お前じゃなくて『こころ』です。」
宮前の言葉に何も返せず黙ってしまう。
だって仕方がないだろう!夢の脱DTだぞ!男として一皮剝けて!次の日、大学に行ったら周りから『なんか変わった?』とか言われちゃって!否定しながらも内心お腹と背中がくっつくくらいふんぞり返って!その1日は何をするにも上手く行くはずだったのに!
それ以来ずっとこうだ。ため息については自覚がなかったが、頭の片隅にずーっと彼女とその情事のトラウマが残っている。
大学に入学した1年半前の俺は、まさか20歳を迎えたときにこんなナーバスな気持ちを抱えたままDTでいることを想像しただろうか?
大学デビューも果たしたし、女の子が多い文系を選んだし、あとは時間と環境がどうにかしてくれると高を括っていたのだろうか?
そう、認めざるを得ない。
せっかく直前まで行ったのに。
予習もいっぱいしたのに。
あとは勇気と元気と下心だけだったのに。
俺は、緊張して怖気づいて、
DTをこじらせたのだ。